自衛隊の「自己完結」能力――演習の真の目的とは
自衛隊が用いる「自己完結」という言葉は、単なるスローガンではない。これは、食事や飲料水の確保、コミュニティの構築、病院の運営に至るまで、人間が日常生活を維持するために必要なあらゆる機能を、自衛隊自身の装備・人員・専門職能によって自立的に完結させる能力を意味している。
こうした自己完結型の能力を維持・向上させるため、自衛隊では日常的にさまざまな訓練や演習が行われている。一般には「演習=戦闘訓練」といったイメージが先行しがちだが、実際には生活支援や指揮統制など、広範な分野が訓練対象となっている。

訓練と演習には明確な違いがある。訓練は隊員一人ひとりの技能や練度を維持・向上させるための日常的な鍛錬を指す。一方、演習はその訓練成果を試す「本番」であり、実戦を想定したシナリオに基づいて部隊全体の運用能力を検証する場だ。
演習では、統裁官と呼ばれる指導者が各部隊の行動を採点する。小さな判断ミスひとつで部隊全体の行動に支障を来すこともあるため、幹部自衛官をはじめ、指揮官たちは高い緊張感をもって臨む。演習の評価は、昇任や賞与などにも直結するため、真剣そのものである。
また、演習にはコンピューターシミュレーションによる「図上演習」も含まれ、現地展開せずに指揮統制能力などを磨くケースもある。
実地で行われる演習では、戦時下を模した環境下で部隊行動が求められるため、期間中は家族との連絡も遮断される。恋人からの連絡が一時的に途絶えても、それは演習の一環。終了すれば再び日常が戻る。そんな「非日常」の訓練を経て、自衛隊は現実のあらゆる事態に備えている。
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演習の種類とさまざまな演習場
多様な任務に備える自衛隊演習――広大な演習場と訓練の実態
陸上自衛隊における演習の多くは、全国各地に設置された演習場で実施されている。その規模や機能は多様で、陣地構築や塹壕掘削といった基礎訓練に特化した小規模施設から、戦車砲や自走榴弾砲、対戦車ミサイル、無反動砲、迫撃砲、さらには地雷爆破を含む施設科の特殊訓練まで対応可能な大規模演習場まで、訓練内容に応じた選定が行われている。
演習場の立地もさまざまで、地方の部隊にとっては比較的近隣に演習場が配置されていることが多い。一方、都市部、特に東京都内に駐屯する部隊は、演習場までの移動に半日を要することもあり、展開そのものが一つの訓練となっている。
毎年春先には、演習場内に無断で立ち入る一般市民による山菜採取が確認されている(東富士演習場などのように正当な権利を持つ地権者が入れる日がある場合もある)。戦車や火砲の実弾射撃が行われる訓練区域への立ち入りは極めて危険であり、自衛隊は演習開始前に戦車の空砲を用いて大きな音を出すことがあるが、結果的にそれが演習開始の合図となり、注意喚起になる場合もある。実際、74式戦車の空砲一発で慌てて山から出てくる事例もあるという。
北海道では、陸自最大規模の訓練拠点となる「北海道大演習場」(総面積9,600ヘクタール)や、米海兵隊も利用する「矢臼別演習場」(道内最大規模)などが知られている。こうした広大な演習場では、複数部隊が民間輸送手段も活用して展開する「協同転地演習」などが行われ、広域での作戦行動に即応する能力が試される。
また、本州においては、静岡県に位置する「東富士演習場」(9,000ヘクタール)が最大規模を誇る。富士山の裾野に広がるこの訓練場には、総工費25億円を投じて建設された市街地戦訓練施設も整備されており、模擬交戦装置(バトラー)を用いた戦闘訓練や、89式小銃型エアソフトガンによる近接戦闘(CQB)訓練が実施されている。
このように陸上自衛隊の演習は、地形・規模・装備に応じた多層的な訓練環境のもとで実施されており、平時からの実戦的な備えが着実に進められている。
火力の粋を集めた年一度の大規模訓練――東富士演習場とその周辺の現実
陸上自衛隊が年に一度実施する大規模訓練「総合火力演習」は、静岡県の東富士演習場を舞台に行われる。同演習場は、米海兵隊キャンプ富士と隣接しており、在日米軍との連携訓練の拠点ともなっている。
東富士演習場を訪れる米軍部隊にとって、キャンプ富士は事実上の受け入れ窓口となっており、演習を通じた相互運用性の向上が図られている。ただし、演習後には米軍が使用した装備品を現場に置き忘れるケースも散見され、M4カービン銃のような小火器まで回収対象となることがある。これらは陸自が責任をもって管理・返却しており、その対応には日米間の信頼関係が垣間見える。
