警察の銃器.2 『特殊銃』MP5から自衛隊89式、対物狙撃銃まで

普段、街中で見かける地域警察官が携行する銃は多くが38口径の回転式です。

都道府県警察では3種類の回転式および、2種類の自動式けん銃が主流

しかし、機動隊の各機能別部隊や特殊部隊SATになると、けん銃よりもはるかに強力な威力を持つ軍用のサブマシンガンや自動小銃、それに狙撃銃、対戦車ライフルまで幅広く配備しています。

当然、これらの銃の取扱者は特別に訓練を受けて取り扱いを許された指定警察官のみ。

警察さんって射撃訓練で年間何十発くらい撃つんですかあ?

そして彼ら特別な警察官だけが扱うこれらの銃器が「特殊銃」です。

特殊銃その1、機関けん銃

外国の政府機関が配備する3点バースト付きのMP5短機関銃(機関けん銃)の実物。 photo by Rizuan

現在、我が国の警察で『機関けん銃』の名称で配備されるのはアメリカや先進国の法執行機関で広く配備されるドイツ・H&K社製の短機関銃『MP5』。

その姿が初めて公になったのはサッカーワールドカップを控えた2002年5月10日、警察庁がメディアに公開した警視庁特殊急襲部隊SATの訓練映像。

同訓練映像の中で濃紺のアサルトスーツを身にまとったSAT隊員が携行していたMP5は伸縮式銃床を備えた9ミリ口径の30連発モデル。

MP5は武装強盗や立てこもりといった軽度テロ事案など、警察機関対応相当の事件への法執行に最も適した高性能の特殊戦術用火器と呼び声高く、世界各国の警察機関から絶大な支持を得ています。

濃紺のアサルトスーツと防弾装備を着装し、目潰しのウェポンライトを搭載したHeckler & Koch製の短機関銃MP5を発砲する特殊急襲部隊SAT隊員。精確な射撃を期するためにホロサイトや曳光弾なども使用する。 ※画像の引用元 産経新聞webサイト

それまでのサブマシンガンの常識を覆したMP5。その成功の理由の一つに、ローラーを利用してボルトの後退速度を低下させることで発射の衝撃(リコイル)を和らげるローラー遅延式ブローバック方式の採用があります。

MP5が主流となる以前のサブマシンガンでは反動の大きいストレート・ブローバックが主流。

すなわち、銃身が短く携行性が容易なサブマシンガンは弾丸を広範囲にばらまく”面制圧”は得意でも、単発による精密射撃、すなわち狙撃による外科手術的な目標排除には向いておらず、場合によっては人質を受傷させる危険性をもはらんでいたのです。

MP5のローラー遅延式ブローバックは『射手が意識して発射弾数を制御することが困難である発射速度の高いサブマシンガン』の欠点を補えるため、良好な命中精度と集弾性を実現。

とくに単発射撃では精度の高い簡易狙撃銃としても使えるため、特殊部隊で運用される場合はスコープやダットサイトなど光学照準器の搭載も主流。

実は秘密裏に編成された特殊急襲部隊SATの前身組織『警視庁第六機動隊の特科中隊SAP』、そして『大阪府警零中隊』では以前から配備が行われていました。

日本で配備されるMP5の仕様は?”MP5J”という呼び名は間違い?

現在では都道府県警察の機動隊、銃器対策部隊、さらにはSATなどにMP5AやMP5Fと見られるモデルなど、複数のバリエーションのモデルを配備。さらに皇宮警察、海上保安庁や海上自衛隊特殊部隊もMP5を配備しています。

いまやMP5は日本でも法執行機関や国防組織の作戦遂行に欠かすことのできない装備品。しかし、警察庁が配備する正確なモデル名については不明な部分も。

前述の2002年に公開されたSATの訓練動画ではほとんどノーマル然とした外観だったMP5が、現在ではレイルシステムにフォアグリップ、フェイスシールドを下ろした隊員でも銃を構えやすくしたスイスB&T(Brugger &Thomet ブルッガー&トーメ社)の湾曲ストックまで換装され、かなりの課金おじさん状態です。

では、日本警察が配備するMP5は既存のどのモデルなのでしょうか。しいて言えば、MP5A5をベースにした“日本政府仕様MP5”です。

Heckler & Koch社では自動車の様に細かなオプションを指定できるため、各国警察が予算や目的に合わせて要求したそれぞれのご当地MP5が出来上がります。

これについては日本警察仕様MP5を『MP5J』としてモデルアップしている大手トイガンメーカー『東京マルイ』が、あくまで報道資料に基づいたデータからの憶測であると断りを入れながらも、以下のように詳しい見解を示しています。

