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シグナリーファン編集部では、無線受信や運用に関して総務省総合通信局の公開情報・公式資料・報道記事・学術文献を継続的に調査・分析しており、各種記事はそれらの調査結果に基づいて構成しています。

覆面パトカーの偽装アンテナ、次の一手─「TVダイバーシティ型TAアンテナ」の興亡

TAアンテナ(テレビ放送&カーナビ受信用アンテナ偽装タイプ)

自動車電話アンテナへの偽装を極めた「TLアンテナ」が主流となった1990年代。

しかし、その後テレビ受信機能を備えたカーナビの普及にともない、新たな「偽装」スタイルが登場する。

テレビ受信用アンテナを装った無線アンテナ──通称「TAアンテナ」である。

取扱説明書によると正式には「日本アンテナ 無線用ホイップアンテナ TVダイバーシティ型」と呼ばれた。

民生向けのテレビアンテナに極めて酷似した外観を持つこの覆面パトカー用アンテナは、特に2000年代初頭の車両のスタンダードとなった。過渡期にはTLとTAの混成装備の車両も確認された。

原型モデルは、カー用品メーカー・SEIWAがかつて発売していたテレビ受信用アンテナ「シティロードT17型」を模した形状および、2基で1セットの構成。

愛好家の間では「シティロード型」としても知られている。

製造は日本アンテナが担当し、2010年頃まで生産が続けられていた。

当時、テレビ受信機能付きナビが一般化する中で、車体にTVアンテナが設置されていること自体が不自然ではなくなり、このTAアンテナによる偽装は極めて効果的だったといえる。

複数バンドに対応するマルチバンド設計のアンテナ

取扱説明書を根拠に、詳細解説していたラジオライフ2000年2月号によると、このアンテナの正式名称は「TVダイバーシティ型通用アンテナ」とされており、これは一見テレビ用だが、実際には数種類の警察無線に対応する設計である。

同シリーズは「TV-UV」「TV-UVTUV」「TV-UVTU」の3タイプが存在し、基本形状はほぼ共通。左右のユニットの中身(とケーブル)が異なるだけだ。

対応モデルとバンド構成:

  • TV-UV
     左側:150MHz帯 / 350MHz帯
     右側:TV放送受信用

  • TV-UVTUV
     左側:150MHz帯 / 350MHz帯
     右側:150MHz帯 / 350MHz帯

  • TV-UVTU
     左側:150MHz帯 / 350MHz帯
     右側:400MHz帯


これらは左右1対・計4本のエレメントを用いて、最大3バンドまでの同時受信が可能な設計となっている。具体的には、

  • 150MHz帯 … 警察の基幹系通信(例:154〜161MHz)

  • 350MHz帯 … 警察のWIDEシステム向け(例:335〜360MHz)

  • 400MHz帯 … 主にカーロケーター(車載位置通報装置)向け

  • TV … 地上波テレビ放送受信用

同軸の各タイプの組み合わせは以下のとおり。

  • TV-UV:左=150/350MHz用同軸、右=テレビ用フィーダー

  • TV-UVTUV:左右どちらも150/350MHz用(両側とも同軸)

  • TV-UVTU:左=150/350MHz、右=400MHz用(両方同軸)

ここでの注目ポイントは右側ユニットのケーブル種別。テレビ波用にはフィーダー(平たいケーブル)が使われており、同軸ではない。つまり……

◆ 右ケーブルがフィーダー → “テレビっぽい”可能性アリ
◆ 右も左もフィーダー → 完全にテレビ用、警察無線に非対応
◆ 両方同軸 → 本物の無線運用アンテナの可能性高し!

と、いうわけで現場で見かけた際には、リア右ユニットから出ているケーブルの断面形状をまずチェックすべし。

参考文献 ラジオライフ2000年2月号

覆面車両の条件は“アンテナ角度”にあり!?

