前回、アマチュア無線のモービルアンテナについて解説しましたが、アンテナ交換によって通信距離が大きく変わるのはデジタル簡易無線(登録局)でも同じです。
今回はデジ簡のモービル運用で受信性能や送信性能が向上し、交信可能距離の延伸が期待できるハンディ用ロングアンテナ、モービルアンテナなどを比較しながら、その違いを見ていきましょう。

※この記事はデジタル簡易無線のうち、登録局制度(351MHz)用アンテナについて解説しています。
デジ簡もアンテナ交換が基本
351MHz帯を使用するデジ簡(登録局)では、基本的に見通し範囲を伝搬するUHF帯であることに加え、無線機本体の出力も電波法により最大5W以下に制限されています。
そのため、遠距離交信の実現にはアンテナ性能が大きく影響します。
ハンディ用ロングアンテナ
まず試してみたいのが、第一電波工業(ダイヤモンド)やコメットなどのアンテナメーカーが販売しているハンディ用ロングアンテナです。
付属アンテナより全長が長く、アンテナ効率が向上するため、受信性能・送信性能ともに圧倒的に改善できます。
地形や周囲の建物などの影響を差し引いても、平地で見通しが確保できる環境であれば、おおむね10~20km程度の交信が期待できます。
実際に筆者が第一電波工業の「SRH350DH」を試した際には、自身が1W運用のハンディ機を持って畑の真ん中に立ち、相手局が高速道路を走行中の5W局+モービルアンテナという条件で交信を行ったことがあります。
双方とも見通しが開けた環境だったこともあり、約20km離れた地点でも問題なく交信できました。
もちろん、これはあくまで一例であり、地形や周辺環境によって結果は大きく変わります。
その後、250メートル級の山頂から送信したところ、60km先の平地の固定局と交信ができました。
付属アンテナからロングアンテナへ交換するだけでも、UHF帯デジタル無線でこれだけ実用的な距離が狙えることには驚かされました。
手軽に飛距離を伸ばしたいのであれば、まずはハンディ用ロングアンテナの導入が最適です。
モービルアンテナ
車での運用が中心なら、最も効果が期待できるのがモービルアンテナです。ハンディ機付属アンテナやハンディ用ロングアンテナと比べても、その差は決して小さくありません。
特に秋や冬の運用では、寒さの中で車外に立ち続けるのはなかなか大変です。
そんな時に活躍するのが、車外へ設置したモービルアンテナです。車内で暖房を効かせながら快適に運用できるだけでなく、通信性能の面でも大きなメリットがあります。

筆者は第一電波工業のマグネットベース一体式「M350MRCA」(現行モデル名:M350CA)を主に使用しています。
モービルアンテナとしては全長約48cmと長すぎず短すぎない絶妙なサイズで、比較的扱いやすいモデルです。
メーカー公表値では3/4λ構成、利得3.15dBiとなっており、ショートアンテナよりも飛距離の向上が期待できる一方、1m近いロングタイプほど取り回しに気を使わなくて済むのが魅力です。
デジ簡のモービル運用で実使用していますが、「性能と実用性のバランスが良い」という印象を持っています。
確かに全長90cmクラスの高利得アンテナの方が有利な場面もあります。しかし、日常的に車を使うことを考えると、50cm前後という長さは非常に扱いやすく、通信性能にも大きな不満はありません。
実際、筆者は1W運用のハンディ機にM350MRCAを接続し、見通しの良い環境で約50kmの交信に成功しています。
もちろん地形や相手局の設備条件によって結果は大きく変わりますが、付属アンテナやハンディ用ロングアンテナとは明らかに別次元の性能を体感できました。
「飛距離は欲しい。でも1m近いアンテナはちょっと大げさ。でも短すぎるのも不安」という方には、最初の1本として十分おすすめできるモービルアンテナです。
一方、もっと安いアンテナの場合はどうでしょうか。

コメット『M-351M 1/4λ 5m ケーブル マグネットアンテナ』
やはり、アンテナの短さは送受信性能に直結するため、長距離には向きませんが、マグネット一体型で簡易的に設置して使うには便利です。

