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長野県中野市で発生した猟銃・刃物殺傷事件について
2023年5月25日午後4時すぎ、長野県中野市の田園地帯で、たいへん痛ましい事件が発生しました。
加害者は市議会議長を父にもつ農業従事者の男で、報道によれば、彼は過去のいじめによるトラウマや長年の孤独に苦しんでいたとされています。
そうした精神的背景の中で、被害妄想のような感情が膨れ上がり、ついにナイフと猟銃を使って犯行に及んだと見られています。
犠牲となったのは4人で、そのうち2人は偶然現場付近を通りかかった女性、残る2人は通報を受けて現場に急行した長野県警中野警察署・地域課の自動車警ら班に所属する警察官でした。
この2人の警察官は、けん銃を着装していない状態で出動しており、犯人が所持していた上下二連式の散弾銃によって発砲を受けました。
特に1人の警察官については、銃撃の後に刃物による刺突も受けており、即死状態だったと報じられています。
また、犯人が使用したのは、散弾銃において一般的な散弾(複数の小さな弾丸)ではなく、熊などの大型獣を仕留めるために使われる「スラッグ弾」とみられています。
この弾は単弾でありながら非常に威力が高く、人に命中すれば致命傷となるものです。

報道では『パトカーで駆けつけた直後、署員二人がパトカーから降りないうちに後ろから近づいてきた被疑者に胸付近を撃たれたという。出典 NHKの報道
長野県中野市の立てこもり事件に関する特別出動と反響
災害下を除くと、「一つの事案で警察官2名が殉職する」という事態は、1990年に発生した沖縄県警での事例以来、およそ30年以上ぶりの極めて深刻なケースであったと報じられています。
犯行後、被疑者はそのまま現場から逃走し、近隣の民家へと立てこもりました。
これを受けて長野県警察本部は、直ちに県内全域に緊配発令。深夜のうちに県警所属のヘリコプターが東京方面へ飛び立ちました。
長野県警はSIT(特殊事件捜査係/地方機動隊所属の狙撃・突入要員)を自前で編成している一方で、SAT(特殊急襲部隊)は保持していません。
そのため、今回の重大事案発生を受けて、警察庁を通じて迅速に警視庁および神奈川県警への部隊派遣の要請を行ったものと見られます。
結果として、警視庁SITと神奈川県警SATが現地に派遣されることが決定し、それぞれの隊員は所属本部のヘリコプターによって深夜のうちに松本空港まで空輸されました。
さらにその後、事件現場に比較的近い長野市滑空場に密かに降り立ち、作戦展開の準備に入ったとされています。
なお、航空機の飛行情報をリアルタイムで確認できるサービス『フライトレーダー24』などによって、これらのヘリの動きは一部SNSユーザーによって“実況中継”されるように共有され、現場での警察活動の一端が可視化される異例の展開となりました。
また事件の凶器や動機の性質から、昭和13年(1938年)に岡山県で発生した「津山事件」との類似点を指摘する声もSNS上で多く見られました。
一方で、毎度のことながら「警察の装備が時代遅れである」「パトカーにショットガンを常備すべきである」「防弾ガラス化すべきである」といった、装備強化や警察車両の改良を求める意見も相次いで投稿されました。
当サイトは治安政策について論評する場ではなく、また被害者の方々を追悼する目的でもない、あくまで個人の記録・感想に留める形式をとっております。
そのため、事件全体についての深い言及は差し控えますが、SNSで注目されたある“ワード”については触れておきたいと思います。
それが、「サイガ」です。
「犯人の銃はサイガ」と思われるという投稿で騒然
ある人物が、Twitter上で以下のような発言を行ったことにより、事件に関連した新たな注目の的となったのです。

ツイート主いわく、『(左が)お前らの想像してる猟銃』とのこと。たしかに左の銃は俺ら善良な市民が思い浮かべる、いかにも水平or上下二連の猟友会のオレンジベストの翁が持ってる銃に思えます(個人の感想です)。
そして、「(右が)犯人が持っていたと思われるサイガ12」──とのこと(※ただし、個人のデマです)。
この銃、見た目からしてインパクトが強め。まるでAK-47のような無骨な軍用小銃スタイルに、箱型マガジンをゴリッと装備。
知らない人が見れば「え、戦場の銃じゃん」と身構えてしまうのも無理はありません。
その正体は、ロシア・イズマッシュ社が製造する、民生用/公用向けの半自動式ショットガン「サイガ12」。
AKの血統を受け継いだ設計ながら、分類上はあくまで散弾銃──見た目と中身のギャップが騒動に拍車をかけたのかもしません。
所持できるのは“長野と茨城だけ”って本当?
