日本警察といえば、長らく「ニューナンブM60」や「SIG P230」といったリボルバーや小型オートが主力。
しかし、時代の流れとともに「いやいや、世界でテロの脅威も増してるし、もうちょっとイケてる銃を持たせたれや!とくに制服の腰にスナブノーズじゃ・・」ということになったのか(!?)、ついに警視庁の地域警察官へのグロック45支給が行われたのが、今回の2020東京オリンピック。
まあ、グロックは上記の記事で掘り下げたように、スポーンとかバキッなどの理由により、短い配備となりました。しかし、パトカー乗ってるだけで強制リロードとは…。
ともかく、その東京オリンピック警備における警察けん銃の新たな発見”という事象においては、もう一つの驚きが。
日本警察で初の導入となったドイツの『H&K SFP9』です。
「おいおい、なんでいきなりドイツ製やねん?」とツッコミたくなるかもしれませんが、まあ聞いてください。このSFP9、なかなかの優れモノなのです。
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北海道内で明らかになった警察へのSFP9(VP9)配備
2021年6月、SFP9の実戦配備を密着取材の上でスクープ写真で、すっぱ抜いたのはPCファンとして名が知られるエスハイ氏。
同氏に拠れば、この写真はまさに”実働警備中”のワンシーンとのこと。
分野外ですが、初めてじっくり拳銃を見た気がする。 聞くところによると新しいモデルとのこと。 pic.twitter.com/AlWSNu5GYr
— エスハイ (@esuhai1991p) June 16, 2021
エスハイ氏は撮影時の細かなことについて言及をされていませんが、写真に映るのは明るめの青色出動服を着装した数名の警察官と見られる人物。
まさか員数外の自衛隊特殊部隊員が警察の出動服を着て・・・・・・というわけではないはず(オメガ7みたいに言うなよ・・・・・・)。
考えられるのは本部刑事部捜査一課特殊犯、いわゆるSIT、もしくは警備部機動隊の機能別部隊の一つ、銃器対策部隊、いわゆる銃対ですが、この明るいブルーの出動服を見る限り、やはり銃対では。
また、警察官と一緒に映る黒い200系ランドクルーザーにも注目。”警察の黒い200系ランクル覆面”と言えばおなじみ、機動隊の銃対に配備される小型遊撃車。
普段は空港等の重要防護対象施設(重防)に常駐するほか、大規模なイベント警備にも派遣される車両です。
市街地を武装テロリストがレンタカーの4tトラックでAKMを乱射しながら都内を逃げ回るような重大事安が発生した場合、まずは銃対が走破性に勝る防弾ランクル覆面に乗車して臨場、徹底追跡。警視庁と神奈川のSIT、SIS合同部隊が封鎖するレインボーブリッジに追い込まれたテロ犯はベレッタ92とMP5SFKによる牽制射撃を受け、行く手を阻まれる。
キャンターベースの特型遊撃車を盾に銃器対策部隊が包囲。後藤隊長、ヤツら袋のネズミです!うん、そうね・・・今回、我々の出番ナイみたいね・・・おや・・・?上空からは89式を構えたSAT隊員が専用ヘリ『ベル412EP/防弾仕様』で参上だ。今度はパトレイバーか。次回は中空知防衛軍ネタをやりたいです。
話を戻します。彼らブルーの出動服の警察官の腰に吊られている銃に注目。
これは東京オリンピックの警備に向けて、特別に配備されたSFP9。
ドイツの日刊紙『ブラックフォレストメッセンジャー』では2020年、日本警察は2,000丁のSFP9をH&K社から納入を受けたと報じており、裏付けも。
『彼ら(HK社)はまた、成功したSFP9モデルのけん銃2,000丁を日本の警察に納入したことを誇りに思っています。これらは来夏のオリンピックの安全確保のために特別に使用されます』
すなわち、今回のSFP9はまさに”東京オリンピック警備公式けん銃”というわけ。
そんな、”公式テーマソング”みたいな言い方はやめなさい(笑)
H&K SFP9(VP9)の性能は
日本の公的機関が新しい装備を導入するときは、「コスト」「性能」「安全性」「警察の担当官の気分」の4つが重要になります。その中で、SFP9はなぜ選ばれたのか?

HK社から引用した画像ですが、上記はオリジナルのSFP9です。
まず、ポイントとしてはSFP9自体、すでに日本国内の他の公的機関で先行配備済み、導入実績あり。それは自衛隊。まあ、警察と自衛隊で意見交換を行ったんでしょうね。キムチと焼肉の美味しいお店で。
ともかく、防衛省ではこれまで制式だった『9mm拳銃(シグ・P220)』に代わる次期制式けん銃として、2020年、『(新)9mm拳銃 SFP9 (H&K VP9)』の調達を開始。
現在、陸自を中心に配備が行なわれていますが、空自や海自も導入予定です。
なお、ヨーロッパおよびカナダ市場向けの製品名はSFP9、アメリカ市場向けはVP9ですが、両製品は同じもの。
日本政府がこぞって導入した「SFP9」ってどんなけん銃?
