皇宮護衛官の任務とは

本来、警察の役割とは、上下の区別なく、市民の生命や財産を公平に守ることが理想とされています。

しかし、それはあくまで理想論であり、弱肉強食のこの国においては、必ずしもその理想が現実に即しているとは限りません。実際、日本には一般市民を直接守ることを目的としない警察機関も存在します。

それが、天皇陛下ならびに皇族方の警衛、すなわち身辺警護を任務とする皇宮警察と皇宮護衛官です。

警察庁の付属機関である皇宮警察の役割とは

「市民を一切守らない」という表現には語弊があるかもしれませんが、皇宮警察の設置目的は「天皇および皇后、皇太子その他の皇族の護衛、皇居および御所の警備その他の皇宮警察に関する事務」とされており、一般的な捜査機関とは異なる性質を持つ組織であることは確かです。

また、皇宮警察は名称こそ「警察」ですが、その所属員の官職名は「警察官」ではなく「皇宮護衛官」とされている点からも、その特殊性がうかがえます。

つまり、「警めて心を察する」警察官ではなく、あくまでも「天皇陛下を護り、皇居を衛る」ことを使命とするのが皇宮護衛官なのです。

そのため、皇宮警察本部は警察庁の付属機関とされ、皇宮護衛官には特別司法警察職員としての身分と権限が与えられ、警察官と同様の制服を着用しています。

皇宮護衛官は、東京または京都の護衛署(警察署に相当)に配属され、天皇陛下をはじめとする皇族方が居住される皇居および御所などを警衛するのが日常の任務です。また、皇族方が公務で移動される際には、皇宮警察の白バイ隊員に加え、「側衛員」と呼ばれる特別な皇宮護衛官が派遣されるのが通例です。

さらに、天皇陛下ならびに皇族方や皇居に対する犯罪の捜査も行っています。

警察庁に所属しながらも警察官ではなく、それでいて拳銃を貸与されている―

とはいえ、皇宮護衛官の法執行権については、基本的に一般の警察官に適用されるものを準用しているに過ぎません。制服の基本フォーマットも警視庁と同じであり、某県警のような予算不足による質の悪い仕立てではないことが特徴です。

また、階級制度についても、基本的には警察官の各階級に「皇宮」が付加される形となっています。例として巡査であれば「皇宮巡査」となります。

皇宮警察官と皇宮護衛官の違い

現在の皇宮警察は警察庁の付属機関とされていますが、戦前および戦中は宮内庁に所属しており、当時の官職名は「皇宮警察官」でした。

ただし、当時の皇宮警察官は一般の警察官とは異なり、警察権の付与が限定的で、拳銃や日本刀による武装は認められていたものの、現行犯以外の逮捕権を持たないなど、現在の皇宮護衛官とは大きく性格が異なっていました。

意外と知られていない皇宮護衛官の活動

皇宮護衛官は、天皇皇后両陛下をはじめとする皇族の警護を主任務としていますが、それだけにとどまりません。

例えば、皇居内で発生した火災への初期対応も担っており、皇宮護衛官は消防活動にも従事します。

さらに、皇族が学校に通われる場合、皇宮護衛官が同伴し、校内で武装警護を行うこともあります。

また、皇族方は書道や茶道などの伝統文化にも造詣が深く、それらの催しが行われる際には、護衛のために皇宮護衛官が同行します。

そのため、単なる警備要員ではなく、高い教養が求められるのが実情です。実際に皇宮警察の公式リクルートサイトでは、護衛官の制服姿のまま学生がお茶をたてるという、一般の警察ではあまり見られない光景が掲載されていました。

もっとも、都道府県警察学校でも課外活動としてクラブ活動が行われるため、特に不思議なことではないのかもしれません。

さらに、皇宮護衛官は馬術にも通じており、皇族方と共に馬に乗る機会もあります。

皇宮警察の装備品

皇宮警察本部では、警衛業務のためにパトカーを配備しています。しかし、その外観は都道府県警察の白黒パトカーとは異なり、真っ黒やグレーの車体に旭日章をつけ、ブーメランパトライトを装備した独特な仕様となっています。

都道府県警察のように車体の色が統一されているわけではなく、皇宮護衛官の任務の特殊性を反映したものとなっています。

Fire_engine_of_Imperial_Guard_Headquarters

皇宮警察の消防自動車。皇居内の消防活動も皇宮警察が担う。

なお、皇宮警察のパトカーは、天皇陛下や皇族方の車列に随行することはなく、もっぱら皇居や御所の警衛に使用されています。

皇宮護衛官の武装は?

皇宮護衛官には警察官に準じた武装が法律で許されており、警察官と同種の回転式短銃が主流です。古くはブローニング製品の自動けん銃を側衛員と呼ばれる警察のSPに相当する皇宮護衛官が携行し、一般の護衛官はスミスのレギュレーションポリスや、チーフスペシャルを使用していました。

マルシン FN browning ブローニング M1910 PFCブローバック仕様 HW樹脂製 モデルガン組み立てキット完成品 古美塗装仕上げ

麻薬取締官や皇宮護衛官の使用したブローニングけん銃※モデル品

 

都道府県警察では3種類の回転式および、2種類の自動式けん銃が主流

 

その後、ニューナンブM60が開発されると、警察官同様に皇宮護衛官用にも導入され、現在でも広く使用。

一方、警察のSPがかつて使用していた小型のワルサーPPKが皇宮警察に移管されたことが興味深いでしょう。皇宮警察の公式サイトにはPPKで射撃訓練を行う女性皇宮護衛官の写真が掲載されていたため、PPKは現在も皇宮警察で配備している模様です。

マルゼン ワルサーPPK/S ブラックメタル ブローバックガスガン 18歳以上用

以前、皇宮護衛官が着装していた赤色のけん銃吊りひもは天皇皇族方に忠誠を誓う赤誠/赤心を表していたとされ、皇宮警察のみの特別仕様でした。赤吊りひもとワルサーPPKって意外な組み合わせですよね。

ほかに、特別警備隊員用としてMP5短機関銃も配備されています。

警察の銃器.2 『特殊銃』MP5から自衛隊89式、対物狙撃銃まで

皇宮警察のまとめ

このように皇宮警察とは特定の任務にのみ従事する警察です。

市民を一切守らないと書きましたが、全国の警察官がハケンされる千葉県警察成田空港警備隊には皇宮護衛官もハケンされることがあるほか、東日本大震災では皇宮護衛官による「皇宮警察ひまわり隊」が被災地の避難所へハケンされて警備任務を行っており、特定の場合に限ってはまったく市民を守らないということはないようです。