アメリカ警察特集コラム第9回 『警官へのドーナツの無料提供は本当の話』

画像の出典 「ダンキンドーナツ」にダイナミック入店をした警官

映画を見ていると、アメリカの警官が勤務中、制服姿でドーナツを頬張っているシーンをよく目にします。

なぜアメリカの警官は「ドーナツ」と結びつくのか?

映画『ロボコップ3』では、まさにそのシチュエーションをユーモラスに描いています。深夜営業中のドーナツ店で、市警の警官10人以上がドーナツやサンドイッチ、コーヒーにて、ひとときの休憩を楽しんでいると、突然あろうことか店に強盗が押し入ります。

「みんな動くな、金を出せ!」と店主に強盗が銃を突き付けた瞬間――パトカーを裏に停め、店内でくつろいでいた警官たちが一斉に、レーザーサイト付きのグロック17を強盗に向けます。フル・オート・マシンガンを手にしてドーナツ店に押し入った強盗も、これにはホールドアップするしかありません。女性警官ルイスだけが、我関せずと新聞を読んでいる姿も笑いを誘います。

"What's it like being a rocket scientist?"

「”What’s it like being a rocket scientist?”」映画「ロボコップ3」より引用

店主はドーナツを頬張りながら「”What’s it like being a rocket scientist?”(ロケット科学者になるってどんな感じ?)」と、余裕の表情で強盗に哲学的な一言。日本語吹き替えでは「ヘマをやったご感想は?」でした。

グロックとフィクション作品――ハリウッド映画から日本の児童アニメにまで登場する“神格化けん銃”の構図

こんなユーモラスなネタにされがちな「警官とドーナツ」ですが、さらには、「アメリカでは、警官がドーナツ店に行くとドーナツが無料でもらえる」というウワサ話を耳にすることも。

「アメリカでは、警官がドーナツ店に行くとドーナツが無料!?

しかし、これは本当なのでしょうか?

実は、全米チェーンの「ダンキンドーナツ(Dunkin’ Donuts)」に限って言えば、かつて一部店舗でこのようなサービスが実際に行われていたのは事実です。制服姿の警察官がパトロール中に立ち寄った場合に、ドーナツを無料で提供することがあったのです。これは単なる噂ではなく、実際の取り組みでした。

ただし、日本の「ミスタードーナツ」(ダスキン運営)では、このようなサービスは行われていません。

米国警察が自ら語る警官とドーナツ事情

一方、この「警官とドーナツ」の関係について、マサチューセッツ州のブルックライン警察(Brookline MA Police Department)は、ユーモアを交えつつ次のように解説しています。

知っていましたか?

警察官とドーナツの結びつきは、アメリカにおいて長年の文化的比喩として定着しています。この結びつきの起源は、1950年代にまで遡る実用的な理由に遡ります。

1. 深夜の入手性:夜勤の警察官は、食事やコーヒーの選択肢が限られていました。24時間営業の店はドーナツ店だけという場合が多かったのです。
2. 便利な休憩所: ドーナツショップは、警官が休憩したり、トイレを使用したり、書類を記入したりできる場所を提供しました。
3. 社交の中心地: これらの店は、オフィサーたちが情報を交換し、交流するための非公式の集会場所になりました。

時が経つにつれ、この実務的な関係はステレオタイプへと発展し、ポップカルチャーやメディアで頻繁に使われるようになりました。この関係をユーモラスに捉える警官もいる一方で、時代遅れの決まり文句と捉える警官もいます。

今日では、食習慣の変化と警察官の健康意識の高まりにより、警官とドーナツのつながりは単なる言い伝えに過ぎなくなりました。しかし、それは今でもアメリカ文化のコメディーの一部として認識されています。

出典 Brookline MA Police Department(マサチューセッツ州 ブルックライン警察)

https://www.facebook.com/brooklinemapd/posts/did-you-knowthe-connection-between-police-officers-and-donuts-is-a-longstanding-/914625754026576/

このように、なぜアメリカの警官といえば「ドーナツ」なのか――それには理由があったわけです。

警察側では表立って「無料でドーナツがもらえたから!」とは言ってはいませんが、「店側が場所を提供してくれた」という事実は認めています。

アメリカでは、24時間営業している軽食店の多くがドーナツ店だとされています。これは日本における牛丼チェーンのような存在かもしれません。

そして、日本でも同様ですが、24時間営業の店舗にとって一番の悩みは深夜の強盗です。

そのため、制服姿の警官たちが立ち寄ってくれる“溜まり場”になれば、防犯効果も期待できます。

強盗にとっても、警官が集まる店には近づきにくいですよね。実際、それこそが「ダンキンドーナツ」が狙った戦略だといわれています。

時は流れて「時代遅れの決まり文句」と捉える警官も

ただ、上述のブルックライン警察の公式フェイスブックでは、「ユーモラスに捉える警官もいる」一方で、「今では単なる言い伝えに過ぎなくなりました」「時代遅れの決まり文句」という過去形になっているのが、少し寂しい感じがします。

もちろん、アメリカの警察にも利益供与を防ぐための内部規定は存在します。しかし、「警官が店で飲食している」ことにクレームをつけるような市民は、アメリカではそう多くないのかもしれません。

いずれにせよ、どこかの国のように、制服公務員を過剰に神格化したり、村社会的な空気でモノを言いにくくする国民性とは、少し違うようです。

Visited 22 times, 3 visit(s) today