ユーロアンテナ偽装型の登場背景
2012年ごろから、従来のTVダイバーシティ型アンテナ(TAアンテナ)に代わり、全国の警察車両で一斉に採用され始めたのが、ユーロアンテナ偽装型アンテナである。
このアンテナは、ヨーロッパ車や国産高級車に見られる短く太い棒状の外観を模しており、2000年代以降の自動車に標準装備されるようになった「ユーロアンテナ(ショートポール型アンテナ)」の外観を模している。

内部にはヘリカル構造の無線アンテナ素子が内蔵されており、見た目に反して実際の通信性能も非常に高い。
外観と性能の両立に成功したこのモデルは、2025年現在、最も普遍的な警察無線用偽装アンテナとなっており、その汎用性と偽装性の両立性は過去随一である。
実際、このユーロタイプのアンテナは、交通取締用の覆面車両や刑事部門の捜査用車両、さらには日産エルグランドのようなミニバン型車両に至るまで、幅広く装着されている。
特に警護車では、複数系統の無線通信を必要とするため、1台の車両に複数のユーロアンテナ型が装備される例も見られる。
見た目が自然で目立たず、着脱もマグネット(磁石)式で容易なことから、臨時的な指揮本部に設けられた固定局の仮設アンテナとしても活用されている。
部屋の金属ドア表面にユーロアンテナが何本も無造作に“生えている”写真は不気味であった。
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代表的な2モデルとその違い
現在、警察が配備する「ユーロアンテナ」は、以下の2種類が主流である。
製造メーカー | モデル名 | エレメント形状 | 特徴 | 採用比率 |
---|---|---|---|---|
日本アンテナ | MG-UV-TP(など) | チルト可動式(角度調整可) | 柔軟性が高く、堅牢な構造 | 圧倒的に多い |
電気興業 | モデル名不詳 | 固定式 | 固定構造 | 少ない |
ひとつは日本アンテナ製の「MG-UV-TP」で、こちらはエレメントの角度を調整できるチルト機構付き。もう一つは電気興業製で、こちらはエレメントが固定式のタイプ。
このうち、日本アンテナ製MG-UV-TPはその柔軟な設置性と堅牢な構造から、全国の警察車両において事実上の標準装備となっており、捜査車両から交通取締車両、警護車両に至るまで幅広く使用されている。
なお、両機種ともNP型の同軸コネクタを使用しており、無線機器との確実な接続が可能である。
電気興業製ユーロアンテナ偽装タイプ

EKワゴンのミニパトに搭載された電気工業製ユーロアンテナ。電気興業製ユーロアンテナは情報が少ないため、モデル名、仕様など詳細が判然としない。
日本アンテナ製とともにほぼ同時期から配備され、とくに大阪府警での配備率が高いようだが、全国的には少ない。
エレメントの角度をチルトできないのが特徴となっている。
日本アンテナ製ユーロアンテナ偽装タイプ MG-UV-TP
現行品はMG-UV-TP(TAG)で、底面のネオジウム磁石が塩化ビニル素材で覆われた仕様となっている。
警視庁高速隊に配備されたフェアレディZでは、当初ユーロアンテナが1本のみ搭載されていたが、その後、増設が行われている。
このように、従来のTAアンテナが旧世代の装備となった今、特にルーフやトランクといったスペースに制約のある車種では、制服警察官が運用するパトカーにおいても、ユーロアンテナが積極的に採用されている。
さらに、MG-UV-TPには407.725MHz帯に対応した「3周波共用型」も存在しており、これにより、かつて旧型のカーロケ—すなわち警察無線による車両動態表示システム—で使用されていたデータ通信用の周波数にも対応可能である。
この3周波共用型のMG-UV-TPは、従来の基幹系(VHF)、WIDE(現在はIPRに統合)などの2周波共用型と外見上の差異はない。
旧来のAPRカーロケシステムでは重畳通信や、NTTドコモのFOMA回線を用いたパケットデータ通信が導入されていた。FOMA方式においては、データ通信専用のモノポール型アンテナ—通称「タスポアンテナ」—が助手席側のAピラー脇、ダッシュボード上に設置されており、これは日本電業工作社が製造していた。
