高倉健さん主演の映画 「駅 STATION(1981)」に実銃ニューナンブが登場!

1981年に公開された、降旗康男監督・高倉健さん主演の映画『駅 STATION』は、今もなお語り継がれる不朽の名作。今回は本作に登場する小道具について、興味深い考察を行ってみました。

駅 STATION

項目 内容
タイトル 駅 STATION
公開年 1981年
監督 降旗康男
出演 高倉健 倍賞千恵子 いしだあゆみ 烏丸せつこ 根津甚八 大滝秀治 田中邦衛 宇崎竜童 武田鉄矢(友情出演?)他多数
脚本 倉本聰
音楽 宇崎竜童
ジャンル ヒューマンドラマ、サスペンス、ロードムービー
舞台 札幌市、函館市、小樽市、留萌市、増毛町、上砂川町など北海道内各都市
あらすじ 北海道の刑事・三上英次が、過去の事件や私生活の葛藤を背負いながら、犯人との対峙や人間模様の中で孤独と向き合っていく姿を描く。
特徴 高倉健の寡黙で内面を抱えた人物像が際立つ。北海道のとくに厳冬期を背景に、静けさと自然の壮大さの中で人間の深い感情と警察職務を丁寧かつ現実的に描写。
受賞歴 第25回ブルーリボン賞作品賞・主演男優賞(高倉健)など

あらすじ

主人公・三上英次(演:高倉健)は、北海道警察本部刑事部に所属する刑事で、けん銃射撃の術科特別訓練員。メキシコオリンピックの射撃代表として金メダルが期待されるほどの実力者で、日々を合宿と訓練に捧げていました。しかし、競技者としての禁欲的な生活の代償は大きく、家庭を顧みることなく、妻子と別離。

さらに、ある日、先輩刑事が手配犯の確保中に殉職するという痛ましい出来事が。本来の職務である刑事として現場復帰し、犯人を追いたいという思いが募る三上ですが、オリンピック代表として国民の期待に応えよという道警察の強烈な圧力と、同じ五輪代表選手の一人である陸上自衛隊の円谷幸吉の死の報に彼の心は大きく揺れ動きます。

そんな葛藤の末に、夢を絶たれた孤独な男が刑事として歩む11年――その間に出会う“刑事として結ばれてはならない女性”たちとの愛と別れを、淡々と、そして切なく描いた『駅 STATION』。

いやあ、稲葉氏も自分を重ねたんでしょうかねえ。ちなみに、公開当時の北海道の警察さんは、現在のように「日本で一番悪い奴ら」などと揶揄されるような存在ではなく、むしろ本作の影響で、道内の映画館には多くの北海道の警察さんが詰めかけたとも伝えられています。

英次の元・妻役で、いしだあゆみさんをはじめ、英次と懇ろになる増毛の桐子(倍賞千恵子)など、素のようなチャキチャキの女手一つで生きる強い北海道の女たちもまた魅力です。

タイトル通り、駅が人々の人生の交差点になっている本作ですが、上砂川駅の中心で「おにいちゃあああん!」と叫ぶ烏丸せつこ演じる吉松すず子も泣かせます。

そして、この作品のラスト舞台「増毛駅」。かつてはJR留萌本線の終着駅として知られていましたが、2016年に廃駅に。とはいえ、駅舎自体は今も観光施設として残され、近年では「髪の毛の聖地」としても親しまれています。劇中で吉松すず子が働く駅前の「風待食堂」も、現在は観光案内所として活用されています。

駅 STATIONのみどころ

筆者の個人的な感想から以下のポイントがみどころだと思います。なお、ネタバレを含みます。

  1. ◆ 高倉健演じるストイックな一人の人間像をはじめとする役者の演技

    感情を過剰に表現することもなく、かといって冷淡に割り切れるわけでもない。法の名のもとに引き金を引くことが、彼にとってどれほどの葛藤であったか――その沈黙の裏にある情動を読み取ることこそ、この映画の醍醐味の一つです。高倉さんのみならず、劇中の人物はそれぞれ何かを抱えて生きている人々で、役者たちが演じる、軽薄、不幸、葛藤など、それぞれの人生が興味深いです。また、作曲は宇崎竜童さんですが、劇中にあのシンフォニックな作曲家とは思えない、ちょっと滑稽な暴走族役で登場。三上に酒場で「ガキは早く家帰って寝ろ!」と一喝されてからの大喧嘩となりますが、ある事件の重大な転換を三上に与える重要人物でもあります。


