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デジタル簡易無線の利用方法は利用者個々のニーズに応じて異なり、区分が二つありますが、一般的には営利の発生する仕事、遊びの両方に活用できます。
昨今では、アマチュア無線もボランティアや狩猟などの地域貢献活動での使用が認可されましたが、営利を目的とした業務での利用はできないため、それをカバーできるデジタル簡易無線制度は幅広い活動に役立つ、とても便利な無線制度といえます。
デジタル簡易無線とは
デジタル簡易無線は略して『デジ簡』や『DCR(Digital Convenience Radio)』などとも呼ばれますが、それまでのアナログFM方式とは異なり、デジタル変調方式の無線規格です。送信電力は最大5W、ユーザーコードや秘話コードの実装など、高機能でビジネスユースにも対応します。
使用する周波数は各区分で異なり150MHz、351MHz、467MHzの各帯域で、無線局によって陸上、海上、上空で使用できます。
変調方式には各社で一般的に広く採用されている『AMBE方式』と、普及はそれほど多くないと見られるアルインコ社独自の『RALCWI方式』の2種類があります。どちらの方式も、同一方式の無線機としか通話ができません。レジャー目的で使用する場合『RALCWI方式』ではなく『AMBE方式』を選んだ方が無難と言える理由は以下の記事で解説しています。
『免許局』と『登録局』の違いとは
2008年度のデジタル簡易無線制度発足により、従来の『免許局』のほか『登録局』という新たな区分が設けられました。通常、免許局は企業などの業務用無線局として免許される一方、登録局では企業や公的機関の業務利用者のほか、レジャー目的の両者が使用しています。
大きな違いはキャリアセンス機能の有無や不特定の人との交信の可否
総務省北海道総合通信局によれば、免許局と登録局の大きな違いは『キャリアセンス機能』の有無です。
デジタル簡易無線は、平成20年8月に制度化され、従来の「免許制度」の他に「登録制度」が導入されたことにより利用しやすくなりました。 申請には「免許局」と「登録局」の2種類あり、使用する無線機によって分かれます。 「免許局」と「登録局」の大きな違いは「キャリアセンス(通信が行われている場合は送信ボタンを押しても電波が送信されない)機能」の有無です。
キャリアセンスとは混信を防止するために設けられているデジタル簡易無線機の機能です。
つまり、A局とB局が交信中、その付近にいるC局が同じチャンネルで電波を送信しようと送信ボタンを押してもキャリアセンスの働きにより、無線機が自動的にキャンセルしてしまいます。
したがって、AMやFMの無線交信で一般的な『交信中の割り込み(ブレイク)』ができません。
このため、災害時での有用性低下が懸念されています。
また、使う周波数やチャンネル数、不特定の者との通信の可否、レンタル使用とレジャー使用の可否による違いがあります。
では『登録局』は従来の『免許局』と、どのように違うのか、もう少し詳しく見てみましょう。
免許局とは?
デジタル簡易無線の『免許局』は「免許人所属の局」のみとの交信を免許された事業者向けの無線局
主に事業者向けに免許される無線局が『免許局』です。一般的な企業の業務無線と考えて差し支えありません。割り当て周波数帯はVHF帯の154MHzおよびUHF帯の467MHzの2つです。免許局の場合は「1」から始まる無線機固有の9桁の識別信号(番号)が付与されています。
周波数帳を読んだ方であれば、簡易無線の同じ周波数を別々のいろいろな会社が使っていることはご存知かと思います。簡易無線局は会社が違っても、同じ周波数を使っていれば、同じ周波数で交信もできます。これを防ぐためにトーンスケルチ機能があります。
免許で指定された「交信の相手方」以外と交信することは異免許人間通信の認可を受けていない限り、違法となりますので注意が必要です。
趣味やレジャーでの使用はできません。
登録局とは?
