猟友会頼みからの転換?自衛隊に先を越されたことへの焦り?住民の安全を優先する現場判断は、どの“銃”を選ぶのか
2025年10月30日、相次ぐクマ被害を受け、政府は警察によるライフル銃の使用検討を表明しました。
官房長官が早急な対応を指示したことや、自治体の「緊急銃猟」制度の運用開始を背景に、現場で実際に投入され得る銃種とその運用上の課題に注目が集まっています。
この記事では「どの銃が使われ得るか」を、現有装備と実務慣行に基づいて整理します。
「現状の背景」―なぜ今、警察のライフル使用が検討されているのか
近年のクマ出没増加を受け、2025年秋以降、自治体による「緊急銃猟」が進んでいます。
緊急銃猟制度は農地や河川敷、建物の内部など人の日常生活圏にクマやイノシシなどが出没した場合、安全確保措置を十分に講じた上で、市町村長の判断で猟銃を使って捕獲できる制度です。

10月30日、木原官房長官が警察によるライフル使用の検討が公表され、議論は一気に現実味を帯びました。
警察庁としては、治安維持や人命保護を名目に、あくまで「警察力で対処できる」という立場を維持したいようです。
一方で、クマ騒動を巡っては10月28日に秋田県知事が防衛省に自衛隊の協力を取り付け、防衛省は協力を約束、速やかに自衛隊を投入すると表明しました。
ネットでは「北海道では自衛隊が過去にヒグマを撃って駆除した」、「行方不明者捜索中にヒグマと遭遇し、持っていた小銃で仕留めた」という事実が広く知れ渡り、自衛隊の関与を強く求める世論が広まりつつあったのも背景にあるとみられます。

ただし今回、防衛省では自衛隊による銃の使用は行わないと表明しています。
とは言え、この流れの中で、万が一にも「野生動物による人的被害」という“非戦闘的な武器使用”の領域まで自衛隊が入り込むと、警察としても「職務領域や主導権の侵食」「国民の信頼喪失」と見なす向きがあり、それを守るという意図が少なからず働いていると考えられます。

特に、北海道や東北など、地方自治体が自衛隊との連携を深める地域では、この“先を越された”ような印象が強く、警察としては自ら「駆除に対応可能である」ことをアピールする意味合いもあるでしょう。
とはいえ、先日は警視庁が「警察官の拳銃ではクマを駆除できない可能性が高い」として、使用には十分注意するよう都内のすべての警察署に通知しています。

参照 https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10014958851000
多くの地域では従来から猟友会の協力に頼ってきました。警察に広く配備されている「拳銃」ではクマに対して効果がほとんどない現実から、警察では禁じ手ともいえる「ライフル」の投入検討を表明したようです。
ますは、警察が野生動物の駆除に対して、警察の保有する特殊銃を使う法的な根拠を詰める作業が行われるようです。
警察庁は実施に向け、ライフルなど「特殊銃」の使用に関する国家公安委員会規則を改正する方針だ。規則では、特殊銃は重要施設の破壊行為の防止や凶悪犯罪の予防、鎮圧などの任務のために配備すると規定しており、任務にクマの駆除が該当する項目を加える方向で検討している。
出典 朝日新聞 https://www.asahi.com/sp/articles/ASTB02GXQTB0UTIL01FM.html
警察の使うクマ駆除ライフル・・最も現実的な候補は?
警察特殊部隊(SAT 等)や一部部隊で採用実績のあるボルトアクションの精密狙撃銃が最有力です。精度と貫徹力に優れ、大型獣の「一発で確実に止める」目的に適合しますし、何より、狙撃手の腕も抜群です。
警察でのライフル銃の配備は広く全国的に行われています。