当初その特徴的なリトラクタブルストックの形状からフランス向けに開発されたMP5Fと報道されたが、日本警察仕様MP5とは異なる。このため、日本警察のMP5は内部機構的にはMP5A5をベースに、新型外装パーツに換装した日本独自仕様であると思われる。しかしながら、MP5Fの強化ボルトグループはすべてのMP5と互換性があるため断定は出来ず、この見解は憶測に過ぎない。あるいはMP5F A5と呼ばれるモデルかもしれない。

出典 株式会社 東京マルイ公式サイト
https://www.tokyo-marui.co.jp/pdf/p_pdfmanual_121127152144.pdf

(内容を要約し出典を明示して記載する「間接引用」を行った)

それによれば、A5、またはF、さらにはMP5FA5であるとも推測。Fであるという見解を裏づける根拠として同社が挙げているのが、各国の警察機関からのお見積もりに対してH&K社が現在提案しているのがMP5Fであるらしいという理由。それが事実であれば、当然日本も例外ではないでしょう。

つまり、日本警察のMP5はMP5A5をベースに新型パーツに換装されたタイプ、またはMP5Fのバリエーションのうちの一つ、MP5F A5である可能性が高いというわけ。

あとはスイスB&T(Brugger &Thomet ブルッガー&トーメ社)のハイマウントベースを咬ませてEotec社製のホロサイトを取り付け、テプラで『○×県機動隊 備品管理番号×××』と貼れば日本警察版MP5の完成です。機動隊や特殊部隊SATではそんな超課金高性能機関けん銃がいくつもあるようです。

つまり「MP5-J」は東京マルイが日本警察仕様のMP5を同社の見解と考察の元でモデルアップしたエアソフトガンの商品名であり、H&K社の実際の製品名としては公式に存在しないもの。

警視庁機動隊員とMP5のダミー。出典 ANN NEWS『銃乱射しながら男乱入……高校生研修会場でテロ訓練(16/03/14)』

ただ、警察の公開訓練では模擬銃として東京マルイ製のMP5-Jが頻繁に使われており「日本警察が使っているのはMP5-J」というのも、あながち間違いではないのかもしれません(なお、M3913の模擬としてウェスタンアームズのM4013TSWも使用)。

一方、MP5は主に警備部の装備でありながら、警視庁では刑事部である捜査一課特殊班SITにも単発モデルのMP5(SATマガジンでは本銃をMP5SFKと呼称)を配備。

刑事部の『SIT』と警備部の『SAT』の違いはひとつだけ

また、『警視庁・特殊部隊の真実』(伊藤鋼一・著、大日本絵画、2004年)に記載された情報によれば、サイレンサーが標準搭載された「MP5SD6」や、限界まで銃身を切り詰め、ストックを廃した「MP5K」なども配備されていたそうです。

「取り出し」、「連射への設定変更」、「使用」などは指揮官の許可が必要

通常、特殊急襲部隊SATではMP5の安全装置兼射撃モード切り替え用の「セレクターレバー」をセーフモードにして安全管理を徹底。戦闘中であっても単発射撃を基本とし、隊員の個人判断で連射にレバーを切り替えることは許されず、状況がひっ迫して命令・指示を受けられない場合を除いて、連射モードへの切替は指揮本部の許可が必要になるという話も。

HK Slap

映画でMP5が登場する作品は多いもの。それらの映画では弾丸を装てんする際にコッキングハンドルをひっぱたいて、少々手荒に前進させるシーンが。

この動作をHK Slapと呼びますが、もはや「お約束」シーン。実際そのように勢いよくボルトを前進させないとスムースな薬室への装填は不可。

東京マルイ製品で行うとハンドルが根元から折れるので絶対にやらないでください。

特殊銃その2、狙撃銃……高性能な害獣駆除用ライフル

日本警察における狙撃手は機動隊の原子力関連施設警戒隊など各種機能別部隊ならびに特殊部隊SATに所属。

『不具合を確認するためホルスターから銃を抜いた際に誤射』……北電泊発電所警備中の機動隊員が誤射した『自動式けん銃』とは?