『登録局』は仕事と遊びの両方に使えて、免許局には許可されない『不特定の者との交信』もできる
一方、同じくデジタル簡易無線の『登録局』はアマチュア無線のような従事者免許、つまり資格と局免が不要になっていることから『ライセンスフリー無線』とも呼ばれます。
登録局の場合は「2」から始まる無線機固有の9桁の識別信号(番号)が付与されています。登録局の割り当て周波数帯は351MHzで、警察の外勤員が本署との交信に使う署活系無線(361MHz/347MHzなど)と近似の帯域であり、同じくデジタルですので、似ていなくもありませんが、変調方式は異なります。
登録局は総務省への登録申請と年間400円/局(台)の電波利用料のみで、業務に加えて町内会のイベントや地域防犯活動のほか、不特定多数の人とのレジャー目的の交信にも使える便利な無線局です。例えば、いつもは業務に使用して、休日は集まった趣味の仲間とドライブ、アウトドアやキャンプなどのレジャー、町内会や学校行事等などにもそのまま使えます。
これらを可能にして、レジャーユースでの利用者も増えている一つの理由が『不特定の者との交信が合法』という総務省の見解です。
登録局は、レンタルやレジャー使用、不特定の者との通信も合法とした
引用元 総務省 信越総合通信局 公式サイト
http://www.soumu.go.jp/soutsu/shinetsu/sbt/denpa/kani/digitalkani.html
不特定の無線局への呼びかけは一般に『CQ呼び出し』と呼びますが、アマチュア無線のほか、業務無線でも規定されています。
当サイト各記事で『デジタル簡易無線』を取り上げる際は、この『登録局』制度になります。ご了承ください。
資格不要かつ、業務およびレジャー使用で不特定の局とも交信が可能、最大5Wの無線といえば、かつて1982年に開始され、2015年に制度が終了した『パーソナル無線』がありますが、同様の利便性があるデジタル簡易無線の登録局制度は、次世代型パーソナル無線と言えるかも知れません。
デジタル簡易無線の詳しい申請方法は以下のページにてまとめています。
2023年、免許局・登録局ともにチャンネル数が大幅に増加
登録局のチャンネル数はそれまで長らく陸上用30ch、上空用5chの合計35波となっており、東京など都市圏ではチャンネル数不足が顕著に見られ、業務局と趣味的な局の混信が見られたようです。
しかし、2023年に登録局は97ch(地上専用52chおよび上空専用10chが追加)、免許局も95ch(地上専用10chと新たに中継20ch追加)に大幅に増波されました。
それまで都市圏ではビジネス利用者の合間を縫って、空きチャンネルを確保し、メインで平日の真昼間っから大胆にCQを出すのは、アマチュア無線のレピーターでCQを出すよりも覚悟が必要だった登録局のフリーライセンス的使用でしたが、この大幅なチャンネル数増加に歓迎の声は多いようです。
固有の識別信号を発するCSMを搭載
デジタル簡易無線機は無線機ごとに固有の識別信号(コード)をキャリアに載せて自動で送信する仕組みですが、これを可能にしているのが「Call Sign Memory(CSM)」、日本語の正式名称「呼出名称記憶装置」と呼ばれるものです。
通常、すべてのデジタル簡易無線機には個体ごとに、免許局用無線機であれば数字の「1」、登録局用無線機であれば「2」から始まる9桁の識別信号(番号)が割り当てられており、無線機本体に表示されています。
「免許局」と「登録局」、いずれも申請時に申請者の個人情報と識別信号(番号)を申請書に記載して総合通信局へ提出しており、同局でこれらの情報が紐つけられて登録されている限り、CSMによって無線機から発せられる識別信号(番号)によって、誰が申請した無線機から送信された電波であるか、同局の電波監視で補足、判別できる仕組みです。
同様の機能はかつてのパーソナル無線や初期の特定小電力無線でも採用されていました。
不法な使用を防ぐのが狙いですが、アマチュア無線と同様、法に反する運用をしてしまうと監視対象となり、最終的には警告や摘発などがなされます。しかも、技術的にアマチュア無線よりも個人特定は容易というわけです。
技適許可されたアンテナのみ使用可能
同じライセンスフリー無線のCB無線や特定小電力無線ではアンテナの交換が認められませんが、デジタル簡易無線(登録局)ではアンテナの交換が可能です。ただし、使用できるアンテナはデジタル簡易無線用として技適許可された製品のみです。自作のアンテナやアマチュア無線用アンテナ、その他の業務無線用アンテナなどの流用ができません。技術研究目的でも、アマチュア無線用やその他無線用のアンテナでデジタル簡易無線機から送信をしてSWR測定実験などしないように注意が必要です。
デジタル簡易無線(登録局)用のアンテナには指向性のある八木アンテナまでありますので、数百キロ程度まで容易に通信距離を伸ばすことが可能です。現在販売されている各種アンテナは以下のページにて解説しています。
デジ簡の秘話コードとユーザーコードとは?