SFP9は、H&K(ヘッケラー&コッホ)が2014年に開発したポリマーフレームのストライカー式オートです。
似たような銃でいうと、グロック、シグP320あたりがライバル。アメリカの警察で配備を増やしたS&WのM&Pもそうでしょう。
ちなみに海外では「VP9」として販売されていますが、VPの意味は「Volkspistole(フォルクスピストル・・人民用拳銃)」です。「人民用」って聞くとなんか社会主義っぽい雰囲気がしますが、要するに「国民ピストル」ってことです。そんな国民ボタンみたいに言うのやめなさい。
仕様はグロックでここ30年スタンダードとなったポリマー・フレーム&ストライカー撃発方式。
また、「チャージングサポート」と呼ばれる特徴的なスライド後部のウイングがあり、スライドが引きやすくなっています。
目新しい機能はありませんが、実際にSFP9で射撃訓練を行なった陸上自衛隊員への取材によると、明らかに旧9mm拳銃よりも撃ちやすい(扱いやすい)という評価があるようです。
ほとんどの射手がSFP9(写真下)の高性能に軍配を上げていた
なお、警備部では同じくH&K社のP2000を配備。
ストライカー式オートの世界標準たる「グロック」ではなく「SFP9」を選んだ理由は?
一部、筆者の憶測や実際のソースを用いています。
① 実は「グロックの試験導入」はあった
日本の警察機関もグロックを全く無視していたわけではないのです。
✅ 警視庁の地域部で「グロック45」が一時期導入された
前述の通り、今回のオリンピック警備の一環で、警視庁の自動車警ら隊では、地域警察官向けにグロック45が配備されていました。G45は、G17のグリップサイズにG19のスライドを組み合わせたモデルで、「グロック19Xの改良版」とも言われる民間モデルです。
これは、おそらく「グロックを都道県警察の地域部で導入した場合のテスト」だった可能性が高いですが、結果的に即配備が解かれ、全国的な採用には至りませんでした。
② なぜグロックではなくSFP9?(新事実が確定)
🔹 ① セーフティ機構の違い
グロックもSFP9も、オリジナル仕様は親指で操作する外部の安全装置「マニュアルセーフティ」が非搭載で、どちらも外部の安全装置は引き金についたトリガーセーフティのみです。
ただし、どちらもまたマニュアルセーフティありのモデルも選択可能です。
そして、日本警察の導入モデルは自衛隊と違い、マニュアルセーフティありの仕様だったのです。
これは驚きですね。自衛隊とは別仕様だった警察のSFP9。
こちらの「第158回 SATマガジン2024年3月号表紙公開 警察のSFP9はサムセフティ付きだった!」動画でSATマガジン編集長が解説されています。
フレーム後方にレバーが追加設置されていますが、これがマニュアルセイフティです。
日本の警察は「安全管理が厳しい」ため、やはり、マニュアルセイフティによる確実な安全性が評価された可能性があります。同じくオプションでマニュアルセイフティのついたグロックよりも確実だった可能性があります。
🔹 ② グロックの「グリップ角」が合わなかった?
グロックは設計思想による独特のグリップ角があり、とくにリボルバー慣れした手には「撃ちにくい」と感じる人もいます。
SFP9はバックストラップ+サイドパネルを交換できるため、「個人の手のサイズに合わせて調整可能」というメリットがあります。なお、グロックも現行モデルはグリップのバックストラップを交換できます。
🔹 ③「政治的な大人の事情」
グロックはオーストリアですが、SFP9はドイツ。実は、日本の警察は昔からH&Kと関係が深いんです。
政治がらみの考えもあったのかもしれません。ここは妄想です。
なお、自衛隊でベレッタAPX、グロック17、SFP9でトライアルが行われた際、最も価格が安かったのがSFP9だったそうです。警察も価格の点を考慮の一つにした可能性があるかもしれません。
まとめ・・日本の「けん銃更新」は慎重すぎる
そもそも、日本の警察がけん銃を新しくするのは、アメリカのように「新型出たし、試しに導入しよう」みたいなノリではありません。
📝 「30~40年単位で使えるか?」
📝 「予算に見合った耐久性があるか?」
📝 「とにかく事故が起こらないか?」
こんな感じで、めちゃくちゃ慎重です。さすがにポリマーフレームのけん銃を30年はないと思いますが…。
そのため、グロックが「世界標準」になっていても、「日本で本当に使いやすいのか?」が最優先され、結果として「グロックがダメだった」のではなく、「SFP9の方が適している」と判断されたのでしょう。
2000丁ものSFP9が日本警察で採用された以上、今後10年単位でこの銃を運用し、基準として進めていくことになります。
地域警察で「グロック45の導入実績」があることを考えると、どこかでグロックが再び浮上する可能性もありますが、現時点ではSFP9もまた「お巡りさんの次世代けん銃」となる可能性を秘めています。ともあれ、SFP9がこれから日本警察を席巻するのか、今後の運用に注目していきたいところです。
まあ、FBIの10mmオートのように一万丁導入!→やっぱ2000丁で勘弁してください…手から血が…みたいなこともありますから、どう転ぶかは不明です。
いずれにせよ、ヘッケラー&コッホ社自らによる声明を額面通りに受け取るならば、日本警察へのSFP9の配備は東京オリンピックが期になったことに間違いはないようです。