警察さんって射撃訓練で年間何十発くらい撃つんですかあ?

警察庁の通達では、少なくとも交番勤務員や刑事部の専務員には年1回の実弾訓練を義務づけている。

警察官の射撃訓練の実例

訓練内容自体は標準的だという。年に数回、警察学校に出向き、貸与されている回転式けん銃を使用し、ペーパー・ターゲット(紙的)を撃つという実にベーシックなメニューが中心となる。

都道府県警察では3種類の回転式および、2種類の自動式けん銃が主流

姿勢も基本的には教科書的な動作の二通り。すなわち、右手のみで撃つ片手撃ちと、両手で銃をホールドする両手撃ち。これをベースに実戦的な戦術訓練を行うという。

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警察の射撃訓練は「予算ありき」となっている

しかし、訓練には制約がある。勤務の間を縫うように設けられた射撃訓練は時間の捻出もそうだが、最も現実的な制限要因となるのは、「予算」である。

拳銃の射撃訓練の様子

写真はイメージとして掲載しているもので、記事内容とは無関係です。

2014年度の公表値によれば、全国47都道府県警が実弾訓練用に費やした弾薬の購入費用はわずかに2億2千万円。この額では、全国の警察官がせいぜい年間40〜50発程度の実弾を撃つのが限界であるとされる。

しかも、その弾ですら訓練弾――鉛ではなくプラスチック弾頭で、火薬も弱装のものが多く使われている。銃身の寿命を保つためなのか、安全のためか。それともやはり、圧倒的に不足している予算ゆえなのか。

いずれにせよ、日本の警察官が実際にフルパワーの実弾を用いた射撃訓練を十分に受けているとは言いがたいのが現実だ。

グロック拳銃の射撃

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これが、アメリカの警察官たちが年に数千発の実弾を撃ち、定期的に屋外レンジで動的射撃訓練を受けている現実と比べたとき、いかに大きな隔たりがあるかは言うまでもない。

もちろん、銃の使用機会そのものが圧倒的に少ない日本と正反対のアメリカとを単純比較するのは適切ではない。だが、発砲の一瞬に命運を託す現場に立つ者にとって、「撃てるか」ではなく「撃ち慣れているか」が生死を分ける現実は変わらない。

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なお、実弾訓練に関して、一部地域では環境が整いつつある。千葉県警では木更津署、野田署など一部の新設署では、署内に射撃場を併設しており、従来のように警察学校へ出向くことなく、所轄の施設内で実弾訓練を行える体制が整えられている。

拳銃射撃とペーパーターゲットの画像

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もっとも、こうした施設を備える警察署は全国的にはまだ少数派であり、多くの警察官はいまなお限られた訓練機会の中で技能を維持しているのが現状だ。

なお、警察官が携行するけん銃の取り扱いには「けん銃操法」と呼ばれる基本規定が存在し、射撃技術には独自の級制度による格付けも行われている。訓練の実情と制度の整備がどう歩調を合わせていくかが、今後の課題となりそうだ。

映像装置による仮想射撃訓練 実弾訓練を補完する“署内射撃訓練”

全国の警察官による拳銃の射撃訓練について、警察庁は現在、実弾を用いた訓練と並行して、映像シミュレーターを使用した仮想訓練の活用を各都道府県警察本部に通達している。これは、実弾訓練の機会が限られる中でも、練度を維持するための措置とされる。

たとえば、岐阜県警の公式サイトによれば、こうした訓練機器は「映像射撃シミュレーター」と呼ばれ、テレビ画面やスクリーンに映し出された被疑者の動きに合わせて、訓練銃、あるいは実銃に取り付けたユニットからレーザー光を発射することで、模擬的な射撃訓練が行える仕組みとなっている。実際の訓練風景では、警察官が画面の被疑者に対して銃を構え、射撃の判断や照準動作を繰り返す姿が確認できる。

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この種の訓練装置は、広い武道場や会議室を活用することで、各警察署内でも安全に導入が可能とされ、すでに複数の都道府県で導入実績がある。

「重さ」は安全の代償か 回転式けん銃の利点と課題

現在、日本の地域警察官に貸与されているけん銃の主流は、いまだ回転式けん銃(リボルバー)が中心である。

グロック45のような自動式けん銃(オートマチック)の導入が一部の地域警察官で進む中にあっても、日本の当局は今なお信頼性と整備性に優れるこの旧来の回転式けん銃による法執行を推進している。

