この記事を読むと、警視庁SPのけん銃は過去25口径だったこと、そして38口径に変更された理由、さらに現在のSPで主力の最新式けん銃について知ることができます。
2025年現在、全国の警察本部警備部では主に地域警察官が着装しているサクラやエアウェイトといった銃器のほか、高威力かつキャパシティに優れた自動式けん銃を複数配備。
特に昨今のSPのけん銃はバラエティに富んでいます。
しかし、これは『今でこそ』のお話で、かつてのSPのけん銃といえば、25口径や32口径と非力だったのです。
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1975年のSP発足時の主力は32口径のFNブローニングM1910と25口径のCOLT .25(コルト・ベストポケット)
SPが所属するのは警視庁警備部。なお、他の道府県警察では警備部の中に公安課を置いていますが、警視庁では公安部として独立させています。
補足説明→警視庁公安部(公安警察)の役割
それまでの日本の首相警護官と言えば、威力よりも携帯しやすさ、そして国民感情へ配慮する目的もあったのか、群集を不必要に畏怖させる大型けん銃よりも、手のひらに隠れるほど小さなけん銃を選定した経緯が。

けん銃の早撃ち訓練をする警視庁要人警護警官(SP)。創設当時のSPでは32口径のFNブローニングM1910を配備。出典 時事通信社
警視庁にSPが正式に発足したのは1975年9月13日。当事の主力銃器は32口径のFNブローニングM1910と25口径(.25ACP弾)のCOLT M1908 .25 automatic(コルト・ベストポケット)という超小型けん銃。
彼らは当時の公開訓練にて、これらの銃を披露。

こんな小さなサイズで、日本の総理大臣は護られていた…。
現在、機動捜査隊などに配備されている32口径のSIG P230よりもさらに小型のCOLT M1908。
しかし1992年3月、自民党の党三役である金丸信・前副総裁が、足利市にて右翼団体関係者の男から、2000人の観衆の前でけん銃を3発発射される狙撃未遂事件が発生。
厳重警戒にあたっていた警察当局、SPらを震撼させました。
おりしも当事は暴力団からのトカレフ押収量が増加していた時期。
一般人までもが所持していたトカレフは、それまで国内で流通していた違法けん銃よりも殺傷力が強く、一気に社会問題化。
警視庁では当時国内で1000丁以上のトカレフが出回っていたと推定しています。

トカレフけん銃 写真引用元 警察白書 https://www.npa.go.jp/hakusyo/h07/h070102.html
しかも、本来軍用けん銃だけに『貫通能力が非常に強い』トカレフ。
トカレフ相手では当時の警察が配備している防弾チョッキでもまったく太刀打ちできず、防弾ガラスと特殊鋼を装備した警護車がピアッシングされてはたまりません。
VIPがトカレフで狙われた場合、それを守り、『動く壁』となる警視庁SPの持つ25口径けん銃で対処できるか、反撃する間もなく、SPが命を落とすのではないかと云う危機感が現場で一気につのったのです。
SPが配備する小型けん銃『コルト・ベストポケット』が使う.25ACP弾は各国の警察など治安機関でポピュラーではなく、当時の制服警察官に広く配備されていた38口径のニューナンブM60に比べ、最大で30%ほども威力差があり、あまりにも非力でした。
ついには1992年7月、東京都町田市にて立てこもり事件が発生し、トカレフを持った被疑者と対峙した神奈川県警機動捜査隊員が殉職。
この事件で被疑者の発射したトカレフの弾丸は最初に被弾した県警機捜隊員の心臓を貫き、後方の別の捜査員の足に命中。
こうして、金丸信前自民党副総裁狙撃事件や、トカレフの押収量と関連事件が増えたのを背景に、警視庁では『要人警護官(SP)』が携行する25口径けん銃の威力不足が議論され、同年11月4日までにけん銃を25口径から38口径に切り替えを決定。事実上の大口径化です。
93年7月に開催予定の東京サミットや、翌年4月の天皇陛下の沖縄植樹祭出席など、大型警備が控えている警察当局では、年末から38口径タイプのけん銃に切り替えを始め、要人警護に万全の構えで臨みました。
また、SPでは銃の大口径化と平行して、すぐに銃を取り出せるよう、けん銃の着装方式も右腰のヒップホルスターから左脇吊り下げ式(ショルダーホルスター・タイプ)等に変更を決定。
このように、警視庁SPは当時脅威であった威力の強いトカレフけん銃に対抗するため、それまで口径の小さなけん銃から地域警察官と同じ38口径の回転式けん銃に代えることで、対抗策を講じたのです。
余談ですが、このような凶悪犯罪に対抗するために捜査当局が、けん銃の口径と威力をアップさせた例としては、アメリカのFBIの例があります。
そして、現在のSPでは口径だけでなく、装弾数にも優位性を持つセミ・オートマチック方式のけん銃が貸与されています。
現在の警視庁SPが配備するけん銃
現在のSPでは、主に地域警察官に貸与されている38口径回転式けん銃『サクラ』よりもハイキャパシティかつ、連射しやすく、人体への殺傷力が強い9ミリ弾を使う半自動式けん銃を配備。
主に三種類が確認されています。
ベレッタ92