ユーロアンテナの弱点
実は優れたユーロアンテナにも、克服すべき課題、すなわちウィークポイントがある。
1、同軸ケーブルの処理
外観こそ市販車にも見られる標準的なユーロアンテナであるものの、「後付けアンテナ」である以上、同軸ケーブルの処理には依然として課題が残る。
「MG-UV-TP」などの後付けタイプは、どうしても同軸ケーブルの処理に無理が生じやすく、リアガラスへの這わせ方や固定の不十分さによって、“バレ”の要因になり得る。とりわけ、アンテナ本体の形状や取り付け位置には一見違和感がなくとも、ケーブルのたるみや浮き、またはルーフ上のアンバランスな配置などが“ボロ”を出してしまうことが少なくない。
とりわけ問題となるのは、アンテナ本体そのものよりも、そこから引き込まれる同軸ケーブルの「存在感」である。
リアガラスに沿わせて配線されたケーブルは、固定が甘ければ滑り落ちたり、浮き上がる。こうした状態は、車両観察者側から見れば明らかな違和感となり、偽装効果を損なう要因ともなる。
このため、覆面パトカーに搭載されるMG-UV-TPなどのユーロアンテナでは、リアウインドウの縁ギリギリにアンテナを設置する例が多い。
これは同軸ケーブルを極力目立たせず、丁寧に処理するための措置である。
具体的には、自己融着テープによってケーブルを保護したうえで、リアウインドウの溝に沿わせるように配線し、車体に自然に馴染むよう埋め込んで処理されている。
ミニバン型の車両では、さらに「ピタック」と呼ばれる専用の樹脂製固定具を併用して、確実な固定が図られることもある。
ケーブルの引き込みは通常、リアウインドウの左右いずれかに沿って行われるが、その処理の精度には都道府県警ごとの違いが見られる。
手際のよい自治体では、ケーブルがほとんど視認できないほど美しく処理されているのに対し、雑な施工がなされた車両では、ケーブルが浮いたり垂れ下がったりと、明らかに不自然な印象を与えてしまう。
加えて、こうした処理の不備は単なる外観上の問題にとどまらず、無線機器としての送受信性能にも影響を及ぼす可能性があるため、放置はできない。
ケーブルの固定や修理、再処理といった作業は、通常、現場の警察官ではなく、技官や、都道府県ごとに契約された指定業者によって行われている。
MG-UV-TPの欠点を克服したWH-UV-TPとは
このようにMG-UV-TPには、同軸ケーブルが車外に露出し、後付けであることが一目でわかってしまうという、致命的な弱点がある。
しかし一方で、「WH-UV-TP」のように純正アンテナとの換装を前提とした埋め込み型の製品も存在した。
WH-UV-TPは、車両に純正装備されるユーロアンテナと“換装”する方式を採用し、ケーブルをボディ内部に完全収納できる構造を取る。車外に配線が残らないため、外観上は純正アンテナと判別不能であり、偽装性は大幅に向上。外観上は完全に市販車の標準仕様に見えるため、偽装性能は非常に高い。車に詳しくない一般人はもちろん、多少車両知識のあっても、走行中にこれを見破ることは困難である。
日本アンテナの共通取扱説明書によれば、MG-UV-TPは磁石固定タイプ、WH-UV-TPは既存ベースの穴を利用する「穴開け式」に分類される。
後者は固定強度と耐久性、そして秘匿性において優位に立つ。
なお、市販車の純正ユーロアンテナは先端から根元までラバー一体成形だが、MG-UV-TP/WH-UV-TPはいずれも先端部のみプラスチック製という共通点がある。
2、ユーロアンテナが標準装備の車種に後付けすると違和感でバレる
覆面パトカーの偽装技術において、最も基本とされるのが「目立たないアンテナ配置」であるにもかかわらず、現実には標準ユーロアンテナのすぐ近傍に偽装型ユーロアンテナを増設するという、偽装効果を著しく損ねる例もある。
警察で配備実績のあるインサイトやインプレッサ・アネシスなどは標準でユーロアンテナを装備しているが、これらの車種にMG-UV-TPを追加した結果、かえって違和感を増幅させた“失敗例”である。