また、東富士演習場では「実弾下潜入訓練」施設も存在する。これは、隊員が機関銃射撃や爆発の直下を匍匐で通過する過酷な訓練であり、リスクを管理した上で、極限状態における精神的耐性を高める目的で行われている。
爆薬の炸裂によって周囲の土砂が飛散することもあり、極めて実戦に近い緊張感が特徴とされる。
演習場には廠舎(しょうしゃ)という簡易宿泊施設も
東富士演習場には、訓練参加者が宿泊するための簡易宿泊施設「廠舎(しょうしゃ)」が設けられている。これは屋根と壁、寝台のみの簡素な構造が基本で、必要最低限の環境が整えられている。施設によっては売店(PX)が併設され、訓練用品や清涼飲料水、菓子類などが販売されている。ただし、酒類や焼き鳥などの販売は行われていない。
一部の廠舎には、米兵に配慮したアメリカ式の設備が導入されており、洋式トイレの一部には“ドアが膝下からない”仕様が採用されているという。
参考文献
http://www.higashi-nagasaki.com/c2008/C2008_22_132.html
http://www.mod.go.jp/gsdf/neae/neahq/pastevent/sennyu.htm
「状況」とは演習時における仮想戦闘
演習においては、「状況開始」や「状況終了」といった専門用語が使用される。「状況」とは仮想戦闘を指し、演習の開始時には統括する部隊長が「状況開始」と宣言。その後、ラッパの音とともに部隊が突撃を敢行する。演習終了時には「状況終了」との号令が発せられ、全体の動きが収束する。これらは防衛省・統合幕僚監部の用語集に記載されており、実戦では使用されない訓練用語である。
この「状況開始」という言葉が、近年ではアニメや漫画の中で実戦開始の合図として誤用されることがあり、ネット上ではその起源についての議論も交わされている。一部では、1993年公開のアニメーション映画『機動警察パトレイバー2 the Movie』が最初ではないかという見方もあるが、「演習を装った演出だったのでは」との声もあり、真相は明らかになっていない。
なお、陸上自衛隊では天候等により演習の継続が困難と判断された場合、「状況中止」、また演習を再開する際には「状況再興」といった用語を用いている。これらの言葉は公式な術語であり、演習の統制を明確にするために活用されている。
航空自衛隊においても、滑走路が爆撃などで使用不能となった事態を想定した「実爆訓練」が行われており、自衛隊全体での危機対応能力の向上が図られている。
こうした訓練や用語の実情は一般にはなじみが薄いが、仮想戦闘における規律と構成を知ることで、演習の持つ現実味と緊張感をより深く理解する手がかりとなるだろう。
訓練や演習では装備品等の紛失や水没に気を配るのが大変

もし訓練や演習中に、国から貸与されている官品の装備品を紛失してしまったら、当然ながらその後には捜索が待っている。とりわけ山間部や水域での訓練では、一度物を失うと発見が困難になるため、そもそも紛失しないようにするのが肝心だ。薬莢一つですら全て回収されるのだ。
そのため隊員たちは、装備品――特に落としやすい小物類をヒモやカールコードなどでベルトにしっかりと結びつける「縛着(ばくちゃく)」という処置を施している。銃剣であっても例外ではなく、ベルトとヒモで確実に結びつけておくのが基本だ。
また、銃の細かい部品が脱落しないように、ビニルテープでぐるぐると固定するのもよく見られる手法である。89式、64式、そして特に62式機関銃などをよく観察すると、ストックの端や2脚と本体の接合部などに黒いテープが巻かれているのがわかるはずだ。これは部品の脱落を防止するための、実にポピュラーな現場の工夫である。
とはいえ、万が一、銃そのものを丸ごと紛失してしまったら……。そんなことはあってはならないのだが、過去には実際に89式小銃が1丁、訓練中に所在不明となり、いまなお見つかっていないという例もある。
こうした紛失リスクとは別に、レンジャー訓練や水路潜入訓練など、水辺での任務では装備品の防水対策も欠かせない。着替えや無線機、GPSなどの電子機器は水濡れに弱いため、プラスチックケースに収めたうえでビニルテープで完全密封したり、市販のジップロックを活用してパッキングするなど、念入りな防水処置が行われる。ジップロックはその携帯性と信頼性から、隊員たちにとっても愛用品のひとつとなっている。