――ネットを駆け巡った「猟銃デマ」と“デマ警察”の出動劇
この投稿は瞬く間に拡散され、数万件のリポストといいねがつきました。
しかしその後、事態は思わぬ方向へと進展していきます――。
――長野と茨城でしか所持できない? 気になる噂の真相
今回とくに話題となったのが、「サイガ12は長野と茨城でのみ所持が許されている」という文言です。この情報は事実なのでしょうか?
結論から言えば、筆者にはこの情報の真偽を確認する手段がなく、不明です。
ただし、猟銃の所持許可は都道府県ごとの公安委員会が判断するもので、地域によって運用基準に差があるのは事実です。
一部の猟銃愛好家によると、画像のようなピストルグリップ付きの銃器は、猟銃としての許可が下りにくいという意見があります。
ただし、グリップを銃床式に換装している場合には、許可が下りるケースもあるとのこと。見た目の印象が許可の可否を左右するというのも、いかにも日本らしい事情かもしれません。
では、あの大きな箱型マガジンはどうなのでしょうか?
これもまた、日本国内法の規定に基づきます。現在の法律では、装弾数はマガジン込みで2発までと定められています。したがって、仮にサイガ12のような銃器であっても、この規制に合致するよう改修されていれば、所持は可能となる可能性もあります。
つまり、外見がどうあれ、中身は厳格な日本基準を満たした“おとなしい”猟銃というわけです。
ただし、警察庁が許可しないように全国へ通達を出すということも考えられます。
SNSの拡散力と“正義マン”たちの出動
ところが、こうした事情を踏まえずに拡散された投稿が、思わぬ“正義の炎上”を引き起こしました。
画像とともに投稿されたツイートは「犯人が持っていると思われる」と、あくまで憶測を述べただけでしたが、SNS上では次第に「この情報はデマだ」「風評被害だ」と糾弾する声が強まり、ついにはファクトチェッカーズ(笑)たちが動き出したのです。
誰かが「そんなに俺が悪いのか(※フミヤくんではありません)」と、半ばあきれ気味につぶやきましたが、もはや空気は変わっていました。
この投稿は「デマ」と断定され、ネット上では小規模ながら“処刑ショー”のような状態に。
実際、その時点で「犯人が持っている銃」について、特定のモデル名が報じられていなかったにもかかわらず、無責任に住民の不安を煽るツイートがなされたことに対して、強い批判の声が上がるのは当然と言えるでしょう(個人の感想です)。
批判の機運が高まり、ツイート主は特に釈明することなくその投稿を削除。
その結果、なぜツイート主が「サイガ」と思ったのかは依然として不明なままとなっていますが、その後、ツイート主は何事もなかったかのようにバイクで風のように駆け抜ける様子を投稿。
しかし、未だに一部では批判的な反応が続いているようです。
企業が参戦
一方、この「サイガと思われる」というツイートに便乗して、安易に「凄惨な事件の犯人の凶器」に関する推測をしたのが、ガバメント系モデルガンで定評のあるメーカー『E社』の公式Twitterアカウント。
同アカウントは、「事件現場で薬莢が発見されたこと」を根拠にサイガ12という銃名を挙げました。
しかし、排莢操作を行えば、薬莢は排莢されること自体はどの銃にも共通するため、現場に薬莢が残っていたからといって「サイガ」であるとは限りません。
この推測は結果的に幼稚な憶測として批判を受けることとなりました。
さらに、同ツイート内で薬莢を「ケース」と表現したことが、「デマ警察」の怒りを買う事態に。
「薬莢」の英語は「case」であり、何も不適切ではないと思われますが(個人の感想です)、それを「モデルガンメーカーが薬莢を『ケース』って…」という謎の批判も。
結局、企業公式アカウントが捜査中の事件に対して無駄な推測を投稿したこと自体が問題視され、同社も釈明することなく、当該ツイートを削除し、指摘した人々を次々にブロックする対応に。
さて、今回の「サイガ12騒動」、いったいどこに落ち着くのでしょうか。
興味深いのは、この騒動がなぜか偶然、エアソフトガン大手の東京マルイから「サイガ12」が発売される2023年6月2日の直前に起きたことです。
この件に関しては、「マルイが発売を延期したらどうすんだ!」という風評被害を心配する声まで上がっていました。
「空気」で裁かれる時代
この一連の流れが示すのは、真偽よりも「空気を読め」「いらんこと言うな」が優先される時代の怖さ。
投稿者の意図がどうであれ、拡散された段階で“印象”が独り歩きし、やがて「正しさ」を求める群衆の制裁対象となっていく――。
この構図は、もはや珍しいものではありません。
炎上して火達磨になった火災現場あとのコメント欄には、今も絡みにくる“自警団員”がちらほらと見受けられます。