市販のモデルガンを使って射撃フォームのトレーニングの研究を行う警察官の写真。 モデルガンの撃鉄はあらかじめ通常位置から撃発準備位置まで手動で移動させた「シングルアクション」の状態であることに留意。※写真は批評および研究のため、毎日新聞社公式サイトから引用したもの。

リボルバーは、内部構造が比較的単純で故障が少なく、撃発までの動作が確実であることが最大の利点とされる。

日本の警察で主流の回転式けん銃が「比較的安全」とされる理由とは

特に日本の警察制度では、発砲が極めて限定的であることから、長期間にわたる携行に耐える堅牢性が重視されてきた。

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一方で、構造ゆえの運用上の課題もある。日本警察ではかねてから、あらかじめ撃鉄を起こしてから引き金を引くシングルアクションによる正確な射撃が推奨されており、その訓練も最大25メートル程度の距離で実施されている。

シングルアクションでは、引き金の重さ(トリガープル)は約2キロ程度と軽く、命中精度の向上に寄与するとされる。

だが、実戦では常にシングルアクションの準備動作を行えるとは限らない。とっさの場面では、まさに抜き撃ちに近い状況もあり得るだろう。

その場合、撃鉄を起こさずに撃つ「ダブルアクション」による発砲が現実的だが、このダブルアクション方式では引き金を引くだけで撃鉄を起こし、シリンダーを回転させる必要があるため、約7キロに及ぶトリガープルが射撃精度に悪影響を与えるのだ。

実際、発砲時に狙点よりも下方に着弾する「ガク引き」と呼ばれる現象は、こうした構造的な負荷に起因する。現場の警察官は、こうしたトリガーの重さを制御する訓練を、日頃の模擬射撃などで積み重ねているのが実情のようである。

アメリカの警察で自動式のグロックがこぞって導入されたのも、軽いトリガープルが受け入れられたためともされている。ただしニューヨーク市警では、暴発防止のため、あえてトリガープルを重くしている。

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一方、リボルバーには手動式の安全装置が存在しないため、トリガープルの重さそのものが一種の暴発防止策となっている利点もある。加えて日本の警察では、「安全ゴム」と呼ばれる部品を引き金の後方に取り付けることで、意図しない発砲(暴発)をさらに防ぐ措置が取られてきた。

『安全ゴム』に見る日本警察のけん銃管理

通常であれば、これらの回転式けん銃本来に備わる安全機構と、追加の安全対策で物理的に”異物”をハメ込まれた日本警察の回転式けん銃は、意図的に引き金を引かない限り、暴発することがない。

しかし近年では、首都圏の一部ではこの方式が見直され、「安全ゴム」自体が廃止される動きも出ている。

利便性と安全性を両立するための設計が、日々の訓練と制度によって支えられている現在のけん銃運用。その在り方が、今後の拳銃更新の議論において再び問われることになりそうだ。

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根強い「警察官の銃、最初の一発は空包説」

回転式拳銃の実弾装填

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「警察官の拳銃には、最初の一発として空包が装てんされている」――そんな噂はいつの時代も一人歩きする。

しかし、この「最初の一発は空包」説は、事実に基づくものではない。結論から言えば、日本の警察官に貸与されている銃には、最初から最後まで実弾が装てんされている。実際の職務執行にあたって、空包は使用されていない。

そもそも空包とは、弾頭(飛翔体)が装着されていない訓練用の弾薬であり、火薬の爆発によって発砲音と閃光は生じるものの、弾は飛ばない。演習や儀礼に用いられるもので、実戦用途には適さない。ただし、銃口からは高温高圧のガスが噴出されるため、至近距離では危険性を伴う。

警察官が銃を使用するのは、刑法や警察官職務執行法などに基づき、「必要最小限」に限られる。つまり、自身または市民の生命の危険が差し迫るような、限定された場面と規定されている。発砲は威嚇の手段ではなく、あくまで正当防衛あるいは緊急避難として行使される最終手段である。その意味でも、空包の初弾は制度上も、実務上も成立しない。

凶器を振り回す暴漢、銃器を所持した逃走犯、制止に応じず車両を走らせ逃走しようとする被疑者。こうした状況に遭遇する警察官の最初の一発が空包であると想像しただけでも恐ろしくなる。逆に被害が拡大するリスクすらある。初弾から確実に制圧力を持つ実弾であることは不可欠なのだ。

