覆面パトカーは大別すると、刑事部や生活安全部に所属している私服勤務者が乗る捜査用覆面パトカーと、もっぱら交通部の制服警察官が乗車して交通違反取締りに使用される交通取締り用覆面パトカーの2種類。
交通用覆面パトカーの特徴については、前回お伝えしたとおりです。
この記事は、捜査用覆面パトカーになります。
交通用覆面パトカーは国費による配備で、ほぼ全国的にセダン型ですが、捜査用覆面パトカーは国費によるものでもセダン型のほか、ハッチバック型やステーションワゴン型など、車種が実に豊富です。さらには軽自動車までも採用されています。
そのため、捜査用覆面パトカーには独特の面白さがあり、胸のときめきが止まらないのです。

画像は捜査用覆面パトカーのトヨタ・アリオン。おばさん向けの何気ない中型セダンも、各種装備品の架装を施せばとたんに怪しさ一杯の魅惑的な働くセダンに。
2024年にはRAV4が機動捜査用車に採用されています。2025年現在、全国の警察本部刑事部機動捜査隊で配備される『機動捜査用車』は主力車両がマークXからカムリへ更新。
一方、署轄ではアリオン、カローラセダンといった中型セダンのほか、スイフトやフィットなどハッチバックも優勢です。
スカイラインもかつては機動捜査隊の顔でした。エコカーの覆面ではホンダのインサイトが大量配備中。トヨタのプリウスも少数ながら捜査車両として配備が確認済み。
そしてスズキからは近年配備された伝説のキザシ。
Contents
捜査用覆面パトカー……その特徴は着脱式警光灯であること
捜査用覆面の最大の特徴と言えるのがマグネット・タイプの着脱式警光灯。

緊急走行の際は乗員が自分の手で直接ルーフに載せるのが、交通用覆面の反転式赤色灯とは異なります。

画像引用元はKBCです。うちのヘリ使ってください!
刑事課は交通違反の取り締まりに従事しない
刑事事件の捜査をする機動捜査隊や刑事課などの警察官は、交通違反の取り締まりに従事していません。したがって、基本的に捜査用の覆面が交通取り締まりを行うことはありません。
インサイト覆面 祭りの為PM 居すぎてこれしか撮れんかった pic.twitter.com/9xJnWqZ1hC
— ブルースカイ@ (@HSNPro_jp) 2017年8月5日
機動捜査隊などは信号無視や一方通行を逆走などをした車がいた場合、事件などにかかわっている犯人が乗っている場合が多く、その場で現行犯逮捕して身柄を拘束したいときは信号無視などをした時間を記録し、交通課や地域課員、自動車警ら隊などに応援要請をしています。
交通課員が捜査覆面で交通取り締まりを行うイレギュラー運用はあり得る
めったに見られることはありませんが、外見は捜査用の覆面パトカーでも、中に乗っているのが交通警察官である場合、交通取り締まりを行うことがあります。これは、所轄の刑事課や生活安全課が使用する捜査覆面車両を、交通課が一時的に借り受けて運用しているケースです。
たとえば東京都内では、捜査用のトヨタ・アリオンに交通課の警察官(青い制服を着用)が乗車し、駐車禁止エリアの取り締まりを行っている様子が確認されています。
また、ある県警ではスズキ・スイフトの覆面パトカーを使用し、一時停止違反やシートベルト未着用の取り締まりが行われているとの報告が、SNS上でも見られます。
さらに2018年には、警視庁が実施した大規模な交通取り締まりにおいて、通常は捜査用として知られるキザシが交通覆面パトカーとして実際に使用されるという、非常に珍しいケースもありました。
このように「イレギュラーな運用」ではありますが、状況に応じて交通課員が捜査覆面で取り締まりを行うことは、実際に存在する運用形態なのです。
ただし、捜査用の覆面パトカーにはストップメーターが搭載されておらず、速度違反の取り締まりには対応していません。
どんな車が捜査用覆面パトカーとして採用されるのか
基本的に、警察庁では車両の購入を入札によって決定しています。ある程度の仕様は事前に指定されますが、具体的な車種名までは指定されないため、結果としてキザシのような珍しい車両が採用されることもあるのです。