第一電波工業(ダイヤモンド) MR350S
デジタル簡易無線では、登録局用として認証を受けたアンテナを使用する必要がありますが、アマチュア無線で一般的なM-P接栓の基台や同軸ケーブルについては、基本的に流用可能です。

すでにアマチュア無線用のモービル基台や配線を設置、導入済みであれば、デジタル簡易無線用アンテナのみ追加購入することで運用できます。

そして、最初からマグネットベースがセットになったお得なアンテナ・シリーズがこちらの全長20センチ弱のMR350Sと80センチ弱のMR350の二種。

第一電波工業(ダイヤモンド) 351MHzデジタル簡易無線用アンテナ(車載用) MR350S
マグネット基台タイプのアンテナは車以外でも、自宅のベランダの金属サッシ部分などにペタリと置いて貼り付ければ、クルマでデジ簡をモビホで使った時と同様に交信距離をグングン稼ぐことも可能。

第一電波工業(ダイヤモンド) 351MHzデジタル簡易無線用アンテナ(車載用) MR350
なお、この2種のアンテナはアンテナと基台のネジ口が専用設計。MP接栓やSMJ接栓のほかのデジ簡用アンテナを取り付けることはできないのでご注意を。
山頂+八木アンテナで300km以上
高い山に登り、八木アンテナを使うと300km以上もの交信も可能。ただし、混信妨害に注意が必要です。

デジ簡の送信でこれはNG!電波が飛ばず、受信感度も最悪!法律違反の可能性も
このようにデジタル簡易無線はそのシビアなデジタル変調方式の性質から、アナログ変調の無線に比べると、市街地では交信距離の低下が顕著です。
また、その使い方次第でも電波の到達距離を縮めてしまいがちです。
ハンディ機を付属アンテナのままで車内から送受信する場合
ハンディ機を付属アンテナのまま車内で使用すること自体は可能ですが、通信性能の面では不利になりがちです。
自動車の車体は金属で構成されている部分が多く、ルーフやピラー、ドアなどが電波の伝搬に影響を与えます。そのため、車外にアンテナを設置した場合と比べると、送信電波が減衰したり、受信感度が低下しえます。
これはアマチュア無線でもデジタル簡易無線でも共通ですが、デジタル簡易無線では影響がより顕著に現れる場合があります。
アナログFMであれば、電波が弱くなっても雑音混じりで相手の音声が聞こえることがあります。しかし、デジタル簡易無線では受信信号が一定レベルを下回ると正常にデジタル復調できなくなり、音声が断続的に途切れる、いわゆる「ケロケロ音」が発生します。さらに電界強度が低下すると、音声そのものがまったく復調できなくなることもあります。
筆者の経験でも確認していますが、車内から付属アンテナだけで運用した場合、想像以上に通信距離が短くなることがあります。
もし付属アンテナしか使用できないのであれば、車外へ出て運用するだけでも状況が大きく改善することがあります。特に見通しの良い場所では、車内運用と比べて通信状況が向上する場合が少なくありません。
また、「もっと飛ばしたいから出力の高い無線機へ買い替える」という発想になりがちですが、通信性能の改善という観点では、まずアンテナや設置環境を見直したほうが効果的な場合もあります。無線通信では送信出力だけでなく、アンテナの性能や設置条件が通信品質を大きく左右するためです。
アマチュア無線用アンテナでの送信はNG
デジタル簡易無線(登録局)では、無線機とアンテナを含めた組み合わせで技術基準適合証明を受けています。そのため、アマチュア無線のように自由にアンテナを交換したり、自作アンテナを使用したりすることは認められていません。
たとえ351MHz帯付近で使用できそうに見えるアンテナであっても、デジタル簡易無線用として認証を受けていないアンテナを使用して送信することは避けるべきです。
また、逆にデジタル簡易無線用アンテナをアマチュア無線機に接続して送信することも推奨できません。
アンテナは使用する周波数帯に合わせて設計されており、対応外の周波数で送信すると整合不良(SWRの悪化)が発生する場合があります。その結果、本来の性能が得られないだけでなく、無線機に過大な負荷がかかるおそれもあります。
アンテナは見た目が似ていても、それぞれ特定の周波数帯に合わせて設計された重要な無線設備です。送信を行う場合は、使用する無線機と周波数帯に適合したアンテナを選ぶことが基本となります。
デジ簡のアンテナを目立たせたくない場合のアンテナは?
デジ簡をモービル運用する際、「できるだけアンテナを目立たせたくない」と考える人もいるでしょう。アンテナ職質による煩わしさもあります。