では、なぜこのような誤解が広まったのか。原因のひとつは、昭和期の刑事ドラマや漫画など、フィクション作品の演出にあると見られている。主人公の刑事が初弾に空包で威圧し、次は実弾を撃つ、と犯人に宣言するようなシーンは、当時の作品でたびたび描かれていた。

だが、それはあくまで物語上の演出であり、現実の警察実務ではない。実際には、警察庁の運用方針に基づき、拳銃には常に規定の数の実弾が装てんされており、「空包の初弾」といった特例的な扱いは、公にされた文書や報道からは確認されていない。

以上の点を踏まえれば、「最初の一発は空包」という説は、明らかな都市伝説の域である。

まとめ

近年、欧米に倣ってか、グロックが日本の地域警察官の装備として採用され、街頭にその姿を現すようになった。

一方で、グロックどころか民間におけるけん銃射撃競技は、依然として非常に狭き門であり続けている

射撃競技用のピストル

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ピストル射撃はオリンピック種目として認知されているものの、日本においては競技用けん銃の所持自体が極めて厳しく規制されており、民間人の所持はわずか500名に制限されている

ピストル競技は所持に厳しい規制があるため、民間人で所持できるのは500人に制限されている。大会などでは警察官や自衛官がその大半を占め、民間の競技選手がトップ選手として活躍するのは極めて稀なことだ。

引用元 立命館大学公式サイト http://www.ritsumei.ac.jp/features/r_na_hito/entry/?post=111

射撃が趣味や競技として自然に受け入れられている諸外国と異なり、日本ではそれが「特別な資格者の、特別な許可のもとにのみ行える行為」として、極めて厳格に制度化されているのだ。

そのため、国内のピストル競技の選手層の多くは、現職の警察官や自衛官といった「職務上で銃を扱うことが許されている公職者」によって占められている

警察官であれば「特練員(とくれんいん)」という特別な射撃訓練を受けた者、自衛官であれば、オリンピックの金メダル獲得を最終目的に据えた自衛隊体育学校の所属選手がその中心を担っている。

自衛隊体育学校――アスリートと体育指導者の育成機関

民間人競技者がこの世界で名を上げることは、制度上も構造上も極めて稀であり、まさに制度と戦う競技者といえる。

作家・安部譲二氏がフランス滞在中、けん銃射撃競技に出場して入賞し、メダルを獲得した際、「日本では民間人がピストルを撃てないのになぜ安倍がメダルを獲れるのか」とフランス国内で物議を醸し、新聞『ル・モンド』にまで取り上げられたという。

(会場:パリ郊外の射撃競技場。表彰式の後)

フランス人関係者(困惑気味に)
「ムッシュー・アベ、日本では民間人がピストルを所持できないと聞いていますが……なぜあなたはこんなにも熟達しているのか?」

安部譲二(ニヤリと笑って)
「そりゃあ、ワケがあるからですよ」

フランス人
「そのワケとは? あなた、警察関係者? それとも、なにか特別な治安関係の公職に…?」

安部(肩をすくめながら)
「警察関係!?いやいや、ぜんぜん違う。オレは―」

安部本人が自分の正体を明かすと――結果、国外退去処分になったという。安部のように「けん銃を持てないはずの日本人」が外国の競技会で結果を出すという出来事は、欧州にとっても一種のカルチャーショックであり、日本にとっては制度と“現実”のねじれがあぶり出された瞬間だった。

結局のところ、日本における拳銃とは、あくまで「国家権力の象徴」であり、「民間が扱うもの」ではないという原則が、制度の根幹にある。

日本の警察が使用する小火器の詳細については、以下のページをご参照いただきたい。

警察の使う主なけん銃と配備状況

いずれにせよ、日本の警察官の射撃技術は高いか、低いか。そのような知見は筆者にはないので、何も断定づけることはできない。

しかし、あの短い銃身の回転式けん銃を用いて、包丁を振り回す氷河期こどおじや、銅線盗んで逃走しようとする悪いプリウスに対して、的確に法執行を成功させている例が少なくない。

グロックのような近代的拳銃が日本の制服警官の腰に装備される時代が到来した今こそ、銃のハードだけでなく、その運用を支えるソフト、すなわち訓練と制度の側もまた、現代に見合った改革が求められているのかもしれない。

訓練の実情と制度の整備がどう歩調を合わせていくかが、今後の課題となりそうだ。

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