覆面パトカーは大別すると、刑事部や生活安全部に所属している私服勤務者が乗る捜査用覆面パトカー、そして、もっぱら交通部の制服警察官が乗車して交通違反取締りに使用される交通取締り用覆面パトカーの2種。交通用覆面パトカーの特徴については前回お伝えしたとおりだ。
この記事では捜査用覆面パトカーについて解説したい。
交通覆面は国費による配備で、ほぼ全国的にセダン型だが、捜査用覆面では国費でもセダン型のほか、ハッチバック型、ステーションワゴン型など車種が実に豊富。さらには軽自動車までも採用されている。だから面白くて、なんだか胸のときめきが止まらないのが捜査覆面なのである。

画像は捜査用覆面パトカーのトヨタ・アリオン。おばさん向けの何気ない中型セダンも、各種装備品の架装を施せばとたんに怪しさ一杯の魅惑的な警察車両になる。
ドラマでもおなじみの機動捜査隊に配備される『機動捜査用車』では、もっぱらインプレッサアネシス、レガシィ、スカイラインなどの中型、大型のスポーツセダンが多かった。
現在、北海道警察本部刑事部機動捜査隊では主力車両はマークXからカムリへ。
一方、署轄ではアリオン、キザシ、ティアナなど幅広く増えている様子。

エコカーの覆面ではホンダのインサイトが大量配備中。トヨタのプリウスも少数ながら捜査車両として配備が確認済み。
そしてスズキからは近年配備された伝説のキザシ。
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捜査用覆面パトカー……その特徴は着脱式警光灯であること
捜査用覆面の最大の特徴と言えるのがマグネット・タイプの着脱式警光灯だ。

緊急走行の際は乗員が自分の手で直接ルーフに載せるのが、交通用覆面の反転式赤色灯とは異なる。
刑事課は交通違反の取り締まりに従事しない
ところで、捜査用の覆面が交通取り締まりを行うことはあるのだろうか。基本的に、刑事事件の捜査をする機動捜査隊や刑事課などの警察官は、交通違反の取り締まりに従事していない。
インサイト覆面 祭りの為PM 居すぎてこれしか撮れんかった pic.twitter.com/9xJnWqZ1hC
— ブルースカイ@ (@HSNPro_jp) 2017年8月5日
機動捜査隊などは信号無視や一方通行を逆走などをした車がいた場合、事件などにかかわっている犯人が乗っている場合が多く、その場で現行犯逮捕して身柄を拘束したいときは信号無視などをした時間を記録し、交通課や地域課員、自動車警ら隊などに応援要請をして臨場してもらっている。
交通課員が捜査覆面で交通取り締まりを行うイレギュラー運用はあり得る
一方、めったに見られない光景ではあるが、外見が捜査用の覆面であっても、中身が交通警察官なら交通取り締まりを行う場合もある。所轄の刑事・生活安全系の捜査覆面が交通課の交通取締りパトカーとして一時的にレンタルされているのだ。

例えば東京都内では捜査用のアリオンに交通課の警察官が青服で乗り込んで駐車禁止エリアの取り締まりを行っているほか、ある県警ではスイフト覆面で一時停止違反やシートベルト取り締まりを行っていることがTwitterで報告されている。
2018年、警視庁が行った大規模な交通取り締まりではなんとあのキザシも交通覆面として投入されているのだ。

