米国警察の屋根に警光灯がないパトカー『スリックトップ』の利点とは?

パトカーと言えば、多くの国で車体のルーフ上についた警光灯が特長。ところが、米国ではそうではない一風変わったパトカー『SLICK TOP(スリックトップ)』も配備されています。

スリックトップの運用目的と利点とは。

『スリックトップ』パトカーとは?

引用した画像はNYPDのパトカーですが、ルーフに警光灯を載せていない代わりにフロントウインドウ車内側上部に警光灯が装備されています。

ルーフ上のストロボがないため、車内のフラッシュが点灯していなければ、バックミラー越しに見ただけでこの車を警察車両と認識するのは難易度高め。

ルーフに警光灯を備えないこのような米国の一部のパトカーは通称、SLICK TOP(スリックトップ)と呼ばれます。

SLICKの名のとおり、屋根が平らのために空気抵抗が抑えられる利点がありあります。

パトカーのシルエットを欠いたステルス・スタイルは違反者からの識別を遅らせる

なお、通常のパトカーであれば、ボンネット正面上に通常あるはずの『NYPD POLICE』のデカールも省略されており、バックミラー越しには一見パトカーと悟らせにくいなど、覆面パトカーのような偽装効果の利点も。

もちろん、フロントグリル、ダッシュボード、リアウィンドウ内部などには通常のパトカー同様、ストロボやLEDの警告灯を搭載しており、緊急時に点灯します。

そう、全米各地の警察で配備されるこのスリックトップ。その運用目的は交通取締りです。

例えばミシガン州警察では交通取締りのために通常の青いパトカーに備えているあの有名な「ガムボールマシン」ライトを降ろした交通取締用パトカーを配備した「スリックトップ」部隊を編成しています。

ミシガン州警察のパトカーに取り付けられる”時代遅れ”の二つの装備品とは?

近年、従来より薄型の警光灯がメーカーからラインナップされていますが、屋根の上のライトバーが引き起こす空力特性による燃料消費の問題は、常に通常警らと追跡時の懸念材料。その懸念がなければ、高速走行時の安定性や燃費が向上します。

「スリックトップ」はこれら視覚的、あるいは燃料消費の利点のために、隠しLEDライトを使用して交通取締りでの効果を高め、成果を挙げています。

日本警察のパトカーでは制服パトカーか、完全なる覆面パトカーの二種類ですが、違反者の目を欺きつつも完全には警察のマークを消さないという米国警察の運用は、単に違反者へのフェアな振る舞いというよりも、フェイクコップを防ぐという、市民の命あるいは警官の命を守る狙いも。

これはあくまで筆者の推測であり私見ですが、この推測は以下に紹介する車両によって、裏づけの補強が図られています。

さらに見分けがつきにくい”セミ覆面”「ステルス」パトカー

今度はパトカーのカラーリングさえも消してしまった”セミ覆面”をご紹介。俗に「Ghost Policecar(ゴースト・ポリスカー)」や「ステルス・ポリスカー」と呼ばれる覆面パトカーがそれ。

以前の記事で『アメリカの覆面パトカーは警察の表記を入れていないので「Unmarked Policecar」と呼ぶ』と書きましたが、一部には“マーキングされた覆面パトカー”、すなわち”セミ覆面”の配備もされています。

こちらも州警察のハイウェイパトロールなど、交通取締り用に多く見られ、前述の”SLICK TOP”と同じく、外付けの警光灯を車内設置に代えています。

ただし、”SLICK TOP”と違い、パトカーのカラーリングではなく、あくまで一般車両のカラーリングで配備されているのが特徴です。

『それってただの覆面パトカーでは?』と思われるかもしれませんが、車体側面には確かに多くの場合、ボディ側面やリアに「POLICE」「SHERIFF」「STATE TROOPER」などのdecal(デカール・・・日本ではシール、ステッカー、マーキングを指す)があるため、完全な覆面車両ではないのです。

しかし、日中では人間が目視するのは非常に困難な仕様です。

いったいどんな仕掛けに?

『ステルス覆面パトカー』のPOLICEデカールはどんな仕掛け?

このデカール、日中では見えにくい特殊な仕様。陽が落ちて、車のヘッドライトで照らされると浮かび上がります。

日光の下では側面の”ゴーストストライプ”は視認しにくいが、車のライトが反射する夜間では容易にこの車が警察車両であると認識可能。ビックリマンシール効果。出典 https://www.dailymail.co.uk/news/article-4417224/The-ghost-North-Carolina-cop-cars-pull-drivers.html

ステルス・パトカーの側面のグラフィックとデカールは、日中ではほとんど視認できないか、非常にかすかに見えるだけ。これが覆面とセミ覆面である”ステルス”の違いです。

こちらの「New subdued patrol car aimed at catching distracted, aggressive drivers in the act」というニュース動画では、ハイウェイパトロールに新型パトカーが配備されたことを伝えていいます。

翻訳すると、「気を散らした攻撃的なドライバーを現行犯で捕まえることを目的とした、新しい控えめなパトカー」。

上記動画のステイト・トルーパーの交通取り締まり活動に密着取材によれば、この覆面パトカーの車体サイドのポリスマーキングが限界まで薄く表記されているステルス仕様になっているのがわかります。

これら”ステルスパトカー”は非常に巧みに偽装され、交通違反者はグリルに隠れているフラッシュライトが激しく点滅するまで、警官が後ろにビタ付けしていることを知らないことがよくあるそう。

このように、敢えて『覆面を半分しか被らずに』正体を露見させた覆面パトカーが存在する理由は警察の表記が車体にない場合、市民にフェイク(モドキ)と勘違いされ、市民が銃を抜く恐れがあるため、その防止も兼ねている可能性があるようです。もちろんフェイクコップ自体を出させないという犯罪抑止効果も。

実際に米国ではこのような事件も起きており、アメリカでは郊外の州間道路など、交通量の少ない道路では偽覆面パトカーを使って悪事を働くフェイクコップが未だ多数。とくに狙われるのは女性。

米国史上でも類を見ないニセ覆面パトカー凶悪事件!『ブルーライトレイピスト事件』とは?

そして、このようなステルス表記の事例はハイウェイの交通取締りに従事する州警察(State Trooper)のハイウェイパトロールが配備する交通取締り用覆面パトカーにとくに多いようです。

まとめ

このように、米国警察の一部のパトカーにはルーフにライトバーを備えずにフロントガラスの周囲、またはルーフの前縁や後縁に警光灯を取り付けたスリックトップや、セミ覆面のステルスも存在するというわけです。

これらのパトカーは、ライトバーやビーコンのシルエットも欠いているため、特に前後からパトカーとして識別しにくくなる効果を利用した交通取締りでの活用が主なもの。

しかし、完全に警察車両のデカールを消すことなく、最小限の識別表示をボディに残すのは『市民に本物の警官がフェイクコップに勘違いされる最悪の事態』を防ぐという狙いも。

スリックトップは単なる「目立たないパトカー」ではなく、市民の安全を守るための工夫の一つとして運用されているわけですね。

なお、警光灯もサイレンも搭載していないPOLICEデカールのみの『地域連絡車』も配備されており、こちらは主に地域コミニュティでの催事などに警察官が出向く際に使用されるほか、NYPDなどでは他の業種の業務車両に偽装した覆面パトカーも存在します。