ちなみに、自衛隊の駐屯地内にある売店(PX)でも、こうした防水パック類が販売されており、多くの隊員が活用している。実際、陸上自衛隊第2師団「第2偵察隊」のホームページには、天塩川を使った全長14kmの水路潜入訓練の様子が掲載されており、隊員たちは89式小銃を構えたまま、冷たい河川の流れに身を浸し、地形を読みながら慎重に前進していく。その姿からも、装備の管理と対策の重要性がよく伝わってくる。野営と天幕
陸上自衛隊の演習において、野営と天幕はほぼセットのようなものである。野営とは要するにキャンプ、そして天幕はテントのこと。つまり、野外にテントを張って寝泊まりするというわけだ。
ただし、夏の大学サークルの男女が、ビールやバーベキューを楽しみつつ、川に飛び込んで騒ぐ「リア充キャンプ」とはまるで別物である。ここでは、パンツからシャツ、戦闘糧食、携帯用雨具、携帯えんぴ(スコップ)、ナイフ、ランプなどをすべて詰め込んだ重たい戦闘背嚢を背負って長距離を行軍し、そのあとでやっと、粗末な野戦食をとり、テントの下で寝る――という過酷なスタイルだ。
「自然を楽しむ」などという甘い言葉とは無縁の、厳しくも現実的な野外生活。それが自衛隊の野営である。
野営生活でつらいのは、夜。虫の鳴き声がうるさくて眠れないこともあれば、時にはヘビが天幕の中に入り込んでくることも。こうした事態を含めて、天幕は陸上自衛隊の演習では不可欠な装備とされている。
一方、航空自衛隊では少し様子が違う。たとえば、地上でペトリオットを展開する部隊でも野外展開の演習は行われるが、空自の場合は天幕を張らないことが多い。その代わりに「自活車」と呼ばれる専用車両が用意されており、内部にはトイレ、流し台、ベッド、シャワー、給湯器、冷蔵庫、テーブルまでが完備されていて、まるでキャンピングカーのような快適さを誇る。この“空飛ばないけれど快適すぎる基地”に、陸自隊員が思わず羨望のまなざしを向けるのも無理はない。
とはいえ、陸自も黙って見ているだけではない。近年ではトイレカーや野外洗濯車、野外入浴セットなどの装備も充実しており、過酷な環境下での生活を少しでも快適にしようとする努力が続けられている。
演習で食うメシはどんなの?
さて、そんな野外演習の生活で、隊員たちはどんな食事をしているのか?
別項でも触れたように、自衛隊の訓練や演習では「戦闘糧食」や、野外での調理が可能な炊事車両「野外炊具」によって用意された食事が支給される。
また、必要に応じて「基本食」または「増加食」として、携行食も配られることになっている。
元自衛官の著書『そこが変だよ自衛隊!: 体験的自衛隊始末記 (光人社ノンフィクション文庫 594)』には、かつて陸自の演習で「コンバットレーション」とカタカナで袋に書かれた、通称“おやつセット”が支給されていたという記述がある。その中身はというと、魚肉ソーセージ、みそぱん、ういろう、パック入りのりんごジュースなど、栄養と保存性を兼ね備えた軽食が中心。ちょっと真似をすれば、自宅やサバゲー会場でも手軽に“自衛隊風オヤツ”が再現できる。
さらに、自衛隊独特の支給品として興味深いのが、「凍結乾燥梅肉粒」。これは、梅肉を粒状に加工し、アルミパックに封入したもので、オヤツというよりも夏場の訓練での塩分補給を主な目的としている。酸味と塩気で体も気分もリフレッシュ――さながら戦場のタブレット菓子、といったところか。
野戦築城
軍隊では、防御陣地の構築作業を「築城」と呼ぶ。ただし、これは中世のようなマジの城郭を建設するという意味ではなく、敵の攻撃から部隊を守るための掩体(えんたい)や障害物を設けるなど、いわば土木作業を指す。とくに陸上自衛隊の野外訓練においては、「タコツボ掘り」がその象徴的な作業として知られている。
画像の引用元 https://www.mod.go.jp/gsdf/kurume/2024gallery/202427_118_13.html
この「タコツボ」とは、兵士が身を隠すために掘る防御用の穴のことで、正式には「掩体構築」と称される。掘るべき掩体には、小銃手が一人で収まる1メートルほどのものから、戦車が進入できる大規模なものまでさまざまなタイプがあり、隊員はそれぞれに対応した技術を習得していく。
