
捜査車両 画像の出典:警察庁ウェブサイト(当該ページのURL)
覆面パトカーの着脱式赤色灯と一言で言っても、その載せ方には1灯載せと2灯載せのスタイルがあるようです。
2020年9月、広島RCCテレビによる広島県警機動捜査隊への取材で同機動捜査隊のマークXの機動捜査用車(覆面パトカー)が紹介されていました。
2人の隊員は機動捜査用車(覆面パトカー)が緊急走行時、どのように赤色灯を使用するのか丁寧に解説。
この機動捜査用車は赤色灯を二つ使っていました。

広島県警察本部機動捜査隊の機動捜査用車両。運転席側にもメタルコンセントが設置されており、足元に赤色灯が転がっている。なぜ運転席側なのか?その理由。 出典RCC NEWS
まずは運転席側から車内の紹介。足元に着脱式赤色灯が。覆面パトカーの代表的な装備品です。
しかし、なぜ運転席側に?

赤色灯を二つ使う覆面パトカー!? 出典RCC NEWS
警察密着取材番組でもお馴染みのシーンですが、たいていの場合は助手席の隊員が窓から1灯載せることが多いのではないでしょうか。
と、思っていると、今度はもう一人の隊員が助手席側からも、もう一つの赤色灯を載せます。
屋根には合計2個の赤色灯が並びます。
出ました、「猫耳モード」!
こちらの車両は赤色灯を2個搭載しており、緊急走行時には二つの赤色灯をルーフに装着するそうです。
そして、その理由を以下のように隊員が説明。

広島県警察本部機動捜査隊の機動捜査用車両は『取り扱う事件が多い、緊急走行が多い、遠距離になることもよくある』という理由から視認性を良くするために赤色灯を二つつけているという。 出典RCC NEWS
広島県警機動捜査隊では扱う事件の件数も多いようです。
そのため、必然的に緊急走行の回数が増え、また遠距離走行も多くなるとのこと。
安全のために『2つつけて視認性を良くしている』という理由だそうです。
「こちらの方にパトランプが積載されておりまして、緊急走行をするときに、こちらを点けて走行しています。こちらとあちらに、2つ。取り扱う事件・事故も多いですし、緊急走行する機会も多い。遠距離ということも多いですので、2つ点けて視認性を良くしています。」(広島県警 機動捜査隊 安田友隆隊員)
出典 RCC NEWS
赤灯2個載せ覆面パトカーの秘密 ― 実は「偉い人」の目印?
この様に広島県警をはじめ、福岡県警、大阪府警、神奈川県警などでは以前から覆面パトカーに赤色回転灯を“2個”載せたスタイルが採用されています。
2個載せにしておけば、視認性のほか、もしも1つの赤灯が故障してしまっても、もう1つが正常に動けば緊急走行は継続できます。配線のトラブルや落下によるモーター不良といった不測の事態へのバックアップ効果があるわけです。
ところが――警視庁の事情はちょっと違います。
実は警視庁でも赤灯2個載せの覆面パトカーが一部で使われていますが、こちらは「現場に来る幹部用車両」と、それ以外の車両を区別するための印なのだそうです。
この情報の出典は、雑誌『ラジオライフ』1996年2月号。そこには「(赤色灯2個載せは)警視庁では2年前から見られるようになった運用」と記されており、つまり1994年ごろから始まったことになります。
つまり――警視庁における「赤灯2個載せ覆面」は、緊急走行のためというよりも、“偉い警察官が乗っている”ことを示すサインだったのです。
警視庁での赤色灯2個載せ覆面パトカーの運用、実は単なる「幹部の目印」ではなく、実用的な理由もありそうです。
現場に指揮用車両で臨場してくる指揮官クラスの警察官は、たいてい運転手の捜査員と後部座席の指揮官の2名乗車体制。この場合、助手席に誰も乗っていないため、緊急走行中にマイクを使って周囲に注意喚起をするのが難しくなります。
そこで、安全性を高めるために赤灯をもう1つ追加して視認性を上げる――というのが本来の目的だったようです。
結果的に、「赤灯2個載せの覆面パトカー=偉い警察官が乗っている車両」というイメージが広まり、象徴的な“印”として定着したわけですね。
たしかに、偉い人を助手席に座らせてマイクで「前の車、止まってください」と言わせるわけにはいきません。それじゃあ品格が台無しです。
さらに面白い話が『ラジオライフ』2004年9月号の「三菱製パトカー特集」(執筆:大井松田吾郎師匠)に登場します。
警視庁捜査一課管理官が使用するギャランの覆面パトカーの一部には、なんとアメリカのパトカーのような「ヒュンヒュン」サイレン音(YELP音?)を発する謎車両も存在。
その特徴的な音から、マニアの間ではこの車両、「ヒュンちゃん」という愛称で親しまれていたそうです。
赤灯の数やサイレンの音――ちょっとしたことですが、警察車両の運用哲学や裏話が詰まっていると思うと、パトカーの装備も、ますます奥が深いですね。
それにしても、そこまで再現してくれる刑事ドラマは今後出るのでしょうか。