現在は自衛隊も狙撃手がいます。

陸上自衛隊の狙撃手

日本警察の狙撃手がもっとも多くの注目を集めた出来事は1970年発生の『ぷりんす号乗っ取り事件』。同事件の被疑者は盗んだライフル銃を船上から発砲するなどしたため、広島県警本部長の命令により、派遣されていた大阪府警の狙撃手によって被疑者は制圧。その際に狙撃手が使用した銃が、単発式のボルトアクションライフル「豊和ゴールデンベア」です。

現在の都道府県警察が配備している狙撃銃は複数で、ボルトアクション式の単発ライフルからセミ・オートの超高級半自動式ライフルまで様々。

主に下の4つのモデルが配備されています。

警察が配備する狙撃銃その1「豊和M1500」

ホーワ(豊和工業)M1500は、同社のゴールデンベアをフルモデルチェンジした高性能民生用ライフル。

『Howa Model 1500 Carbon Fiber Model』画像の出典 豊和工業公式サイト https://www.howa.co.jp/products/firer/rifle.html

現在、警察ではM1500シリーズの中でも「バーミンター仕様」と呼ばれる銃身が太くなったヘビーバレルモデルをSATや銃器対策部隊などで配備。「ウェザビーMk5」を参考として製造されたオーソドックスなボルト・アクション式のライフルで、日本国内はもとより外国でも高評価を受けています。

なお、警察部内での制式名称は「特殊銃I型」。

警察が配備する狙撃銃その2「PSG-1」

画像の出典 H&K PSG-1. The grail of semi-automatic sniper rifles.

軍事専門誌『SATマガジン』2009年1月号によれば、警視庁特殊部隊SATでは自動式狙撃銃であるHeckler & Koch製PSG-1を使用しているとのこと。

MP5と違って、警察はなかなか狙撃銃を見せてくれません。最後の切札、その手の内を明かすのは避けたいのでしょうか。

PSG-1は半自動式高性能狙撃銃で、一発ごとに装填のための操作が必要なボルトアクションライフルに比べ、素早く目標に連続射撃が可能。

 

精度は良好ですが、高価なために世界では予算不足により買えない警察や軍隊があり、それでも欲しい場合、代理店が提示するのは廉価版の『MSG-90』です。

警察が配備する狙撃銃その3「L96A1」

警視庁SATでアキュラシーインターナショナル製品のL96A1を配備しているとの情報も(こちらも前述の『SATマガジン』2009年1月号による情報です)。L96A1はイギリス軍が配備するボルトアクション式精密狙撃ライフルで、口径は複数。米軍も運用しています。

警察が配備する狙撃銃その4「対物狙撃銃」

前述した三種は、いわゆる「対人狙撃銃」です。日本警察では対物狙撃銃(アンチ・マテリアル・ライフル)としてアキュラシー・インターナショナル製の対戦車ライフルまで配備されていると一部で指摘されています。

一般に対物狙撃銃は本来、対戦車ライフルとして知られ、戦車や装甲車などの装甲車両を攻撃するための兵器です。弾丸は重機関銃に使用される12.7ミリや、戦闘機の機関砲にも使用される20ミリ口径など、より威力が強い大口径弾を使用。

ただ、警察の特殊部隊にこのような対物狙撃銃が配備される理由は、航空機に対するハイジャック対策などが主であり、航空機のコックピットのキャノピーを貫通させるだけのエネルギーを持った対物狙撃銃は世界各国で広く配備されています。

スカイマーシャル(航空機警乗警察官)とは?

特殊銃その3、自動小銃

自衛隊で使用されている2種類の国産小銃を警察で配備しています。

特殊部隊SATが配備する自動小銃……その1「89式小銃」

警察庁作成の資料に「SAT装備品」として、89式が記載されていたことにより配備が判明。ただし、公開訓練には登場していません。

自衛隊はエアガンで訓練している!89式の次は「発射音を伴う20式エアガン」も導入予定!?

主に陸上自衛隊と海上自衛隊、それに海上保安庁で配備されている日本政府機関専用の公用ライフル銃です。

海上保安庁は警備および救難機関。その役割と司法警察権とは?