  2. ◆ 喫食シーンに見る登場人物たちの素顔

    作中にさりげなく挿入される食事の光景はちょっとした癒しです。冒頭の警察施設での給食、故郷・雄冬への連絡船がシケで出航できないため、増毛で足止めをくった三上が12月30日の夜に暖簾をくぐった赤提灯の居酒屋「桐子」で口にする熱燗とイカの煮付け。桐子と一杯交わす場面。さらに大晦日、桐子と留萌へ映画「Mr.BOO」を見に行った帰り、喫茶店で二人が食べたカレーライス。いかにも喫茶店風というような銀皿ではありませんでしたが、思わず腹を鳴らせる一場面です。さらに風待食堂前の宿で、すず子を張り込みながら小林稔侍さんがラーメンを美味しそうに食べていた一場面や、田中邦衛さんら幼なじみと共に数人でダルマストーブで炙ったスルメをちぎりつつ、職を辞する思いを述べる健さんもはずせません。


  3. ◆ 北海道・日本海側の冬が映し出す、自然の容赦なさ

    物語の舞台となる冬の北海道。特に日本海側の厳しい風雪と陰鬱な空気が、映像を通して肌で感じられます。三上の故郷・雄冬は当時「陸の孤島」と呼ばれ、1983年(昭和58年)5月に国道231号線(雄冬国道)が全線開通したことで、連絡船「新おふゆ丸」は廃止されました。その後は萌え萌えキャラで知られる「沿岸バス」が留萌雄冬線として運行していたそうです。


  4. ◆ 切ない別れ、結ばれぬ恋

    三上と居酒屋の桐子との関係には、過去を背負った者同士の、決して声高には語られない情が宿っています。二人の間に流れる“結ばれない”という前提を前提とした静かな距離感は、見る者にかえって深い余韻を残します。本作は純然たる恋愛映画とは言えないかもしれませんが、描かれた切ない愛は一見の価値ありです。


  5. ◆ 実際の事件を想起させる脚本構成

    明言はされていませんが、本作に登場する幾つかの事件は、実際にあった事件を連想させるものもあります。たとえば、北海道拓殖銀行(たくぎん)への籠城をともなった銀行強盗殺人事件は79年の三菱銀行人質事件を彷彿とさせますし、上砂川駅で逮捕され、のちに三上へ旭川刑務所から三上の差し入れへ感謝の手紙を出した死刑囚の吉松五郎(すず子の兄)による連続強姦殺人などは、72年に月形町と新十津川町で発生した連続婦女暴行殺人事件(79年に死刑判決が下ったいわゆる晴山事件…冤罪とも)を想起させます。フィクションとして描かれつつも現実との接点を感じさせるリアリティがあり、そこに倉本聰の脚本の緻密さと社会へのまなざしがにじみ出ています。あくまで物語ですが、観客に問いかける現実の重みも考えさせられます。


  6. ◆ 法の執行に際して銃を使う行為、その代償

    劇中で三上は三度、犯人に向けて銃を使用します。そのいずれもが正当な職務執行の範囲内にありますが、後輩の刑事からは彼自身を含め「人撃ちマシーン」と呼ばれ、射殺された犯人の母親からは「人殺し」とも罵られます。何かが彼の中で確実に削られていくような印象を受けます。

高倉健の映画に登場した”ニューナンブ”の正体は警察の実銃

本作をマニア目線で語る上で注目すべきは、主人公・三上英次(演:高倉健)が劇中で扱う銃、それを射撃する各場面です。

ざっとあげると、本作で三上の扱う銃はミリタリー&ポリスM10、ワルサーGSP、そしてニューナンブ(それを模したハイパト)。

とくに注目はニューナンブM60(3インチモデル)のリアルな描写です。

作中に登場するその拳銃は、当時の映像技術と相まって、どう見ても本物そのもの。

プロップガン(撮影用銃)の黎明期とは思えないほど、銃器描写のリアリティは今見ても色褪せることがありません。

実は時代背景や銃のリコイル、造形などを検証すると、登場した一部は実銃だったのです。

まずは、冒頭の訓練施設における射撃訓練シーン。黙々と標的射撃を行っている三上ですが、銃の発砲シーンで映るのは、S&Wミリタリー&ポリスM10、それにワルサーGSPの二種。