入札に参加する自動車メーカーは、売れ行きの悪い車種や、最低グレードの廉価モデルを投入する傾向があります。これは、警察向けの車両需要を、在庫処分や生産ライン維持の一助とするためです。
近年では、一般市場でセダンの人気が低迷しており、ハッチバック車の台頭が目立っています。その影響で、メーカーはセダンの生き残り策に頭を悩ませており、警察にセダンを大量に採用してもらうことで、販売不振の補填につなげたいという狙いもあるようです。
しかし、警察側でも「セダンだけでは捜査に支障をきたす」と判断しているのか、近年では『私服用ハッチバック型無線車』という名目で、スズキ・スイフトやホンダ・フィット、スズキ・SX4、日産・ジュークなどの車種の採用が増えています。2024年には機動捜査隊にSUVが国費で入っています。
特にフィットは市販車としても高い人気を誇っており、これにより「売れない車種が覆面パトカーに採用される」という従来の傾向も変わりつつあるといえるでしょう。
さらに、エルグランドやアルファード、セレナ、ステップワゴンといったミニバンやワゴンタイプの車両も、覆面パトカーとして活躍しています。用途に応じて車種のバリエーションは年々広がっているようです。
また、警察車両の購入方法には2つの形態があります。ひとつは、国が一括して購入し、各都道府県に配備する「国費モノ」、
もうひとつは、各都道府県が独自に予算を組んで購入する「県費モノ」です。この違いによっても、導入される車両の仕様や車種に差が出ることがあります。
さらに「寄贈モノ」といった形態があるため、県によって捜査用覆面のラインナップはさまざまです。
「覆面パトカー」は警察の正式名称ではない
メディアでは「覆面パトカー」という呼び名が広く使われていますが、これはあくまでも通称・俗称であり、警察の公式文書では「私用概態警ら車」や「私服用セダン型無線車」といった表記が見られます。
しかしながら、この「覆面パトカー」という俗称は、実際の警察官の間でも広く使われているのが現状です。2014年6月に放送されたテレビ東京の「警察密着24時」では、機動捜査隊の隊員が無線で『覆面車両をこっちに持ってきてください』と指示を出す場面が確認されています。
さらに、多くの県警公式サイトにも「覆面パトカー」という表記が見られることから、警察内部でもこの呼称がある程度浸透していると考えられます。
なお、ある県警の公式サイトがWikipediaの内容をそのまま転載していたというエピソードもあり、情報の扱いには驚かされることもあります。
交通・捜査用覆面パトカーを判定する最低限の要素
交通取締り用の覆面パトカーは、基本的に2名乗車で制服着用が原則。車種はクラウンなどのセダン型が圧倒的に多く、ダブルミラーや反転式パトライトを装備している点が特徴です。
交通取締用覆面パトカー | 捜査用覆面パトカー | |
---|---|---|
主な用途 | スピード違反など交通違反の取締り | 刑事事件や生活安全などの捜査 |
乗員の服装 | 制服警察官が乗車 | 私服警察官が乗車(スーツorカジュアル) |
車両 | クラウンが基本、地域によって例外も | セダン、ミニバン、ハッチバックなど多様 |
同乗人数 | 2名乗車が基本 | 2名乗車が多い |
装備されているパトライト | 反転式パトライト | マグネット式着脱型パトライト |
警察無線用アンテナの有無 | ユーロアンテナ、車内アンテナ | ユーロアンテナ、車内アンテナ |
車内の乗員の様子 | 無表情で他車両と目を合わせない | スマホ見てる、電子タバコ吸ってる、談笑 |
特記事項 | 異様に安全運転 | たまに交通覆面に捕まる |
一方、捜査用覆面パトカーも2名乗車が多いですが、乗員は私服で、黒系の作業服やスーツを着用することが一般的です。特に警視庁ではスーツ着用が多く、地方都市ほどカーゴパンツやスニーカー、釣りベストを着用することが多いようです。これは「警察24時」などの番組でもよく見かける光景です。
