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特殊急襲部隊SAT、隊員の選抜条件の“定説”を検証―「未婚・若年・近視不可」説の根拠とは

記事の引用元 1996年5月28日 中国新聞より

警察庁警備局管轄の特殊部隊であるSAT(特殊急襲部隊)に関しては、その活動内容とともに、隊員選抜の条件についても長年さまざまな情報が出回ってきた。

だが、これらの多くは公的に裏付けのあるものではなく、一部は書籍や映像作品等を通じて独り歩きしてきた“通説”である。

例えば、当サイトでも言及しているが「SATが出動した=犯人の射殺で事態解決」という極端な創作的表現がある。

特殊急襲部隊SATが被疑者の「頭部」を狙う判断──致死的制圧力が意味するもの

そのようななかでも広く知られているのが、「SAT隊員は未婚者で25歳以下、近視は不可」といった隊員選抜の条件である。

この説は、2002年に出版された毛利文彦氏の著書『警視庁捜査一課特殊班』に登場し、一定の影響力を持って流布されてきた。

一方で、この「条件説」については、同書出版当時から、かつて警視庁の特殊部隊SAP(SATの前身)に所属していた関係者などによって、裏付けに疑問が呈されていた。

つまり、それが制度的な選抜要件なのか、あるいはあくまで隊員像にすぎないのかという点である。

この点に関連し、1996年5月28日付の中国新聞では、SAT公式発足時の実情が報道されている。記事には、「警視庁第6機動隊SAT隊員の平均像」として、まさに「未婚・若年・視力良好」といった特徴が記載されている。

これは、毛利氏の記述と符合する内容であり、少なくとも当時の報道に基づく一定の事実認識に基づいている。

警視庁の第6機動隊といえば、SATの前身であるSAPの根城。新規発足当時はSATもまだ機動隊の中の部隊であったが、現在は機動隊から独立している。

なお、SAP時代は隊員の私費装備など、逸話や苦労話も多い。

【秘話】SATの前身『SAP』の個人装備はミリタリー雑誌の通販広告で隊員が自費で「軍拡」していた

新聞報道に話を戻そう。ただし注意すべきは、これはあくまで「平均像」の紹介であり、制度上の「選抜条件」ではないという点である。

銃器を使ったハイジャックやテロなどの凶悪犯罪に対処する警察の特殊部隊「SAT(Spe-cial Assault Team=特別攻撃チーム。通称サット)」の存在が公表された。

7都道府県警察に配備され、重大事件が発生したときは、県境を超えて出動、強行突入して犯人検挙、被害者の救出にあたるという。

前身は警視庁と大阪府響に約20年前に誕生した”秘密部隊”。今回の存在発表は、銃器犯罪が多発する中での「犯罪抑止力」という要素も強いようだ。
この秘密部隊はハイジャック事件の頻発を受けて77年に創設された。正式名称はなく警視庁の普備関係者の間では「SAP」とか「6機の特殊(部隊)」とか呼ばれてきた。

過去の約20年間で、その姿を垣間見たのは95年6月の全日空機ハイジャック事件のときだけ。

第6機動隊のSATは3個班体制で、合計60人。平均的な隊員像は25歳以下の独身、身長165~180cm、懸垂40回以上、腹筋1,000回以上、1,500m走5分以内と体力抜群。ほとんどの隊員が空手や少林寺拳法、サッカーなどの経験者で近視は不可。機動隊の中から指名されるエリートたちだ。

各班内は「突入・制圧班」、突入の足場を作る「支援班」、「狙撃班」など役割が細分化されている。

「ぴったりと息を合わせて秒単位で正確に任務を遂行する訓練を積んでおり、ほかの部隊との混成は難しいくらい訓練度が高い」と関係者は話している。
海外の先輩特殊部隊であるSAS(英)、GSG9(独)などへも隊員を派遣してノウハウを蓄積してきた。またGSG9の隊長を日本に招いて学んだこともあるとか。