画像は『駅 STATION』(©東宝映画)から批評と考察のために著作権法に則り引用しています。

出典:東宝 「駅 Station」1981年

出典:東宝 「駅 Station」1981年

タナカ 発火式モデルガン S&W M10 ミリタリー&ポリス 4inch ヘビーウェイト Ver.3 TANAKA WORKS

M10は大きなリコイルが印象的。なお、グリップ下部にランヤード・リングも装備されていました。

出典:東宝 「駅 Station」1981年

ところが、離れて撮影する“引き”の場面で高倉さんが手にするのは微妙にM10とは異なるディティールです。

出典:東宝 「駅 Station」1981年

次に、ドイツのワルサー社が1968年に発表した、ラピッドファイア競技用シングルアクション・ピストル「GSP」による射撃シーン。22口径のこの銃は驚くほどリコイルがなく、快調にエジェクションしています。

出典:東宝 「駅 Station」1981年

そして、こちらも引きの場面に。ここでも高倉さんが手にしているのは一見、GSPです。ただ、冷静に見ていくと、発砲シーンの銃と、引きのシーンで構える銃とでは微妙に形状が異なっているのがおわかりでしょうか。見ていきましょう。

まず注目したいのはグリップです。ステッカーが貼られていません。そして、トリガーストローク(引きしろ)も、発砲シーンの銃とは明らかに違います。

こうした点から見て、この場面で映るのはおそらく当時CMCから発売されていたGSPのモデルガンと思われます。

画像の引用元 https://netmall.hardoff.co.jp/product/4645393/

ただしCMCのGSPモデルガンは金属製で、本来は“金色”をしているはずです。ところが映像では黒く見えていますね。これは、おそらく影をうまく使って黒に見せた絶妙な演出でしょう。なお、銃の後部にはうっすら光が当たり、本来の金色が煤けたシルバーがかって見えるのも印象的です。

先に挙げたM10の場面でも同様で、高倉さんが全身で映る“引き”で銃を構える場面では、撮影用のプロップガンを手にしています。

「ハイウェイパトロールマン41マグナム(通称・MGCハイパト)」はS&WのM27を模して1972年にMGCが発売したプラスチック製モデルガン。いわゆる架空銃です。

作動が確実なことから当時の刑事ドラマでは警察側のけん銃のプロップガンベースとして、広く劇中に登場しました。

以降、三上が道警本部捜査一課SIT(特殊班)として捜査中に携行する銃は基本的に“ハイパト”をはじめ、複数のようです。

そして、たくぎん(北海道拓殖銀行)にて、強殺監禁事件が発生。なお、梅川昭美による三菱銀行人質事件が発生したのは1979年1月。意識してますね。

出典:東宝 「駅 Station」1981年

よく協力したよ(笑)

出動した機動隊は、犯人が所持するライフルの前に次々と倒れていきます。北海道の警察さんが打開策を模索する中、三上はラーメン屋の店員に変装し、ラーメンの配達用オカモチにガムテープでハイパトを仕込んで、犯人の元へと向かう作戦に出ます。しかし、そんなオカモチありえるんですね。

出典:東宝 「駅 Station」1981年

ありえます。よくちょうど良いくらいに入ったなこれ…。

2020年の札幌の立てこもり事件で出動した道警本部捜査一課SIT(特殊班)ではペッパーライフルを携行していましたが、三上の時代は当然、けん銃を携帯。

捜査一課特殊班(SIT)が配備しているHK416そっくりの『Pepperball VKS』の機能とは

 

1979年12月24日付の北海道新聞によれば、今回の事件で犯人2人が射殺された強行作戦について、北海道の警察さんの刑事部長は「警察が批判されるいわれはない」と述べています。北海道新聞で警察批判(笑)今思えばこれが始まりか。懐かしさすら感じますね。

出典:東宝 「駅 Station」1981年

なお、北海道の警察さんでは当初ライフル銃の使用を検討していたものの、「ライフル弾は威力が強すぎ、支店内の大理石の壁などに跳ね返って人質を傷つけるおそれがある」と判断され、最終的に短銃(をオカモチに仕込んだ三上による死のラーメン配達人)が選ばれたとのことです。