業務利用とレジャー利用の両ユーザーが混在するデジ簡の登録局では、混信によるトラブルが問題となる場合があります。
混信を防ぐには充分なチャンネルチェック後に使用することが前提ですが、32,767通りもの秘話コードを使うことで、混信を軽減できます。お互いの無線機であらかじめ設定した同一の秘話コードが一致しなければ無音となり、音声として復調されないため、交信内容を秘匿できます。ただし、混信の軽減には有効といえますが、当然、電波を発射している最中はチャンネルの占有自体はされていますので、近い局の場合は、前述のキャリアセンスが作動する場合があります。
また、以前であれば、秘話コードは交信内容の秘匿化に心強い機能でしたが、2024年現在では一部の広帯域受信機の拡張機能によって、一瞬で解読されて傍受されてしまうので注意が必要です。
秘話コードについて、秘話解読されてしまうケースや、秘話コードが使用できない特定のチャンネル、解読されないための特定の機種選び、敢えて特定の秘話コードをフリーライセンス局で共有する試みなど、以下のページで詳しく解説しています。
また、ユーザーコードとは数字三桁で設定する複数の特定の相手のみと限定して通話をする機能で、グループ別で交信する場合に便利です。
デジ簡のコールサイン
申請手数料と電波利用料がかかる点はデジタル簡易無線もアマチュア無線と同様ですが、デジタル簡易無線の場合、総合通信局からコールサインが付与されません。上述した通り、デジタル簡易無線はそれぞれの無線機に設定された個別の識別信号を電波(キャリア)に載せて自動的に送信しているためです。
そのため、現状ではデジタル簡易無線をレジャー目的で使用する各ユーザーは、各自で決めた好きなコールサインを名乗っています。コールサインの決め方について、とくに総務省から法的な指針や見解は示されていませんが、公的機関や企業と紛らわしいコールサインをつけないよう、注意が必要です。
現在、フリーライセンス局で主流のコールサインでは『地名、アルファベット、数字』の3つを組み合わせたものが主流です。これは、当時の電波監理局(現在の総合通信局)が当時は免許が必要だったCB無線局にかつて発給していたコールサインの形式にちなんでいます。
同じくフリーライセンス無線であるCB無線とコールサインを共用している方も多いようです。
アマチュア無線とデジタル簡易無線の音質比較
144MHzおよび433MHz帯のFM変調のアマチュア無線とデジ簡を音声で比較した場合の品質はどうでしょうか。
通常時の音質
ラジオ放送とまではいきませんが、FM変調のアマチュア無線は比較的クリアな音質です。一方、デジ簡も比較的クリアではありますが、人間の声が本来よりも甲高く変調されてしまい、多少聞きずらく感じます。その理由はひとえに、デジタル変調方式にあります。
遠距離交信における通信断続時の音質
デジ簡も144MHzおよび433MHz帯のFM変調のアマチュア無線も、遠距離交信になるほど変調が断続するのは同じです。デジ簡で通信断続時の特有の音は『ケロケロ』で、俗に蛙化現象と呼ばれています。それに対して、144MHzおよび433MHz帯のFM変調のアマチュア無線の場合は『ザザッまたはバサバサ』という音になります。デジ簡で『ケロケロ』内容の了解度は明らかにアマチュア無線が勝ります。
最新のデジタル簡易無線登録局ではケロケロ対策がされ、通信品質が改善されているようですが、144MHzおよび433MHz帯のFM変調のアマチュア無線のほうが全体的に、より品質が良いといえます。
全国の常備消防および消防団でもデジ簡を導入
すでにデジタル簡易無線の登録局は消防機関にとって、より重要で利便性の高い通信手段となっている現状です。
