災害時の“最後の砦”としての周波数たち
私たちが日常で耳にすることの少ない「防災行政無線」だが、これは都道府県や市町村などが運用する公共用の通信システムである。
防災行政無線(150MHz帯)
まず紹介したいのは、150MHz帯域で運用されるタイプ。
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かつてはアナログ消防無線や一般事業者の連絡波として親しまれた帯域
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現在も市町村役場や都道府県庁の防災担当部門が利用。
災害発生時には、地域の最前線でやり取りされる重要通信が流れ、多くの受信マニアが注目する。
平常時も定期的に運用されており、日常業務のやり取りも聴取可能。
ただし最近は全国的に、デジタル260MHz帯域(受信不可)への移行も進み、アナログ運用は減少傾向にある。
このうち「移動系」は、公用車に搭載された無線機を通じて、役所や自治体庁舎と現場との公務の連絡に用いられている。
通常時には、水道や道路の保守点検、地域の土木作業に関する連絡などが主な用途で、緊急性を感じさせる場面はほとんどない。
しかし、ひとたび災害が発生すれば事情は一変する。
自治体と現場をつなぐこの無線網は、情報収集や指揮命令の要となり、活発な通信が交わされるようになる。
だが、ここで一つの課題が浮上する。
災害の規模が拡大するにつれて、自治体は消防や警察、国土交通省の出先機関など他の防災機関と連携する必要が高まる。問題は、それぞれが別々の通信系統を使っていることだ。
この壁を乗り越えるために整備されたのが、「防災機関相互連絡無線」、通称「防災相互波」である。
防災相互波の種類と運用実態
防災相互波は以下の2波。
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158.35MHz(VHF帯)
→ 都道府県庁、市町村役場、県警本部、海上保安庁、国交省、電力会社、燃料基地、重化学工場、日本赤十字社などが相互連絡で使用 -
466.7750MHz(UHF帯)
→ 地方自治体間の共通波。主に道府県庁や市町村役場、消防団、防災航空隊などが運用
158.35MHzは、災害時に異なる機関同士の円滑な連携を確保するための“相互接続線”的役割を担う。とはいえ、平時に開局する機会は多くないため、スキャナーによる受信報告は限られている。
ただし一部の消防本部では、定期的に試験通話が行われており、その音声からコールサインや運用形態が確認されることがある。
コールサインは「防災相互+地名+番号」といったパターンが報告されている。
また、158.35MHzは全国共通の周波数であり、特定の地域に限らず受信可能である。
防災用スキャナーの周波数バンクに登録しておくと、いざというときの貴重な情報源となる可能性がある。
なぜ重化学工場や燃料基地も対象なのか?
防災相互無線の割り当て対象には、地方自治体や行政機関のほか、石油ターミナルや化学プラントなどの大規模施設も含まれている。
理由は明白で、こうした施設で火災や事故が発生した場合、周辺への影響は甚大であり、災害対策に際しては複数機関の即時連携が不可欠となるからである。
警察・消防・自衛隊・自治体などが一斉に動く現場では、相互無線が重要な役割を果たす。
もう一つの共通波:466.7750MHz
158.35MHzが「異なる防災機関同士の連絡」を目的としているのに対し、466.7750MHzは「地方自治体同士の連絡」に特化した全国共通波である。
この周波数も、周辺市町村役場間での横の情報共有や市町村と都道府県との垂直的な連絡に用いられており、報告例としては県庁防災航空隊や消防団がこの波で交信していた記録がある。
防災移動系無線(466.7750MHz)
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市町村の外回りの職員や緊急出動車両が使う
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市民からの通報や苦情に基づき、市役所が車両を出動させる際などに使用される
たとえば、道路の陥没、水漏れ、倒木など生活に関わる現場の確認や対応に使われる。
災害時における自治体間の相互連絡や、地域住民の安全を守るため広域での調整通信に使われるため、貴重な情報源であり重要な監視対象周波数のひとつ。
なお、466MHz帯は消防アナログ署活系無線も運用されている帯域なので、重点的にチェックしたい。以下の記事で署活系の全周波数を紹介している。
参考文献 ラジオライフ2001年10月号