公表された装備は防弾性の透明なマスク付きヘルメット、防弾チョッキ、ライフル、高性能自動けん銃、レーザー距離測定機、暗闇でも視界が維持できる暗視装置など。

(引用元 1996年5月28日/中国新聞)

ただし、“独身説”についてはその後、2007年の愛知県警SATの殉職事案において、凶弾に倒れた隊員が家庭を持っていたことが報道で明らかになっており、「未婚でなければならない」という条件が実際に存在した可能性は低い。

少なくとも、厳密な応募条件としては現在に至るまで確認されていない。

また、近視に関しても同様で、イカロス出版『最新 日本の対テロ特殊部隊』(2010年)などで「眼鏡着用者は選抜されない」との指摘が見られるが、これについても、1996年の同報道では「近視は不可」とされており、やはり当時の実務的な傾向を反映した内容と考えられる。

元SAP隊員の伊藤鋼一氏のインタビューから

ラジオライフ2005年2月号には警察特集が組まれているが、その中にSATの前身である元SAP隊員の伊藤鋼一氏のインタビューが掲載されており非常に興味深い。

第六機動隊はSATの予備軍!?

ー警察組織の精鋭部隊SATですが、どういう人がなれるんですか?

私がいたSAP時代は、世間一般にいわれている25歳以上の健康で優秀な独身警察官というような厳密な規定はありませんでした。

実際に22~23歳の隊員もいましたし、既婚者もいました。選抜される流れは警視庁の場合、まず警備部の幹部がSAPになりうる素養を持った人間を書類選考、適正を判断すると第六機動隊に集めます。

そしてそこから更にふるいにかけられ、SAPの適正ありと判断されるとある日いきなり上司に呼び出されます。

そこで初めて、SAPの試験入隊に参加する意志があるかを聞かれるわけです。試験入隊とはSAPになりうるだけの資質があるかを確かめるための適正テストみたいなものです。

ビルの10階ほどの高さから命綱一本で飛び降りさせられたり、約30kgの土嚢を背負っての30mダッシュ、腕立て、腹筋、懸垂、長距離走を失継ぎ早にやらされるというハードなもの。平たくいえばシゴキですね(笑)

誤解を受けるといけないので補足すると、試験入隊を真摯に考え、危険と隣り合わせの任務に付く特殊部隊員になることを真剣に考えているかを見分けるため行っています。私がいた頃は毎年、6人くらいのSAP候補者が試験入隊に来ましたが、半数近くはギプアップしていきました。

(引用元 ラジオライフ2005年2月号

また、伊藤鋼一氏によれば、SATは普段、テロに遭う可能性の高い外国大使館の警備任務にも就いているという。

まとめ

SAT選抜における基準は現在も明確には公開されておらず、公式情報として確認可能なのは、体力、精神力、射撃技能等の高度な適性が求められるという点にとどまっている。

こうした状況から判断すると、現在広まっている「条件説」の一部には、過去の報道に基づいた根拠があるものの、それが制度上の絶対条件であるとは限らず、実際の選抜では時代に即して緩和されたり、より柔軟で多面的な評価が行われている可能性が高い。

また、報道や出版物に基づく検証は今後も必要だが、情報の出所と文脈を慎重に見極める姿勢が求められる。

余談だが、上記1996年の報道ではSATの装備品についても触れており、興味深い。

装備品が公式に映像公開されたのは2002年であるので、96年当時はまだ「高性能自動けん銃」のモデルについて明らかになってはいないはずだが、当時からUSPを配備していたのだろうか。

【SAT・SP・SFGp】2000年代初頭、日本政府がこっそり配備したドイツ製拳銃H&K(ヘッケラー&コッホ)USPとは?


一方で、ライフルについては触れられているが、「機関けん銃(MP5)」については言及されておらず、当時はまだ秘匿されていたのかも知れない。

警察の銃器.2 『特殊銃』MP5から自衛隊89式、対物狙撃銃まで

参考文献:

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