時事通信社の報道から引用した写真に見られるように、米軍が近年まで制式けん銃として配備し、捜査一課特殊班(SIT)も使う威力の強いイタリア製の9ミリ口径の軍用けん銃『ベレッタ92』。
厚生労働省の一部も使ってますね。労働基準監督官にも支給してください。労災隠し。
SPではないですが、栃木県警察ではこんなのも使っています。
ベレッタ90-Twoの課金仕様。
グロック

SPの手に鈍く輝くG-SHOCKとグロック17オートマチック。
オーストリア製のポリマーフレームけん銃『グロック』の使用も。
日本警察でのグロック配備が明らかになったのは2002年『サッカーワールドカップ』の開催を控えた直前。
それまで徹底的に秘匿されてきた警視庁特殊急襲部隊SATの訓練動画を突如として警察庁が報道に公開。
その動画において、航空機内へ突入する隊員が構えていたのが、サブコンパクト・サイズのグロック19とみられる銃。
上記に引用した写真に写るのはそのサイズから、おそらくは同社のG17(口径9mm)、もしくは.40口径のGlock22の可能性もあります。
スライドに『謎のレバー』はついていませんので、連射機能があり、一瞬にして弾幕を張れるキケンなG18ではないようです。
グロックも元々はオーストリア軍用に開発され、実際に同国軍に制式配備されている軍用けん銃。世界各国の警察機関で配備されています。日本も例外ではありません。
グロック社の公式プロモーション動画では世界各国の警察の紋章がフラッシュのように流れますが、その中に警視庁のものも含まれていることを今更得意げに紹介することは本来なら恥ずかしいことです。
それにしても、日本の警視庁さん、いつの間にかこんなにグロックが大好きになっちゃっていたんですね。
H&K USP
こちらはH&K USPです。SATのけん銃としておなじみのほか、陸上自衛隊特殊作戦群でも2004年から使用しているポリマーフレームのけん銃です。グリップが太すぎます。
H&K P2000

SP。その手にApple watchとP2000
こちらのSPは同じくドイツH&K製のP2000を携行。USPコンパクトをさらに高性能に改良したモデルがP2000です。
Gun Professionals17年2月号B01M286QJT | ホビージャパン | 2016-12-27

画像の引用元 https://www.handgunhero.com/compare/heckler-koch-p2000-vs-heckler-koch-usp
左がP2000、右がUSP。両者を並べると、その小ぶりなサイズさが分かります。
フルサイズのUSP、そのコンパクト版ですら「太くて握れない」として、ある国の女性警察官を泣かせているそうです。

けん銃界の恵方巻、USP&USPコンパクト。やめなさい(笑)
ともかく、そのグリップの太さを改良したのがP2000とのこと。ジェンダーレスけん銃ですね。なんで東京マルイさんは出さないんでしょうかねえ。
M38ボディーガード・エアウェイト
余談ですが、サクラけん銃のトイガンをモデルアップするタナカ社によれば、日本警察ではM38ボディーガード・エアウェイトも一部限定的に存在が確認されているとのこと。

日本警察の一部限定的とは具体的にどこの部署かは不明で、報道でもこの銃を公開した事例はなく、実際の配備は不明。
ハンマーシュラウドと呼ばれる特異なフレーム形状をしており、咄嗟の抜き射ちでもハンマーが衣類に引っかからない同タイプのリボルバーはボディーガードの名が示すとおり、アメリカでは警護官などに愛用されているほか、非番の警官のバックアップ用として定評があります。
まとめ
配備不詳のM38を除けば、SPの使うけん銃はいずれも15発から17発程度の弾丸を装填できる複列弾倉式かつ自動式の軍用・警察向けのモデルです。
制服の地域警察官の持つスミス&ウェッソン・サクラという装弾数5発の回転式けん銃に比べると、「火力」がまるきり違うのがお分かりでしょうか。
明らかに昭和の古き良き時代に比べて、威力・装弾数ともに増強されたSPのけん銃たち。もうあんな悲劇は起きて欲しくありませんよね。
2021年には東京オリンピック警備用公式けん銃(!?)としてSFP9が全国の警察本部警備部に導入されています。
多くは警備部機動隊の銃器対策部隊やERTなどでの配備と見られていますが、SPが手にした姿も見られるかも知れませんね。
でも無課金おじさんもかっこいいですよね。