【お知らせ】
シグナリーファン編集部では、警察装備や運用に関する国内外の公開情報・公式資料・報道記事・学術文献を継続的に調査・分析しており、本記事もそれらの調査結果に基づいて構成しています。

銃器メーカー「SIG SAUER社」に米国で相次ぐ巨額賠償命令…P320に相次ぐ暴発問題巡り

画像の引用元 「Banned Sig Sauer P320 guns used by police could end up in the public’s hands(KING 5 Seattle)」

米国の銃器メーカーSIG SAUER(シグ・ザウアー)社が製造・販売する自動拳銃「P320」を巡り、引き金に触れていない状態でも発射されるとする暴発事故が相次いで報告され、同社に巨額の損害賠償を命じる判決が複数下されている。

2024年6月、ジョージア州で行われた裁判では、原告ロバート・ラング氏が自宅でP320をホルスターから抜き取ろうとした際に暴発し太ももを負傷したと主張。陪審はこの主張を認め、設計上の欠陥と警告不足を認定し、約235万ドルの損害賠償を命じた(※典拠元 AP通信①)。

さらに同年11月、ペンシルベニア州フィラデルフィアでも、原告ジョージ・アブラハムズ氏が階段を降りる途中、ポケットホルスター内に収められていたP320が暴発し重傷を負ったとして提訴。陪審はアブラハムズ氏の訴えを認め、SIG SAUER社に約1,100万ドルの賠償支払いを命じている(※典拠元 AP通信①)。

これらの裁判では、トリガーの軽さやストライカー構造、外部セーフティの欠如といったP320特有の設計が争点となっており、銃器メーカーが法的責任を問われる稀有な事態に発展している。

【NEW】P320に今、起こっていること

SIG SAUER P320は本当に信頼できる安全なハンドガンなのか?それとも設計上の問題を抱えた危険なモデルなのか?P320を巡って、2025年6月現在、その安全性に関する議論が活発になっている。

引用元:https://armsweb.jp/gunpro/articles/294.html

これは2025年6月現在、米国はもちろん、日本の銃器研究者界隈を含め、議論が活発化している。

ここで掲載している情報は米国における公知報道事実に依拠して執筆されたものであり、表現の自由における一般的な報道・評論の範囲に留まります。

P320暴発問題の争点は

SIG SAUER社のP320は、2014年にアメリカ市場で発売されたポリマーフレームの自動拳銃である。特徴は、ストライカー方式(撃針直結型)による射撃機構と、モジュラー構造を採用している点にある。特に米陸軍が2017年にP320を改良したモデルを「M17/M18」として制式採用したことで世界的な注目を集めたことで、全米の法執行機関でも採用が進み、民間市場を含めると米国内だけで累計数百万丁が流通しているとされる。なお、日本の政府機関がP320を採用配備したという公開情報は現時点では無い。

ところが、アメリカのメディア「KING 5 Seattle」では2025年5月時点で「ワシントンではP320の配備を解除する法執行機関が増えている」と伝えている。

参照:https://www.king5.com/article/news/investigations/investigators/banned-police-guns-could-end-up-in-the-hands-of-civilians-sig-sauer-p320-washington/281-8f136a3a-7d60-4b18-b410-a806b69a73fe

画像の引用元 「Banned Sig Sauer P320 guns used by police could end up in the public’s hands(KING 5 Seattle)」

同メディアによれば、、警察が手放し転売されたP320が”誰の手に渡るか”不透明であると懸念を伝えている。

著者:クリス・インガルス 公開日時: 2025年5月21日午後6時45分 (太平洋夏時間) 更新日時: 2025年5月21日午後11時29分 (太平洋夏時間)

ワシントン州バーリントン — 警察官を訓練する州立アカデミーが新人警官にとって拳銃は安全ではないと述べたことを受けて、ワシントン州の一部警察機関は拳銃を廃棄している。 KING 5の調査員らがつかんだところによると、物議を醸している銃器(シグ・ザウアー モデルP320)数百丁が市場に再び出回り、一般人に販売される可能性があるという。

P320は、ワシントン州を含む全米の法執行機関から、引き金を引かずに発砲できるとして非難されている。数十件の報告された事件で警官が重傷を負った例もあるが、ワシントン州ではそのような事例は報告されていない。