基本的に、捜査用覆面パトカーに制服警察官が乗務することはありませんが、当直の刑事や所轄の運用次第では例外もあります。
また、捜査用覆面パトカーの最大の特徴として、乗員が窓から腕を伸ばして着脱する「マグネット着脱式パトライト」が挙げられます。
そのほか、交通・捜査用の覆面パトカーに共通する要素として、TLタイプ、アマチュア無線タイプ、ダイバーシティ偽装アンテナなど、デジタル警察無線用のアンテナが装備されている点が特徴です。
しかし、昨今では例のアンテナ窃盗事件の影響か、警察も秘匿に躍起になってきており、外部露出型のアンテナを備えない覆面パトカーも。
また、悪人みたいなスモークを貼ったセダンも、覆面パトカーのお家花と言えます。警察本部によっては「後付けのスモーク」が禁止されている所もあるということです。
覆面パトカーの見分け方として車体の塗色も実は重要なファクターです。ある警察本部の場合、車体色がホワイトの「捜査用覆面パトカー」は過去に、公安を除いて存在せず、黒か灰色のレガシィやアリオンが広く使われていたようです。
このような法則があった警察は全国的にも珍しいですが、キザシの配備後はこの法則が崩れ、捜査用覆面にホワイトカラーが達入される運びとなったようです。
セダンからハッチバック……覆面パトカー業界に新風
覆面パトカーはセダン型が大半を占めていますが、必ずしもそれだけに限っているわけではありません。スズキのハッチバック型SX4、スイフト、ホンダのフィット、最近では警視庁の捜査部門ではダイハツを覆面パトカーに採用しています。
今までの覆面パトカーの見分け方のポイントとしては、セダン型、グリル内埋め込み式orオートカバー仿装前面警光灯、乗車人数、乗員の服装や髪型など容貌、補助ミラー、鉄ッチン、フォグランプの有無などでしたが、捜査用ではハッチバックタイプの導入がセダンと平行して進められているため、知識のない方にとっては見分けが難しいのが現状です。
「どうせ偽覆面だろう」という先入観は捨てて、最低限の予備知識は持っておくべきです。
警視庁の軽の覆面パトカー。
大阪府警交通部門にはステージアの覆面が。
http://www.youtube.com/watch?v=SacS8CU5rFk
覆面パトカーは特殊車両だから「88ナンバー」なの?
覆面パトカーは特別な装備を積み込んだ「特装車」です。では、覆面パトカーは特殊車両区分の8ナンバーに該当するのでしょうか。実際、過去に配備されていた覆面パトカーは、ほぼすべて特殊な改造を施した車両として登録され、8ナンバーが交付されていました。
しかし現在、警察で配備されている覆面パトカーは8ナンバーではなく、通常の3ナンバー車となっており、かつての『88ナンバー』ですぐに見破られてしまう時代は、すでに過去のものとなっています。
一方、自衛隊の憲兵である警務隊が配備している覆面パトカーは8ナンバーです。ピカピカの白いブルーバードシルフィや、古いクラウンで8ナンバーの怪しい車両があれば、それは痛~ィマニアではなく、自衛隊警務隊の車両である可能性が高いです。警務隊では制服を着用して捜査を行うこともありますが、必要に応じて私服での捜査も認められています。
なお、かつては一般人が自家用車を特殊用途の『広報宣伝車』として88ナンバーを取得することが横行していましたが、代行業者が不正登録で次々に摘発されたため、現在ではそのような事例はほとんど見られなくなっています。
主な覆面パトカーの装備や特徴
警察の覆面パトカーは主に下記の保安装置や装備を積んでいます。
装備・機能 | 説明 | 備考 |
---|---|---|
Aピラー用クリップ | 赤色灯コードを引っかけるためのクリップがAピラー両側に装着 | 捜査用覆面に特有の装備 |
着脱式赤色灯 | 通常は一灯だが、二灯搭載の例もある | 保安基準改正で黒いゴムが付属 |
助手席ミニミラー | 助手席側の小型のミラーが設置されている | 主に捜査用だが、稀に交通覆面でも使用 |