この傾向が特に顕著だったのが、国費により捜査覆面として全国で大量導入されたスバル「インプレッサ・アネシス」である。
同車はルーフ後部に純正ユーロアンテナを備えており、これを生かしつつ偽装アンテナを追加しようとした結果、既存アンテナの隣や直後ろ、あるいはリアトランク上といった場所にMG-UV-TPが装着される本末転倒な例が確認されている。
同様のパターンは、やはり国費導入車両であるホンダ・フィットやスズキ・スイフトなどでも見受けられる。
これらはいずれも標準でユーロアンテナが装備されているため、本来ならばWH-UV-TPへの換装が理想的なはずだが、現場の都合やコストの都合からか、MG-UV-TPが追設されるようだ。
一方で、トヨタ・クラウンマジェスタのような上級車両では、標準装備のドルフィンアンテナに加え、トランクリッド部にユーロアンテナが追加された例もある。
これは公用車としての機能を優先した結果かもしれないが、車体後部に2系統の異なるアンテナが並立することとなり、秘匿性の面では課題を残している。
さらに興味深い点として、エレメント(アンテナ本体)を本来とは逆方向、すなわち前方に倒した状態で運用されている車両も一部に存在する。
この理由については明確な技術的根拠は示されておらず、ルーフの反射を利用した受信効率の改善などが想定されるが、実際には習慣的な配置や単なる整備上の便宜による可能性も否定できない。
なお、警察車両に限らず、国土交通省の緊急車両などでも日本アンテナ製MG-UV-TPと同型のユーロアンテナが使用されていることがある。
これは緊急時の無線通信用途に限らず、位置情報送信やデータ通信に使用されることもあり、車種や所属を問わず広範な運用が進んでいる証左なのかもしれない。
MG-UV-TPの類似品で市販品のMG-450-TPとは?
実はこの日本アンテナ製のMG-UV-TPには、ほぼ同一の市販品が存在するという、マニアには嬉しいサプライズがある。
それが、主にタクシー無線などで使用される450~470MHz帯域に対応した単一周波数専用モデルMG-450-TPである。
見た目は警察無線用のMG-UV-TP(150MHz帯と350MHz帯の二波共用型)と、ほぼ同一であるが、MG-450-TPVはHF(150MHz帯)には非対応である。
このように、二つは無線の周波数特性において明確に別製品であり、無線機器としての互換性はない。
ただし、外観についてはアンテナの形状・サイズ・色調などに違いがなく、外見のみで両者を判別することは非常に困難である。
要するに、MG-450-TPは“見た目だけ覆面パトカー風”の市販アンテナであることから、あくまで視覚的演出を狙って、購入する愛好家も多いようだ。
一方、アマチュア無線局(ハム)の一部では、MG-450-TPを広帯域受信用、さらにはアマチュアバンドの430MHz帯用の送受信用アンテナとして流用する例も見られる。その性能は比較的良好だという。
ユーロアンテナのまとめ
MG-UV-TPを本来の車外設置とは異なり、車内、具体的には後部座席のリアトレイに鉄板を敷き、これをアースポイントとしてアンテナを仮設置する“変則的”な車内運用例も報告されている。
これは配線処理を目立たせたくない事情から来た対応と考えられ、同軸ケーブルが車外に露出しないという点では効果的であるが、本来の電波特性や通信品質には多少なりとも影響を与えるおそれがある。
結論として、ユーロアンテナはその汎用性と見た目の自然さから覆面パトカーの偽装における“定番装備”となっているが、施工の丁寧さや車種とのマッチング、そして何より配線処理の巧拙が、偽装効果の成否を大きくさせるだろう。
このように、ユーロアンテナ偽装型は、かつてのTAアンテナの役割を引き継ぎながら、より現代の車両環境に適応した形で発展を遂げ、いまなお覆面パトカーにおける主要な偽装アンテナとして広く使われている。
そして、2020年以降、今度は『車内秘匿型アンテナ』が登場している。
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