実はアンテナの展開角度にも秘密がある。説明書によると、使用時は以下のように展開するのが正しい使い方だ。

  • エレメントは最大まで展開

  • 左右の間隔は約45度

  • 本体は水平より90度=垂直に立てる

つまり、ピンと立った耳のように垂直に展開されたスタイルが“本物の捜査車両”の条件だ。

とはいえ、これを忠実に守って、真っすぐ天に向かってエレメントを突き立てて運用していた覆面は多くなかった事は、皆さんもご存知の通りである。

このように見かけのシンプルさに反して、実はかなり高度なマルチバンド対応型アンテナだったという点でものしごい高性能だ。

TAアンテナは、上下2段構造のホイップエレメントを備え、特に下段のエレメントは無線の送受信に対応。

アンテナ基部は車種に応じて複数のバリエーションが存在し、マグネット固定式やフック式、さらには車体形状に合わせた専用型などが製造されていた。

設置位置とその傾向

車種によって取り付け位置は異なるが、セダン型の覆面車両ではリアウィンドウの左右両脇に対称配置されるのが基本。

ただし、片側のみの装着(上述したように、一方はダミーであるため)や、SUV・ミニバン型においてはルーフ中央あるいはリア上部に設置される例も存在した。

アンテナの同軸ケーブルはリアピラーやルーフモールを這うように引き込まれていた。

民生用との違い

TAアンテナは、上下2段のエレメント(空中線)構造となっており、特に下段のエレメントが実際の無線送受信を担っている。

このエレメントは、アンテナ基台内に完全に収納されることがなく、構造上わずかに突出している。

この設計により、外見上はシティロードT17とほぼ同一でありながら、通信性能が確保されている。結果的に、これが警察向け製品と民生品との決定的な外見上の違いである。

また、上段のエレメントカバーが破損しやすい、という欠点もあり、実際にカバー欠損のまま使用されている捜査車両も確認されていた。

ほかにも日本アンテナ製と、元となった民生用モデルSEIWA製シティロードT17とでは、以下のような違いがある。

比較項目 日本アンテナ製TAアンテナ SEIWA製シティロードT17型
下段エレメント後端 カバー内に完全に収納されない 完全に収納される構造
同軸ケーブル形状 丸型(無線用) 平型・2本組(TV用)
後端形状 末端が膨らんでいる フラットで膨らみなし

これは元になったセイワの民生品仕様。下段のエレメント後端が膨れておらず、また同軸線が平たく、二本組みである点が、警察無線用との違い。

構造上の欠点と運用上の課題

一方で、TAアンテナには構造上の明確な欠点も存在していた。

  1. エレメントの曲がり事故
     アンテナのエレメントは極めて細く、最大展開状態でうっかりトランクドアを開けると、ドアがエレメントに接触して曲がってしまう事故が頻繁に発生した事例が見られた。
     特に、高速道路交通警察隊や交通機動隊の交通覆面では、違反車両停止後にトランクから矢印板やコーンを取り出す場面が多いため、この事故の発生率が高かった
     また、頻度は低いながらも、機動捜査隊や所轄署の車両にも同様のリスクがあった。

  2. 偽装性と通信性能のジレンマ
     アンテナの存在を目立たせたくないという理由と破損防止の目的で、エレメントを伸ばさずに運用する例も多かったが、一般論では無線の送受信性能が低下する。

  3. 秘匿型運用の導入
     こうした問題への対策として、後年にはエレメントを伸ばしたアンテナ本体を後部座席や荷室に収納する「秘匿型(車内アンテナ型)」運用も試みられた。

その他のモデルと地域差

日本アンテナ製のTAアンテナが全国的には主流であったが、一部の警察本部では独自のモデルも併用していた。

  • パナソニック製「TY-CA39DA型」:全体的にフラットでシティロード型とはやや異なる外観。

  • 都道府県警独自仕様のオリジナルモデル:小型化されたテレビダイバーシティ型で目立たない設計。

市場での人気と現在の状況

TAアンテナは、2025年現在においてはほぼ使用されておらず、現場ではすでに旧式装備とされている。当然ながら民間車両への設置例は皆無に近い。

しかし、例の「アンテナ窃盗事件」当時は、マニアの間ではコレクターズアイテムとして評価が高く、オークションでは日本アンテナ製の実物モデルや、SEIWA製の民生品など、新品未使用品のものは10万円〜20万円で取引された例も存在する。

まとめ

実際には警察無線を担いながら、一般車両に溶け込む外観が特徴だったTAアンテナ。その後、より偽装性を高めたユーロアンテナへと移行していく。

覆面パトカーの偽装用『ユーロアンテナ』(ヘリカル型アンテナ)とは?

余談だが、あまりに人気過熱ぶりか、2014年には「覆面パトカーアンテナ盗難事件」も発生している。

警視庁の覆面パトカーからアンテナを盗んだ犯人の目的は?

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