PDA端末 | 身元照会などに用いられる情報端末 | 主に機動捜査隊が搭載 |
ストップメータ | 自車の等速を利用して対象車両の速度を測定する装置 | 交通覆面・警ら用白黒パトも搭載 |
パトサイン | 違反車両への指示表示用可倒式電光掲示板 | 交通・交通白黒のみ |
多くの場合、覆面パトカーのルーフに載せる赤色灯は一灯のみですが、警視庁や神奈川県警、大阪府警、広島県警で二個載せが導入されています。二個載せは全国的に見ると珍しい運用です。
捜査用覆面パトカーの「屋根ピン」「ポッチ」も興味深い「装備」。覆面パトカーのルーフには、前述の着脱式赤色回転灯が落下しないように固定するためのピンが取り付けられており、これを俗に屋根ピンと呼び、捜査用覆面パトカーの見分けのポイントになっています。
ただ、同じように着脱式赤色回転灯を使う警察以外の緊急車両(総務省の車両など)でも屋根ピンがあります。
機動捜査隊など最前線で犯罪捜査に挑戦する第一線部隊では、上記装備に加えて防弾チョッキ、さすまた、ストップスティック(車両強制停止装置)、レスキューハンマーなどが積み込まれ、さらにモノモノしいようです。
交通取締り用覆面パトカーの場合はさらに 、ストップメータ(自車の等速を利用して対象車両の速度を測定する装置)、パトサイン(起倒式の小型電光掲示板) 、カラーコーン や交通表示板 、後部補助警光灯 (トランクルームのトランクハッチ内側に設置。トランク開放時に屋根のパトライトが見えなくなるのでその対策) などが積み込まれています。
かつては、覆面パトカーといえば、なぜか青マットも特徴でした。
覆面パトカーの車内に潜む「偽装工作」――刑事たちの涙ぐましい努力
捜査用の覆面パトカーは、一般の車両に紛れて行動するため、いかにも「警察車両らしくない」見た目が大事。そのため、
刑事たちは日々さまざまな偽装工作を行い、覆面と気づかれないよう努力を重ねているのです。
たとえば、2008年の秋葉原無差別殺傷事件では、現場に集まった警視庁の機動捜査隊や万世橋署の捜査車両の中に、走り屋が好んで使うBLITZやHKSといったカーチューニングブランドのステッカーを貼った覆面車両が確認されました。まさに「警察っぽさ」を消すための、涙ぐましいカモフラージュです。
他にも、さまざまな「個性」を演出する小物が使われています。たとえば、ワイパースイッチにペットボトルのおまけのマスコットストラップをぶら下げたり、アニメキャラクターのフィギュアをダッシュボードに飾ったりするケースもあります。また、ハンドルに太めのカバーを取り付け、見た目を変える工夫も見られました。
札幌市内のある警察署では、レガシィ・ツーリングワゴンの覆面車両に、なんと「ドコモダケ」の人形が吊り下げられていたという話もあります。もし、赤色灯を回しながら追い抜いていくその車の運転席で、ドコモダケがユラユラと揺れていたら、少し切ない気持ちになってしまうかもしれません。
(出典:http://www2.famille.ne.jp/~mst-hide/back5/110815.html)
さらに大胆な例としては、ステップワゴンやセレナといったミニバンタイプの捜査車両に、「赤ちゃんが乗っています」というマグネットサインが貼られていたこともあります。ここまでくると、もはや普通の家族用の車と見分けがつきません。
こうした偽装は、刑事個人の工夫や「遊び心」の産物であることが多いようです。もちろん、警察本部によってはこうした装飾に厳しい内規を設けているところもあるでしょうが、静かに覆面を観察する側から見ると、こうした演出には思わず微笑んでしまう魅力があります。
とはいえ、本当に自然な偽装を目指すのであれば、車の装飾だけでなく、乗員である私服刑事の服装や雰囲気も、もっと“幸せな家族風”に寄せていくことが必要かもしれませんね。
覆面パトカーのまとめ
- 覆面パトカーは捜査用と交通取締り用の二種
- 捜査用覆面はセダンばかりではない
- 交通は制服、刑事は私服。ただしイレギュラーはありえる。
それにしても覆面パトカーとは、奥が深いものです。