89式5.56mm小銃は軽量小銃?”近接戦闘(CQB)仕様” とは?

89式5.56mm小銃は、日本の豊和工業が開発した自衛隊制式の自動小銃である。その設計は、かつて同社がライセンス生産していたアメリカ・フェアチャイルド社製のアーマライトAR-18(1963年開発)をベースにしており、5.56mm小口径高速弾(NATO標準弾)を使用する。

前世代の64式7.62mm小銃の後継として開発され、1989年に制式採用された。配備先は主に陸上自衛隊であるが、海上自衛隊にも一部配備されており、特にSBU(特別警備隊)陸警隊立入検査隊といった部隊で使用されている。一方、航空自衛隊(基地警備隊)では89式の配備を行わず、64式を継続使用していたが、20式への転換となった。

構造上の特徴としては、ストック形状による違いがある。空挺用の折りたたみ式ストックモデルでは全長670mmと非常にコンパクトであり、固定ストック式でも916mmと、アメリカ軍の現行小銃であるM4カービン(約840mm)と比較しても、ほぼ同等の取り回しやすさを備えている。

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この89式小銃は、自衛隊の他に、海上保安庁や警察のSAT(特殊急襲部隊)にも配備されており、日本国内で広く運用されている制式小銃の代表格といえる。

 89式小銃の主要部位と機能

  1. 銃身(バレル)

    • 口径5.56mmの弾薬を使用し、射程はおよそ500メートル。​​

  2. 照準器(アイアンサイト)

    • 固定式照準器。

  3. 銃床(ストック)

    • 肩に当てて銃を安定させる部分で、固定式と折りたたみ式の2種。

  4. セレクター(射撃モード切替)

    • 安全装置(ア)、3点バースト(3)、連射(レ)、単射(タ)の4つのモードを切り替えることができます。

  5. マガジン

    • 弾薬を装填する部分で、通常20発または30発のマガジン使用。

  6. 二脚(バイポッド)

    • 射撃時の安定性を高めるための支持脚で、銃身下部に装着。

もっとも重要な陸自の任務『ゲリラや特殊部隊による攻撃などへの対応』

昨今、日本政府が想定する武力攻撃事態にはいくつかの類型が存在する。

たとえば、日本国内に潜入した武装工作員(いわゆるゲリラ)や特殊部隊による市街地での局所的なテロ攻撃に対しては、都道府県警察が第一義的に対処することとなっている。しかし、防衛省は必要に応じて、自衛隊の装甲車や戦車、ヘリコプターによる警察官の輸送支援や、装備品の供与といった支援体制について、あらかじめ警察との間に協定を締結している。

さらに2015年には、警察の機動隊における機能別部隊、すなわち銃器対策部隊への「自動小銃」配備計画も浮上している。

従来から配備されている“高性能機関けん銃”こと「MP5」ではなく、あくまで“自動小銃”の導入であると報じられている。

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装備品の供与が行われる見通しは不明だが、89式小銃を機動隊に配備する可能性も否定できない。仮にそれが実現する場合、連射機能を省いた“警察仕様”とする可能性が高い。

そして、警察の法執行能力では対処不可能な事態が発生した際には、治安出動命令が発令され、自衛隊部隊が敵工作員の包囲・捕獲あるいは撃破などを通じて無力化する作戦を遂行することになる。こうした実戦想定に基づいた訓練において、自衛隊では市街地戦闘、とりわけ『閉所戦闘』の研究と装備品の改良が重ねられてきた。

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たとえば、光学照準器を装着した89式小銃が挙げられる。

対テロ作戦仕様に改良された89式には、ダットサイトの取り付けによる照準精度の向上、さらにはバーチカルグリップの装着による操作性の向上などが施されている。特に、等倍のダットサイトが標準装備されていることは、近距離での交戦時において生死を分ける要素となる。

敵艦に強襲し制圧する特別警備隊でも、ハンドガード下部にグリップハンドルを備えた89式小銃が、“最初で最後の公開訓練”において確認されている。

これらの装備品は、もっぱら閉所――すなわち屋内戦闘に特化した仕様となっているのである。ただし、昨今のSBUではHK416系の配備が確認されているため、89式が継続使用されているかは不明である。

89式のセレクターが銃の右側面についている理由

自動小銃には通常、発射モードを単発と連発などに切り替えるレバーが備えられている。これは小銃にとって極めて重要な機能のひとつであり、多くの小銃では射手が指先で容易に切り替えられる構造となっている。

89式小銃も例外ではなく、単発・連発・3点制限点射(いわゆるバースト)の三つの発射モードを備えており、これらをセレクター・レバーによって選択する。通常の作戦においては、この三つの発射モードに加えて、安全装置(セイフティ)を含む四つのポジションを、レバーで任意に切り替えながら運用することとなっている。