画像出典 テレビ朝日のニュース報道
ただし、捜査用の覆面パトカーにはストップメーターが搭載されておらず、速度違反の取り締まりには対応していない。
どんな車が捜査用覆面パトカーとして採用されるのか
基本的に警察庁では車両の購入を入札で決めており、ある程度の仕様は指定しても、具体的な車名までを指定しない。だからキザシのような例も起きるのだ。
メーカーが覆面の入札に投入してくるのは売れない車かつ、最低グレードの廉価なモデルが多い。
近年、ハッチバックに押され、セダン人気が一般市場で下落し、販売不振が続く中で、メーカーはセダンの生き残りに頭を悩ませている。警察が大量にセダンを採用してくれれば在庫も捌ける。
ただし、当局側はセダンだけではさすがに捜査に支障をきたすと考えたのか、近年では私服用ハッチバック型無線車という名目でスイフト、フィット、SX4、ジュークといった車種も捜査用覆面では増加傾向にある。フィットは市場でも人気で、売れない車が覆面に……という法則は崩れてきてもいる。
そのほかにも、エルグランド、アルファード、セレナ、ステップワゴンなどワゴンやミニバンも覆面として採用されている。
また、警察車両の購入は国が一括で購入し都道府県に配給する国費モノと都道府県が独自に購入する県費モノ、さらに購入ではないパトカーとして『寄贈モノ』もあるため、県によっては捜査覆面も様々な顔ぶれになる。
「覆面パトカー」は警察の正式名称ではない?
一般車両に偽装された警察用の捜査用および、交通取り締まり用車両を世間一般やテレビの報道では「覆面パトカー」と呼ぶが、警察の公式な仕様書などの書類上では「私用概態警ら車」や「私服用セダン型無線車」などになっている。
ただ、「覆面パトカー」は俗語とは言え、警察24時を見ると警察官自らもこの俗語を使っていることが多く、2014年6月のテレビ東京の警察密着24時では「覆面車両をこっちに持ってきてください」と機捜隊員が無線で指示を出していた。
また、どの県警本部の公式サイト上でも「覆面パトカー」という表記は普通に見受けられので、警察内部でも「覆面」は普通に使っているのだろう。しかし、覆面パトカーの解説で某県警の公式サイトがwikipediaを丸写しにするとは思わなかった。
交通/捜査用覆面を判定する最低限の要素は?
交通取締り覆面は2名乗車で、制服着用が基本。車種はクラウンなどのセダンが圧倒的。ダブルミラーや反転式パトライトを装備しており、捜査用覆面とはそれが異なる。
捜査用覆面も同じく2名乗車が多いが、中身は当然私服で黒系作業服やスーツでの乗車が一般的。警視庁ではスーツ着用が多いとされ、地方都市ほど カーゴパンツにスニーカー、釣りベストなど、警察24時でよく見かける姿をしている。
基本的に捜査覆面に制服警察官が乗務することは無いが、当直の刑事、所轄の運用次第ではこの限りではない。
そして捜査用の最大の特徴は乗員が窓から腕を伸ばして着脱するマグネット着脱式パトライト。
ほかに交通/捜査で共通するポイントはTLタイプ、アマ無線タイプ、ダイバーシティ偽装アンテナなど、デジタル警察無線用のアンテナ。
だが、昨今では例のアンテナ窃盗事件の影響か、警察も秘匿に躍起になってきており、外部露出型のアンテナを備えない覆面パトカーも。
また、悪い人みたいなスモークを貼ったセダンも覆面のお家芸。警察本部によっては「後付のスモーク」が禁止されているところもあるという。
最後に、覆面パトカーの見分け方として車体の塗色も実は重要なファクター。ある警察本部の場合、車体色がホワイトの「捜査用覆面パトカー」は過去、公安を除いて存在せず、黒か灰色のレガシイやアリオンが幅をきかせていた。
このような法則があった警察は全国的にも珍しいが、キザシの配備後はこの法則は崩れ、捜査用覆面にホワイトカラーが導入される運びとなった。
セダンからハッチバック……覆面パトカー業界に新風
前述したとおり、覆面パトカーはセダンが圧倒的だが、その限りではない。スズキのハッチバックのSX4、スイフト、ホンダのフィットなども全国的に覆面パトカーに採用されているほか、最近では警視庁の捜査部門ではダイハツの軽を覆面パトカーに採用した。
今までの覆面パトカーの見分け方のポイントといえばセダン、グリル内埋め込み式orオートカバー擬装前面警光灯、乗車人数、乗員の服装&髪型など容貌、補助ミラー、鉄ッチン、フォグランプの有無などだったが、捜査用ではハッチバックタイプの導入がセダンと並行して進んでいるので、知識のない人には見分けが難しい現状だ。「どうせ偽覆面だろう」という先入観は捨てて、最低限の予備知識は持っていたい。
警視庁の軽の覆面パトカー。
大阪府警交通部門にはステージアの覆面が。
http://www.youtube.com/watch?v=SacS8CU5rFk