訓練では、班長がまず模範として自らタコツボを掘ってみせ、手本を示す。熟練した陸曹クラスともなれば、深く正確なタコツボを一人で素早く仕上げてしまうが、ただ穴を掘れば良いというものではないという。
一人用掩体には、底部に手榴弾の破片被害を軽減するための「手榴弾孔」を設ける必要がある。また、掩体の寸法も厳密に規定されており、班長の指示通りに寸分違わず仕上げなければならない。というのも、例えば戦車が上を通過した際、規定外のサイズでは構造が崩れ、掩体としての機能を果たせない恐れがあるからである。
このタコツボ掘りには、陸自隊員が個人装備として携行している「エンピ(携帯シャベル)」が用いられる。旧型はアメリカ軍とほぼ同じ形状で、柄が長いのが特徴だった。現在は三つ折り式の新型に更新されており、収納性に優れ、展開角度を調整すればクワとしても使用できる多用途設計となっている。
なお、このエンピは掩体構築以外にも活躍の場がある。たとえば演習中に衛生のため、排泄物の処理用に穴を掘る場合にも用いられる。ゆえに、こうした穴の深さや大きさなどの仕様も、軍事的には一定の機密とされている。
掩体構築は単なる体力作業ではなく、防御・生存性を左右する重要な技能の一つであり、自衛隊の基礎的かつ実戦的な訓練項目として、今なお重視され続けている。
外国軍との演習。米軍のみならず、フィリピン、中国、韓国軍などとも共同訓練を行う
自衛隊は、米軍との演習だけでなく、フィリピン、中国、韓国など、さまざまな国の軍隊とも共同訓練を行っている。
なかでも同盟国アメリカとの関係は特別だ。日本と同盟を結ぶアメリカは、強い自治権を持つ州が連邦として結びついた国家であるため、「アメリカ軍」とひとくちに言っても、その実態は「連邦軍(Active Duty)」と「州兵(National Guard)」の二つから成り立っている。州兵とは、各州が独自に保持している軍隊であり、テキサス州兵やオレゴン州兵、バージニア州兵など、その顔ぶれは実に多彩だ。
この連邦軍と州兵の役割の違いが顕著に表れた歴史的事件として、公民権運動期の「リトルロック・セントラル高校事件」がある。人種差別に揺れるなか、州兵の動員を巡って連邦政府と州政府の対立が表面化した出来事だった。
こうした背景を持つ米軍だが、その州兵たちも日本を訪れ、自衛隊と合同訓練を行っている。まさに“多層的な軍事交流”と言えるだろう。アメリカ軍と自衛隊の関係は、国際社会においても広く知られているが、あるとき米政府高官が「アメリカにとって最大の同盟国は日本だ!」と発言し、これにカナダが「……我々はどうなるんでしょう」と少々マジなトーンで不満を示したという笑い話もある。
これまで自衛隊と米軍は、日本国内の各演習場やアメリカ西海岸などで多数の共同訓練を重ねてきた。現在では、自衛隊の部隊が米本土に赴き、現地の部隊とともに教育訓練を受けることも珍しくなくなっている。
米陸軍の新司令部がキャンプ座間へ移転したことを受け、陸上自衛隊の中央即応集団司令部も同地へ移った。これにより両軍の連携はますます密になり、東アジアの安全保障に寄与する体制が強化されている。
特に北海道の矢臼別演習場や東富士演習場では、海兵隊と陸自による合同演習がたびたびニュースで報じられているほか、在日米陸軍特殊部隊「グリーンベレー」と、陸上自衛隊の「特殊作戦群」との間で対テロ訓練の交流も進行中だ。これらの演習は、技術や知識の共有のみならず、相互理解と信頼を築く貴重な機会となっている。
なお、以下の動画は、自衛隊と米軍が親善目的で行ったサバイバルゲームの模様。任務中の緊張感とは対照的に、和やかで楽しげな雰囲気が伝わってくる。http://www.youtube.com/watch?v=LALUCfY5i7I
自衛隊の参加する世界規模の演習
自衛隊は国内にとどまらず、海外においてもさまざまな訓練や多国間演習に参加している。
海外での訓練や各種合同演習について
2012年9月には米領グアムにて、アメリカ海兵隊と陸上自衛隊との合同離島防衛訓練が実施された。この訓練では、グアム島西部にある米海軍基地内の海岸において、陸自の海兵隊的な編成部隊と米海兵隊の隊員たちが「同じゴムボート」に乗り込んで上陸を敢行。陸自隊員たちは小銃を携えて警戒・偵察活動を行い、上陸後の地域制圧を想定した演習を展開した。
参考リンク:
共同訓練の報道記事(東京新聞)
訓練風景の報道写真(47NEWS)
コブラ・ゴールド(Cobra Gold)