この切替レバーは、銃の右側面に配置されており、軸を中心に円弧を描くようにして動作する。切替の順序は「ア(安全)→レ(連発)→3(3点制限点射)→タ(単発)」であり、安全位置から単発モードに直接切り替えることはできず、連発およびバーストのポジションを経由しなければならない構造となっている。

この操作の際には、一度グリップから右手を離し、親指と人差し指でレバーを挟むようにして回転させる必要がある。

世界各国の現用小銃の多くは、セレクター・レバーを銃の左側面に設ける設計が主流となっているが、日本の89式では右側面のみに設置されている。なお、旧ソ連で開発されたAK-47も右側面のセレクターを採用しているが、そのレバーは89式よりもはるかに大きく、直線的な設計で、人差し指一本で操作できるよう工夫されている。

また、64式小銃の設計母体となったアメリカ軍のM14小銃も右側面にセレクター・レバーを備えており、これに倣って64式も右側設置となった経緯がある。したがって、右側への設置は日本独自の設計思想というより、米軍小銃の運用設計を受け継いだ結果と見るべきであろう。

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なお、特殊な例としてオーストラリア軍のステアーAUGのように、トリガー(引き金)の引き加減で単発と連射を切り替えるという独特な構造を採るものも存在する。

もっとも、89式小銃においても、セレクター・レバーの軸自体は銃の左側面へと貫通しており、その軸の端には白線によるモード指標が設けられている。この白線によって、射手は左側からでも現在の発射モードを目視で確認することが可能となっている。

このセレクターの配置と操作性については、長らく89式の設計上の妥協点、すなわち「及第点」とされてきた部分である。

89式電動ガンを製造し『閉所戦闘訓練用教材』として自衛隊に納入している東京マルイによれば、以下のように同製品の市販版に付属する「補足説明書」に記載する。

とかく「欠点」として指摘されることが多い『銃右側にある切り替えレバー(=セレクターレバー)』だが、装具に引っ掛かった場合や匍匐活動時に誤作動を防ぐためとされている。

出典 株式会社東京マルイ公式サイト(PDFファイル)
https://www.tokyo-marui.co.jp/pdf/p_pdfmanual_121219152658.pdf

89式の開発思想には「匍匐での不意の切替を防ぐ」目的があったのだ。

89式小銃のセレクター・レバーが銃の右側面に設置されている理由には、単なる設計上の都合だけでなく、陸上自衛隊の戦闘動作、とりわけ「匍匐前進」との密接な関係がある。

自衛隊の教範に基づく匍匐前進では、射手は小銃を横に構え、右手で被筒(ハンドガード)を保持しながら身体を地面すれすれに移動する。この際、小銃の右側面が上を向き、左側面は地面に近くなる。

そのため、セレクター・レバーが左側にあると、地面や装備に引っかかって意図しないモード切り替えが生じる可能性がある。

このような不測の切り替えを防止する目的で、89式ではセレクターを銃の右側面に限定して設置するという開発思想が採用されたのである。

これは日本独自の戦技環境を反映した設計方針であり、輸出や他国軍との共通運用を前提としない国産小銃ならではの判断であると言える。

しかしながら、この右側のみの配置は実戦運用においては不便とされる場面もあった。特に、2004年以降のイラク復興支援派遣において、前線部隊からはセレクター操作性に関する不満の声が多く寄せられた。これを受けて、89式には左側面にも切替レバーを追加し、射手が銃を構えたまま右手親指でセレクターを操作できるようにするという実用的かつ画期的な改修が施された。

この改修は後に陸上自衛隊の各普通科連隊においても段階的に実施され、現場の隊員からはおおむね好評を得ている。

このように、89式のセレクター配置は、当初は匍匐前進時の安全性を重視した設計であったが、派遣実績と現場の声を反映した実戦的改修によって、より柔軟な運用が可能となったのである。

89式小銃まとめ

陸上自衛隊では、従来の主力小銃であった64式小銃に代わり、89式小銃が多くの第一線部隊において制式装備として採用され、特に普通科部隊を中心に主力火器として用いられてきた。

海上自衛隊においても、近年になって89式小銃の配備が開始されており、警衛・保安用途を中心に運用が進められている。また、警察機関では警視庁、海上の治安維持を担う海上保安庁においても、一部部隊で89式小銃の配備が確認されている。一方、航空自衛隊では現在のところ、89式の配備実績は見られない。

89式小銃は、登場からすでに30年以上を経過しているが、その間、実戦環境や運用実態に応じた近代的な改修が段階的に施されてきた。とりわけ、セレクター・レバーの左右両面操作化や、光学照準器の搭載を前提としたレールシステムの導入など、現代戦に対応するための改良が進められている。

しかし、装備体系の世代交代に伴い、2021年には、その後継である20式小銃が制式配備が開始された。今後は20式が段階的に89式に代わり、陸上自衛隊の新たな主力小銃として整備されていく見込みである。

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