三菱銀行事件では梅川一人に特殊部隊が数名で一斉射撃を行ったそうですが、本作では散弾銃を持った2名の被疑者相手に三上がけん銃一丁で制圧します。

また、現場で救助活動に加わった消防団員・豊田雅之さん(当時29歳)が北海道新聞に語ったところによると、「犯人のようなやつも困るけど、日本の警察も強くなったというか…」とのことです。なんとも絶妙なコメントですが、いるのかよこれ(笑)

ちなみに、ストイックな劇調の本作で唯一のギャグシーンは、列車内で居眠りしてしまった三上が、隣の座席にいた武田鉄矢にもたれかかり、武田がなんとも言えない表情で戸惑いつつも、最後には二人とも一緒に寝てしまうという場面。なお、武田さん主演の映画「刑事物語」にて、健さんが“北海道の警察からやってきた三上英次”役で登場する“コラボ”も当時としては画期的だったんではないでしょうか。

そして、物語後半、ある問題の場面が。三上が留萌警察署でけん銃に弾込めをしているこのシーン。その手には2インチのリボルバーですが…。

出典:東宝 「駅 Station」1981年

M-65フィールドジャケットが最強に似合う高倉健さん。次の場面ではニューナンブに…。

出典:東宝 「駅 Station」1981年

なぜか制服用の77mm(3インチ)長銃身のニューナンブM60に実包を装填するシーンになっています。

黒光りする銃身、シリンダーのスレ具合、シリンダーラッチの特有の形状、造形の美しい小豆色のグリップがリアルです。

81年当時、こんなリアルなニューナンブのプロップガンを用意できたのはどこの小道具会社なのでしょうか。

【7mmキャップ火薬付】 HWS J-Police.38S ポリス 3inch HW 拳銃 ヘビーウエイト 発火モデルガン ブルーブラック仕上 警察

当時ニューナンブのモデルガンなど発売されてはいないものの、CMC製M36ベースの『それらしき』プロップガンは存在。

しかし、これはそんなモドキではありません。

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人気のハートフォード製ニューナンブM60。表面仕上げ、グリップの造形など細部までリアル。

果たしてこのニューナンブのリアルなプロップガン、この映画『駅 STATION 』のために特別に作られたものなのでしょうか。

と思いきや、実はこれ、警察の撮影協力で登場した実銃のニューナンブ。

もちろん、製作サイドでは言明はされていませんが、言わなくても、分かる人には分かりますよね(笑)この辺りの裏話が載っているような当時のガン雑誌があったのかもしれません。

やはり、実銃であることから俳優である民間人・高倉健さんが手に持つこと自体は許されなかったようで、アップのシーンでニューナンブを持つのは現職と思われます。

このように『駅 STATION』は、警察の実銃と撮影用プロップガンが交互に登場する稀有な映画作品となっています。

映画やドラマの撮影用小道具・プロップガン(ステージガン)とは

ただ、撮影に関しては北海道の警察さんが協力したのか、東京の警察さんが撮影に応じたのか、エンドロールにクレジットは一切入っていませんので詳しくは不明です。

警察当局としても、そこはあえて公にはしたくなかった思惑があったんでしょうか。

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まとめ

北海道拓殖銀行(たくぎん)での強盗犯2名の射殺、旭川での木材作業員の手配犯射殺、そして終盤では、殉職した先輩刑事の仇を討つかたちでの発砲と、合計4人の容疑者を射殺することになります。それでも三上は感情を抑え、あくまで警察官としての任務を11年にわたって淡々と遂行していくのです。

というわけで、北海道の日本海側を主な舞台に、寡黙な一人の人間・三上英次の人生と心の葛藤を高倉健さんが見事に演じた本作『駅 STATION』、いつまでも心に残る名作です。

2025年現在、Amazonプライムビデオで無料なのでぜひ見てくださいね。

さらに、こちらは“駅”ではなく、“ニューナンブM60”そのものが、あたかも人々の人生を交差させてしまう名作が沢田研二主演の『リボルバー』です。

【せつなさ炸裂】一挺のニューナンブM60と共に人々は南から北へ駆けた。1988年公開の邦画『リボルバー 』

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