構想が進められている国家情報局とは | シグナリーファン@セキュリティ

構想が進められている国家情報局とは

その他考察
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【お知らせ】
シグナリーファン編集部では、警察装備や運用に関する国内外の公開情報・公式資料・報道記事・学術文献を継続的に調査・分析しており、本記事もそれらの調査結果に基づいて構成しています。

高市政権の成立以降、政府内では安全保障政策全般の再検討が進められており、その一環として情報分野の制度設計も議論の対象となっています。

こうした動きの背景には、首相の政策姿勢に加え、日本維新の会が「対外情報庁」の創設を掲げていることなど、連立政権の枠組みが影響していると考えられます。その流れの中で、「国家情報局」を新設する構想が具体的な検討段階に入りました。

今回は国家情報局とスパイ防止法について言及します。

なお、公安警察や自衛隊インテリジェンスの基本的な枠組みや主要な手法については、以下の記事で整理していますので、詳細についてはそちらをご覧ください。

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国家情報局の構想

構想が進められている国家情報局は、政府全体の情報活動を統括する中枢機能を担う組織として位置づけられています。各省庁や関係機関が保有する情報を集約し、横断的に分析・評価する体制の確立が目的とされています。

現在の日本の情報体制には、内閣情報調査室、外務省の情報部門、防衛省情報本部、警察の公安部門、公安調査庁など、複数の組織が存在します。

ただし、それぞれが独立性の高い運用を行ってきた結果、組織間の連携が十分とは言えず、同種の情報が重複したり、共有が滞ったりする問題が指摘されてきました。

こうした課題への対応として、2014年に国家安全保障会議が設置され、その事務局として国家安全保障局が発足しました。これは、安全保障に関わる情報を内閣の下に集め、政策判断に反映させるための枠組みでした。

それ以前の日本のインテリジェンス体制については、情報が集約されにくく、活用の過程でも断絶が生じていたと評価されることがあります。国家安全保障会議の導入により、一定の改善は見られ、情報が中央に集まり、共有される仕組みは整えられました。

一方で、国家安全保障会議は各省庁が自発的に情報を提出する仕組みであり、組織ごとの利害が影響する余地は残されています。そのため、国家全体を見渡した指揮・統合という点では、なお不十分との見解もあります。

こうした背景を踏まえ、内閣主導で情報機能を強化する案として、内閣情報調査室を再編し、国家情報局へと改組する構想が検討されています。新組織は国家安全保障局と同等の位置づけとされ、各省庁に対して一定の調整・指示機能を持つことが想定されています。局長は首相の直接的な統括下に置かれ、他機関よりも強い調整力を持つ立場になると見込まれています。

制度設計の変更だけで省庁間の壁が直ちに解消されるわけではありませんが、情報体制の統合と機能強化に向けた動きとして、注目される段階に入ったと言えるでしょう。

スパイ防止法の問題点は?

政府が目指しているのが、外国勢力のスパイ活動を取り締まるとともに、インテリジェンス(情報収集・分析)機能を強化する法律、いわゆるスパイ防止法です。

スパイ防止法が問題視されやすい一番の理由は、「どこからがスパイなのか」が分かりにくくなりやすい点です。

外国のために意図的に機密情報を渡す行為を取り締まる、という目的自体は理解されやすいのですが、法律の書き方次第では、その範囲が広がりすぎるおそれがあります。これが市民にとって最も恐ろしく、だから問題にされているのです。

たとえば、記者の取材活動や研究者の国際共同研究、あるいは内部告発のような行為まで、「結果的に外国に利益を与えた」と解釈されてしまうと、処罰の対象になるのではないか、という不安が生まれます。実際に処罰されるかどうかよりも、「もしかすると危ないかもしれない」と感じて人々が動かなくなること自体が問題です。

また、本人の目的や意図をどう判断するのかも難しい点です。スパイ行為と、正当な報道や研究を明確に区別するのは簡単ではありません。捜査する側の判断に大きく依存すると、後から「それは違法だった」と言われる可能性が出てきます。

さらに、何が秘密にあたるのかがはっきりしないまま運用されると、市民はどこまでが許されるのか分からなくなります。特定秘密保護法でも指摘されたように、秘密の指定や解除が不透明だと、チェックが効きにくくなります。

加えて、スパイ対策はすでにある法律でも一定程度は可能だ、という意見もあります。新しい法律を作らなくても、既存の制度の運用を厳格にすることで対応できるのではないか、という考え方です。

まとめると、スパイ防止法の問題点は、取り締まりの範囲が広がりすぎやすいこと、表現や研究の自由を萎縮させやすいこと、そして運用をどう管理するかが難しいことにあります。だからこそ、必要性だけでなく、慎重な制度設計と監視の仕組みが欠かせない、というわけです。

本当に政府の情報収集能力は上がるの?