出典:KING 5 Seattle

【技術的論点】

しかし発売当初から「落とすだけで発射する」「ホルスターから抜く際に発射する」といった報告が一部で浮上していた。2017年にはP320が一定角度で地面に落下した際に発射される様子を収めた映像が拡散し、安全性への疑念が高まった。

これを受けて同年8月、SIG SAUER社は「ボランタリー・アップグレード・プログラム」と称する改修プログラムを発表し、トリガー部品の軽量化や機械式ディスコネクターの追加などの改良を施した。しかし改修後も類似する暴発報告が散発的に続き、ついに今回の訴訟に至った背景がある。

P320はダブルアクション・ストライカー撃発機構を採用しており、引き金を引くことで撃針バネを圧縮し、そのまま撃針が前進する構造となっている。内部には複数のセーフティ機構が備わっているが、特徴的なのは外部式のセーフティレバーが標準装備ではない点である(※典拠元 CBSニュース③)。原告側は、この設計上の特徴が意図しない撃発を招いていると主張している。

具体的な技術的争点としては以下が挙げられている。

  • 原告側は以下の技術的問題点を指摘している。

    • トリガープルの軽さ
      P320は軍用制式化の要件に対応するため、比較的軽いトリガープルを実現している。これにより、ホルスター内の摩擦や異物がわずかにトリガーに力を加えた場合でも、意図しない撃発が発生しやすい状況が生じるとされる。

    • ストライカー慣性による危険性
      初期モデルでは、銃を特定の角度で落下させると、ストライカーが慣性で前進し、撃針が作動する可能性があった。これが2017年のアップグレードで機械的ディスコネクターが追加される契機となった。

    • ホルスターとの相互作用
      一部の事故では、ホルスター内での圧力や位置ズレにより、トリガーがわずかに作動する可能性が指摘されている。特にソフトタイプのホルスターやポケット携行時に問題が起きやすいとされる。

P320にトリガーセイフティはない

警察や自衛隊の配備する『SFP9』のトリガーセイフティの例。画像の引用元 H&K公式サイト

P320と他のストライカーファイア拳銃の設計上の違い

① P320(SIG SAUER)

  • 内部セーフティ:

    • ストライカーブロック

    • トリガーバーセーフティ

    • ディスコネクター

  • 外部セーフティ:

    • 標準モデルでは原則「無し」(オプションでサムセーフティ付モデルは存在)

  • トリガーセーフティ:無し

    • ※ つまり「引き金そのものに安全弁は付いていない」

(※典拠元 CBS③、SIG SAUER公式)

グロック(オーストリア)

  • 内部セーフティ:

    • ストライカーブロック

    • ディスコネクター

  • 外部セーフティ:

    • 標準モデルでは原則「無し」(オプションでサムセーフティ付モデルは存在)
  • トリガーセーフティ:有り

    • 引き金中央に内蔵される「トリガーセーフティラッチ」により、意図的に引き金を中央から押し込まない限り作動しない構造
      (※典拠元 GLOCK公式)

③ SFP9(ヘッケラー&コッホ / 日本警察制式)

  • 内部セーフティ:

    • ストライカーブロック

    • ディスコネクター

  • 外部セーフティ:

    • 標準モデルでは原則「無し」(オプションでサムセーフティ付モデルは存在)
  • トリガーセーフティ:有り

    • グロックと同様に中央部トリガーラッチ採用
      (※典拠元 HK公式)


確かにP320の「トリガーセーフティ欠如」が争点の一角を占めている。特にホルスター抜き取り時やポケット携行時の暴発事故が相次いでいる理由として、他社のストライカーファイア拳銃と比べ、トリガーに直接外力が加わった場合の防御層が一段薄いという設計上の差を無視できない。

よって日本警察や自衛隊で採用されるグロックやSFP9とは、表面上似たストライカーファイアであっても安全設計思想が異なる。この違いが、米国の訴訟で重要視されていると言える。

“東京オリンピック警備公式けん銃”!?日本警察が新配備のH&K SFP9(VP9)、自衛隊モデルとは「別仕様」の模様

【争点としてのトリガーセーフティの有無】

■ 原告側の主張

  • 「P320にはグロックやSFP9に搭載されているトリガーセーフティが存在しない。これによりホルスター内での物理的干渉(衣類・異物・ホルスターの縁など)がトリガーに作用しても暴発しやすい設計だ」と強調している。