ボルトアクション狙撃銃(例:豊和 M1500 系)
推測ですが、結論から先に言うと、「警察がクマ駆除で現場に投入し得る『ライフル』」は市販の猟銃を法執行用に転用して配備している豊和工業のM1500(特殊銃I型)になるのではないでしょうか。
詳しい口径は不明ですが、おそらく7.62mmと推定されています。
クマの駆除では、対象が大型で危険性が高いため「1発で確実に止める」ことが重要です。
精度の確保と弾の選択肢が豊富なボルトアクション狙撃銃が最適とされ、実際に日本の機動隊や特殊部隊(SAT)でも豊和M1500系が狙撃銃として運用されていることが公的・解説資料で確認されています。
豊和M1500は民間向けの狩猟モデルをベースに、警察仕様での採用実績があるため、駆除現場でも、それほどひどい国民世論の反発を招く恐れがないと思わ、導入しやすい装備です。
7.62mmではクマに対して威力不足という問題も
結論を言えば、7.62mm口径は「条件が整えば有効」だが、「条件が悪いと威力不足や止め損ないのリスクがある」、「したがって30-06を主に使う」というのが、とくに北海道のヒグマ猟の常識です。
30-06は、ヒグマに対して十分な破壊力を持つ強力な弾薬で、鹿や猪などの他の大型獣猟にも広く使われる汎用性の高さも持ち合わせています。
繰り返しになりますが、警察の配備するM1500の口径は不明で、おそらく7.62mmと推定されています。M1500には複数の後継がラインナップされており、30-06である可能性もあります。
もっとも、威力は「口径」だけで決まるわけではありません。
弾丸の種類(拡張する狩猟弾か、非拡張の軍用弾か)、初速(距離による落ち方)、狙う部位、そして射距離と角度が結果を左右します。適切な拡張式(ソフトポイントやホローポイントなど)の弾を用い、近距離で胸部(心臓・肺)や中枢神経に当てられれば、7.62mmでも致命的なダメージを与えて止めることは十分に可能です。実際、猟や駆除の現場でも.308系を使って有効な結果を出している例はあります。
警察には64式と89式小銃もある
警察は64式(7.62mm小銃)および89式小銃(5.56mm小銃)をSAT装備品として保有しています。


このうち、ネットの一部では64式(7.62mm小銃)を「使うのでは」といった声が出ていますが、次の理由で可能性は低いです:
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自衛隊の銃だから:自衛隊の小銃を警察が使うことは国民世論の反発が大きいと予測されます。 
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配備・更新状況:警察でもSATなど一部に保有している状況と見られ、機動隊に広く配備されている装備品ではない可能性が高いでしょう。 
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弾薬の貫通力:64式で使用する7.62mm弾は弱装弾です。通常の弾丸に比べて火薬量が少なく、威力が弱められています。 
以上の点から、64式を「代替として現場に投入する」という想定は現実的ではないと推測します。
狙撃手の練度は?
おそらく、「対象を1発で無力化する能力」としての日本警察の狙撃手の練度は非常に高いレベルにあるものと見られます。

しかし、相手は最大で時速50キロで走り回る野生動物です。このような目標を狙撃する訓練はいくら警察でも行っていないのではないでしょうか。
では、今回の野生動物である熊の駆除に警察の狙撃手が投入されるポイントはどこにあるか確認しましょう。
クマ駆除で特に重要な「練度ポイント」
動き回る野生動物を確実に命中させるかどうかは、射手の技量と現場状況に大きく左右されます。熟練した狙撃手や経験豊富な猟師であれば、視界が確保され距離が比較的短い場面では高い確率で致命的な命中を期待できます。
しかし距離が伸びたり、藪や林の中で視界が悪かったり、目標が速く不規則に動く場合は難度が一気に上がります。
長距離で動く標的を確実に仕留めるのは非常に高度な技術を要し、誰でもできるものではありません。
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致命部位の把握度:胸部心臓部などを確実に狙う技術。大型獣は筋肉や皮膚が厚く、適切な弾種・命中が必要。 
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射線・バックストップ評価:山地でも弾の逸走や跳弾のリスク評価が重要。周囲に人家があれば銃の使用自体を再検討する判断力。 
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現場指揮本部との連携:警察・自治体・猟友会・救護班との連携を図れる司令塔的能力。 
命中率を左右する主な要因は、射手自身の動的射撃の訓練度、スポッターとの連携、環境条件(風や地形)、目標の動き方、そして使用する銃と弾薬の相性です。
現場では、無理に撃つよりも「動きを制限する」「距離を詰める」「致命部位が見える瞬間を待つ」といった戦術を用いて命中の可能性を高めることが一般的です。
まとめ
今回のライフル投入は地域住民の生命を守るためというより、「警察のメンツ」、「自衛隊に主導権を握られたくない」思惑と、「対クマ戦術の知見を得たい」というのが、事実に即した見方と言えるでしょう。
そして、警察によるライフル投入は長距離精密射撃か、即時的な止めさし=止め刺しか、現場環境(市街地に近いか山中か)、そして都道府県警の運用・保有状況によって使い分けられる、というのが実際に近い状況です。