主に陸自の機甲部隊員、偵察隊員、空挺団、海上自衛隊の特殊部隊が使う折り畳みストック型と、一般隊員用の固定ストック型があります。

64式が7.62ミリだったのに対し、89式は5.56ミリ弾を使用。

また、プラスチックを多用することにより、64式よりも大幅に重量を軽減でき、装弾数も64式の20発から30発に増加。

特筆すべき機能として3バースト機構が標準で搭載。

指切りに頼ったバースト射撃では難しい、正確に3発の銃弾を撃ち込む射撃が可能となり、警察の対テロ任務にも最適と言えそうです。

特殊部隊SATが配備する自動小銃……その2「64式小銃」

過去、警視庁の特殊部隊SATの前身部隊である「SAP(Special Armed Police)」では自衛隊で制式配備されている64式小銃を配備していたという元隊員の証言が。64式は7.62ミリ弾を二十発装填する小銃で、すでに陸上自衛隊の第一線部隊では後継の89式にほぼ更新され、2020年からはさらに後継の20式小銃を配備しています。

本体はフル金属、ストックは木製。二脚を使用した精密射撃も可能で、自衛隊では照準眼鏡を取り付けて狙撃銃に転用されるほど命中精度は良好。陸上自衛隊では現在、ボルトアクション式のM24を新規配備していますが、M24の配備が完了していない部隊では64式を使用。

陸上自衛隊の狙撃手

現在のところ、公開訓練で64式を持ったSAT隊員が確認されたことは皆無ですが、装備の更新がなされていなければ、SATでも引き続き配備されている可能性も。

ただ、軽量小型の89式やホーワの高性能ボルトアクションをすでに配備している現在のSATで、あえて64式を使うような場面があるのかは不明です。

新たに銃器対策部隊へも小銃を配備へ

前述したように、これまで日本警察による自動小銃の配備は特殊部隊SATのみに限定。

しかし、2015年12月、警察庁はパリのテロ事件などを受け、日本国内でもテロの危険性が高まっているとして、都道府県警察機動隊の中に編成されている銃器対策部隊、とくに都市部の部隊へ自動小銃を配備することを決定したと発表。

警察庁は、銃が使われるテロ事件の初期的な対処に当たる部隊の装備を大幅に拡充することを決めた。パリ同時テロ事件を踏まえ、大都市を抱える都道府県警の銃器対策部隊に、戦闘力の高い自動小銃を配備。防弾車両も大幅に増やす。2015年度補正予算案に緊急テロ対策費として76億5500万円を盛り込んだ。銃器対策部隊は47都道府県警の機動隊に設置され、原発の警備にも当たっている。全国に約1900人おり、サブマシンガンやライフル銃を携帯している。自動小銃は現在、特殊部隊(SAT)しか保有していないが、テロの脅威が高まったことを受け、銃器対策部隊にも導入する。

典拠元/時事通信 12月18日(金)17時15分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151218-00000124-jij-pol

日本国内で重武装のテロリストによる同時多発的なテロが起きた際、少数しか編成されていないSATでは対処困難であるとして、SATが現場まで駆けつけるまでの繋ぎを目的に銃器対策部隊に対応させるとの運用方針を発表。

現在、SAT隊員は全国の警察本部をあわせると300人規模。対して銃器対策部隊はそれを上回る2000人規模。

銃対もSATと同じくMP5(けん銃と同じ9ミリ弾を使用)ですが、今回の自動小銃配備により、さらに強力な戦闘力を持つことに。

ただ、自動小銃は現在SATが使用する89式なのか、それ以外のモデルを新たに調達するのかは不明。

米国の警察機関の多くでは、すでにMP5から米軍の現行小銃M4が主流に。

これは犯罪者側の防弾装備強化が進み、9ミリ口径のMP5では対処が困難になっている現状も理由です。

我が国の陸上自衛隊でもすでにM4カービンを米国からFMSで調達し、一部の部隊で配備していることが発覚し、近年ではHK416系統のカービン銃も配備しています。

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警察の特殊銃まとめ

このように、現在の日本警察の武装はけん銃だけでなく、サブマシンガンや自動小銃、それに狙撃銃など、軍隊と同じ装備が『特殊銃』としてズラリと配備済み。

テレビの報道で公開訓練が流れることも多い昨今ですが、その半数、いや多くの場合において、特殊銃は実銃ではなく模擬銃です。とくに昨今では事業者施設内において民間人との協同訓練が多く、なおさら模擬銃が使われる傾向にありそうです。

また、現状では原発の警備を行う原発特別警備部隊でも”むき身”でMP5を携行したりはせず、普段はケースに入れて携行しているとのことで、これら特殊銃は市民の前にあらわになることは少ないと見られます。

しかし、2015年にはイスラム国から日本国および日本人に対する宣戦布告が出されており、日本国内の治安情勢もより一層緊迫感が増し、警察の警備も強化されています。

すでに欧米では常態化している『制服警察官が街中や空港内で短機関銃を抱えた姿』を見かけるのも時間の問題なのかもしれません。

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