これまで見てきた通り、デジタル簡易無線の351Mhz帯ではモービル用ホイップアンテナの最小サイズは約20センチと比較的短いため、車外アンテナもあまり目立たせないで運用できます。
また、比較的現実的な方法としては、短縮型のデジ簡用アンテナを、ルーフではなく車体後方のハッチバックへ、基台を介して設置することで、車両の正面から見た際の存在感を抑えられます。
ただ、アンテナを短くすれば目立ちにくくなる一方で、通信性能との兼ね合いが生じるのは、アマチュア無線と同様ですが、デジタル簡易無線では使用できるアンテナに技適上の制約があり、“自作アンテナ”は認められていません。
以上を踏まえて、いくつかの選択肢があります。
1、メーカー純正の偽装アンテナ?『ASF-351』(製造終了)
偽装させて目立たないようにしたい、という方向けにはシャークフィンアンテナ『ASF-351』も発売されていました。
現在は製造終了しており、中古品の入手が現実的です。
もっとも、純正のフィンアンテナと比べると、やや大型なので違和感はあります。
2、車内にアンテナを設置
一部ではアンテナを車内に設置する運用例も報告されています。
セダンタイプの車ではリアトレイに金属板を敷き、その上にマグネット基台とショートアンテナを設置する方法です。車外にアンテナや同軸ケーブルが露出しないため、外観上は非常に目立ちにくくなります。
ただし、この方法は本来のアンテナ設置方法ではありません。モービルアンテナは通常、車両のルーフなど広い金属面を利用することを前提に設計されているため、車内設置では電波特性が変化し、本来の性能を十分発揮できない可能性があります。
車体や窓ガラス、ピラーなどの影響を受けるため、アンテナを目立たなくすることは可能であるものの、とくにショートアンテナでは通信距離や受信性能が著しく低下する可能性も考慮しなければなりません。
このようにデジタル簡易無線で短縮型アンテナや設置位置の工夫、あるいは車内設置といった方法は存在しますが、結局のところ、それぞれに長所と短所があります。どこまで秘匿性を重視し、どこまで通信性能を優先するか、トレードオフになります。
ただ、デジタル簡易無線は、アマチュア無線のように自由なアンテナ実験を前提とした制度ではありません。
登録局・免許局ともに技術基準適合制度との関係があるため、使用するアンテナは、メーカーの仕様や認証条件を確認する必要があります。
実用性と、目立たない外観のトレードオフなら、ハッチバックにショートアンテナというのが、現実的な落としどころと言えるでしょう。
今後、アンテナメーカー各社からさらに多くのアンテナが発売されることを期待したいところです。

まとめ
デジタル簡易無線のアンテナは、一見すると似たような形状に見えても、用途や設計によって性能や特性が異なります。ハンディ機向け、車載向け、固定局向けなど、それぞれに適したアンテナが存在し、運用環境によって使い勝手も変わってきます。
また、デジタル簡易無線はアマチュア無線とは制度が異なるため、アンテナに関しても技術基準適合制度との関係を理解しておくことが大切です。性能だけでなく、法令との整合性も含めて考える必要があります。
アンテナは無線機の付属品のように見られがちですが、通信品質に大きく関わる重要な設備の一つです。本記事が、デジタル簡易無線のアンテナについて理解を深めるきっかけとなれば幸いです。



























































