ただ、見落とされがちなのは、「組織の新設や格上げが、そのまま情報能力の向上につながる」という暗黙の前提です。

制度上の司令塔を設けても、実際の情報の質や分析力、人材の専門性が伴わなければ、実効性は限定的になり得ます。とりわけインテリジェンスは、法制度や権限設計以上に、長期的な人材育成、分析文化、失敗を許容する組織風土に大きく依存します。

次に、「縦割りは悪で、一元化は善である」という二分法も再検討の余地があります。縦割り構造は弊害を生みやすい一方で、権限の分散が政治的暴走や情報の単一化を防いできた側面も否定できません。国家情報局の権限が強まるほど、統制と牽制、民主的コントロールをどのように確保するのかという問題がより重くなります。

さらに、海外の情報機関モデルを暗黙の成功例として想定している点も注意が必要です。米国や英国型の中央集権的モデルは、歴史的背景、同盟関係、法文化が異なる環境で形成されてきました。日本に同様の枠組みを導入した場合、同じ成果が得られるとは限らず、むしろ摩擦や形骸化が生じる可能性もあります。

加えて、インテリジェンス強化が主に「対外脅威」への対応として語られがちな点も視野を狭めています。実際には、経済安全保障、技術流出、情報操作、災害対応など、非軍事的・非伝統的分野への比重が今後さらに高まる可能性があります。国家情報局の設計が、こうした領域にどこまで適応できるのかも重要な検討点です。

以上を踏まえると、国家情報局構想は前進である一方、その成否は組織の名称や権限の強さではなく、運用の透明性、分析の独立性、そして政治との適切な距離感をいかに保てるかにかかっている、という別の見方が成り立ちます。こうした視点を取り入れることで、議論はより立体的になるはずです。

私たちの生活はどの程度まで監視される?

はっきりした線を引くのは簡単ではありません。例えば、政治活動をしていたり、反ワクチンだったり、警察や自衛隊のブログをやっている場合(とくに批判的な)は監視対象となりえる可能性もあり得るでしょう。

ただ、誰もが常に見張られている、という状況ではないとはいえ、日々の行動や通信の痕跡が、気づかないところで集められ、分析の材料になっている面は、すでに現実になっています。

日本では、警察が捜査として通信を傍受したり、個人情報を強制的に集めたりする場合、原則として裁判所の令状が必要です。

ただし、これは刑事事件としての捜査の話です。

安全保障や情報収集の分野では、同じルールがそのまま当てはまるとは限りません。例えば、公開されている情報や、通信の量や時間といったデータは、個人を直接特定しない形で広く扱われています。

最近のインテリジェンスでは、最初から「この人を調べよう」と決めて動くことはあまり多くありません。まずは大量の情報を集め、そこから不自然な動きや気になるパターンを探し出し、必要に応じてAIを利用して対象を絞り込んでいくやり方が主流です。その途中段階では、普通に生活している人のデータも、分析の中に含まれることになります。

監視という言葉から、尾行や盗聴を想像しがちですが、実際にはもっと静かな形が多いです。本人が気づかないうちにデータとして蓄積され、あとから別の情報と結びつけて使われる。だからこそ、「見られている感じ」がなくても、情報としては残っていきます。

国家情報局ができたとしても、国民世論を考えれば、いきなり監視が強化される可能性はかなり低いでしょう。

これまで警察や自衛隊ごとに断片的に扱われてきた国内情報、外事情報、公開情報、各種データが横断的に分析されるようになることで、個別には意味を持たなかった情報が結びつき、特定の人物や事象がより鮮明に浮かび上がる可能性があります。

その結果、監視の件数そのものが増えなくても、対象となった場合の分析の深さや影響は大きくなり得ます。

まとめ

現在の日本では、犯罪者でもない一般市民一人ひとりの私生活が、特定の個人を狙って常時監視されていると確認できる状況ではありません。

警察や自衛隊、情報機関による情報収集も、法律上は目的や対象が限定されています。 ただし、通信技術やデータ分析の進展によって、社会活動の中で生じるさまざまなデータが、将来的により広く活用される可能性はあります。

仮に複数の組織が持つ情報が連携・分析されるようになれば、個々の行動や人間関係が、結果として見えやすくなる余地がある、という指摘は成り立ちます。

そのため重要なのは、「監視が行われているかどうか」を断定することよりも、 制度の設計、実際の運用、そして第三者による検証がきちんと機能しているかを、社会として監視し続けることだと言えるでしょう。

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