「コブラ・ゴールド」は、米軍とタイ軍が主催し、1982年から東南アジアを中心に毎年実施されている大規模な多国間軍事演習である。韓国、マレーシアなど複数国が参加し、日本も2005年から正式に加わっている。人道支援活動や災害救援の訓練も含まれており、軍事外交上の信頼構築にも貢献している。
リムパック(RIMPAC)
通称「リムパック(環太平洋合同演習)」は、アメリカ軍主催による世界最大級の海上演習で、ほぼ2年に一度、ハワイ沖を中心に実施されている。日本の海上自衛隊は1980年から継続的に参加しており、艦艇や航空機を派遣して各国海軍との連携を深めている。
なお、1996年の演習では、自衛艦が米軍の曳航機を誤って20ミリ機関砲で撃墜してしまうという事故が起きたが、当該の自衛官がアメリカに引き渡されることはなかった。このことからも、日米の軍事協力関係が単なる形式的なものではなく、深い信頼の上に成り立っていることがうかがえる。また、2014年には中国海軍が初めてこの演習に参加する予定とされ、国際的な注目を集めた。
レッド・フラッグ・アラスカ演習(Red Flag – Alaska)
航空自衛隊は、米アラスカ州のエレメンドルフ・リチャードソン統合基地で開催される「レッド・フラッグ・アラスカ演習」にも参加している。これは空中戦や防空戦闘を想定した本格的な航空合同訓練であり、日本は1996年からこの演習に加わっている。
2012年には、日本から約330名の航空自衛隊員が参加し、現地で高度な戦術訓練を実施。米軍からもその高い技術力が称賛された。加えてこの年、航空自衛隊は演習史上初めてオーストラリア空軍との共同訓練を実施している。近年、日本とオーストラリア両軍の関係は急速に深化しており、これもまた対中国戦略の一環と見られている。
こうした海外での訓練や合同演習は、単なる戦技の向上にとどまらず、国際的な安全保障協力の深化や外交的な布石としても極めて重要な意義を持っている。今後、自衛隊はさらに多国間の連携を進め、グローバルな視野での活動を続けていくだろう。

米軍が見た自衛隊の実力
4796670823 | 北村 淳 | 宝島社 | 2009-05-15
陸上自衛隊で最も人気の高いイベント――「総合火力演習」
かつては一般公開されていたが、令和5年度以降は中止
毎年8月ごろ、静岡県御殿場市にある東富士演習場(畑岡地区)で実施される陸上自衛隊主催の大規模公開演習、それが「総合火力演習(通称:総火演)」である。陸自が行う訓練の中でも、隊員の練度向上と広報を兼ねた一大“イベント”である。いや、現在では一般公開がされておらず、文字通りの演習になっているため、イベントと呼ぶには不適切かもしれない。
しかし、かつては高い注目を集めており、一般公開される自衛隊イベントのなかでは圧倒的な人気を誇っていた。防衛省では部隊の人的資源を教育訓練に集中するため、また新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、中止を決定したとのこと。
この演習の最大の特徴は、実弾を使用した演習である。戦車、火砲、狙撃銃、攻撃ヘリコプターなど、多種多様な兵器による実弾射撃を、かつて観客は間近で体感することができた。狙撃手による精密射撃や、10式戦車の砲撃、AH-64アパッチの機関砲射撃など、自衛隊マニアならずとも圧倒される内容となっていた。過去形がつらいなあ。
また、航空自衛隊の戦闘機による模擬爆弾投下も行われるが、これは観客の安全に配慮した模擬弾による演出であった。天候によっては航空機の参加が見送られることもあるが、地上部隊による演習だけでも見応えは十分だった。
一般公開されていた当時は、観覧には入場券が必要であり、希望者は防衛省を通じて事前応募を行う必要があった。応募方法は、はがきまたはインターネットからとなっており、厳格な抽選制が採られていた。人気の高さから、応募倍率は年によっては20倍を超えることもあり、28倍に達した年もあるという。なお、自衛官が身内や知人に優先的にチケットを配るようなことは一切なく、公平な抽選が徹底されていたという。
このように、総合火力演習は、一般の観客が自衛隊の実戦的な訓練を間近で見られる貴重な機会であったが、現在は自衛隊のみで完結する純粋な演習である。
以上、陸上自衛隊の訓練・演習の中から代表的な行事を中心に紹介した。その他にも多数の訓練が各地で日々行われており、それぞれの活動が日本の防衛力を支えている。