近年では260MHz帯のデジタル消防無線機にもデジタル簡易無線(登録局)の送受信機能を併せ持った機種が登場しており、常備消防職員がデジ簡を合理的に運用する一方、全国的に消防団でデジタル簡易無線(登録局)をまとまった台数で導入するケースが顕著です。
以下は茅野市消防団長による動画『茅野市消防団員行動解説動画 #04「デジタル簡易無線機編」』です。消防団員向けに無線機の運用方法を詳しく解説されています。
2011年に発生した東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県陸前高田市では翌年の2012年、団員約700人用にデジタル簡易無線機を配備しています。
疲弊する消防団、わずかな訓練・装備と報酬で危険な任務–震災が突きつけた、日本の課題《1》/吉田典史・ジャーナリスト
市では、消防団に配備されている車両に無線を備え付けていた。だが、車を離れると無線からの情報を得ることはできなかった。結局、団員51人が犠牲となった。
市は12年度から、団員約700人にデジタル簡易無線機を配備することにした。津波の到達時間や高さなどをすべての団員に連絡できるようにする。
また、北海道札幌市でも約200台のデジタル簡易無線機を消防団に配備していますが、公開されている無線運用マニュアルのなかで秘話コードに言及しています。
デジタル簡易無線機には、秘話コードを設定しているので、一般の方が保有する無線機では、消防団の無線交信を傍受できません。
参照 札幌市消防団 無線運用マニュアル https://www.city.sapporo.jp/shobo/saiyo/documents/musen.pdf
鹿屋市でも平成29年にデジタル簡易無線機(消防団用)を配備しています。
市では、平成29年度特定防衛施設周辺整備調整交付金を活用し、消防団へ「デジタル簡易無線機」を配備しました。これにより、火災現場等において、これまで以上にスムーズな連携・伝令が可能となり、迅速な活動が期待されます。
出典 http://www.e-kanoya.net/htmbox/anzenanshin/syouboudan_seibi_4.html
新潟県の魚沼市消防本部は魚沼市消防団が使用するデジタル無線装置の発注仕様書を公開していますが、方式としてデジタル簡易無線方式(登録局)を求めています。
デジタル簡易無線機 17台 魚沼市消防団に配置しているデジタル簡易無線機(IC-D60)と互換性があるもの
酒田市消防団用無線システム概要として公表されているこちらの資料ではチャンネルとともに秘話も設定済みです。
運 用 要 領
1 運用チャンネル
①②③のデジタル簡易登録局は、メイン21CHとし、22・23CHは予備とする。(21~23CHは秘話を設定済)
出典 https://www.city.sakata.lg.jp/bousai/bousai/bousaisoshiki/dan-top.files/dan-musen.pdf
デジタル簡易無線のまとめ
このように、デジタル簡易無線のうち、登録局制度は遊びと仕事どちらも1台でこなせて自由度が高いのが魅力です。また、アマチュア無線同様、地震や災害発生時の通信手段としても役立てられます。現在の数ある無線制度の中でもっとも便利で親しみやすい無線と言えます。
最後に簡単におさらいしますと以下のようになります。
- デジタル簡易無線は免許局と登録局の2種
- 免許局は業務利用のみ許可される
- 登録局は業務とレジャーどちらも利用可能
- 登録局は不特定の者との交信が可能
- 登録局はフリーライセンス局とも呼ばれる
- 登録局のコールサインは各利用者の自由
- 登録局を導入する消防団が相次いでいる
- 電波利用料は1台ごとに年間400円
- 15chは呼び出し専用でアマチュア無線のメインchと同じ使い方をする
以上です。