SIG SAUER社側は「不当な判決」として控訴の方針

一方でSIG SAUER社は、これらの判決について控訴の方針を示しており、「P320は第三者機関の試験を通過しており、適切な使用下では安全である。判決は技術的な理解に欠けた誤った判断である」との見解を崩していない。さらに同社は「2017年のアップグレードを正しく受けた製品において、構造上の危険性は排除されている」と主張し、法廷闘争の長期化が予想されている。

SIG SAUER社側の主張

  • 「内部セーフティは多重構造であり、トリガーセーフティがなくとも業界基準は十分満たしている。現実に米軍正式採用でも承認されている」と反論している。

  • 「暴発はホルスターの適合性やユーザーの取扱不注意が事故の主因」とも主張。

SIG SAUER社はこれらの判決に対し控訴方針を表明しており、「P320は業界標準に準拠した安全設計であり、判決は不当」との姿勢を崩していない。

【訴訟の今後・波紋拡大】

P320に関する訴訟は現在も拡大を続けている。2025年時点で、米国16州において少なくとも22件の提訴が行われており、一部では集団訴訟の準備も進んでいると報じられている。

原告には警察官や法執行官、民間の銃保持者が多数含まれており、中には訓練中や通常携行中にホルスター内で暴発したとする深刻な負傷事例も含まれる(※典拠元 AP通信①)。中には、訓練中に同僚の目の前で暴発し、重度の後遺症を負った事例も含まれている。事故の映像記録やホルスターの証拠が裁判資料として提出される例も増えており、今後の審理でも重要な争点となりそうだ。

ただし、現時点(2025年6月)では、いずれの暴発事件も最終的な確定判決には至っていないことに留意が必要である。すべて控訴審あるいは再審のプロセス中であり、したがって賠償命令が最終的に確定したケースはまだ存在しない状況だ。

ただし、陪審判決額は巨額で、それぞれ約235万ドルと1,100万ドルとなっており、それらが出されていること自体が業界にとって重要な法的·社会的インパクトを持ち、今後の控訴審・判決確定次第で、法制度や設計責任のあり方に大きな影響を与える可能性が少なからずある。

今回の一連の訴訟は、銃器メーカーに対する製品安全性の法的責任の範囲を改めて問い直すものとなっており、単なる製品欠陥訴訟にとどまらず、SIG社の対応は長期戦となるとの見方もある一方で、銃器業界全体の今後にも影響を及ぼしかねない様相を呈している。

参照資料各種

参考資料URL

  1. AP通信(Associated Press):
    【Sig Sauer ordered to pay $11 million to Philadelphia man wounded by holstered pistol】
    https://apnews.com/article/sig-sauer-pistol-discharge-lawsuit-7d6e37035d7205ec9b04c92856964f21

  2. fox59.comニュース:
    【Sig Sauer ordered to pay $11 million to Philadelphia man wounded by pistol that went off by itself】
    https://fox59.com/news/national-world/ap-us-news/ap-sig-sauer-ordered-to-pay-11-million-to-philadelphia-man-wounded-by-pistol-that-went-off-by-itself/

  3. CBSニュース:
    【Gunmaker Sig Sauer ordered to pay $11 million to Philadelphia man wounded by holstered pistol】
    https://www.cbsnews.com/philadelphia/news/sig-sauer-philadelphia-george-abrahams-wounded-pistol/

結論

今回の一連の訴訟の核心は「P320の撃発機構(ストライカーファイア方式)に設計上の瑕疵があったのか否か」であり、各裁判ともほぼ全てがこの論点に集中している。一方、被告のSIG社側では「暴発はホルスターの適合性やユーザーの取扱不注意が原因」としている。

SIG SAUER社に対する訴訟は、個別の事故を発端に全米へと波及しており、現在もその広がりは続いている。2025年初頭の報道によれば、P320に関する訴訟・申し立ては16州で少なくとも22件に達しており、一部では集団訴訟(クラスアクション)への発展も視野に入れた動きが見られている。

なお、シグ・ザウアーは、2017年以前に製造されたピストルを含むP320に関わる少なくとも1件の連邦集団訴訟を解決し、購入者に返金または銃の交換を申し出ている。

この問題は、銃器メーカーと消費者・法執行機関との間で交わされる「製品安全性と責任」の在り方そのものを問い直すものであり、単なる一製品の欠陥訴訟にとどまらず、米国の銃器業界に対する規制や安全基準の再評価にも波及しかねない。今後の審理の行方と、業界全体の対応が注視されている。

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