アマチュア無線局がアンテナを目立たぬよう設置することは、果たして問題があるのだろうか。
アマチュア無線や各種ユーティリティ無線の受信運用において、車両にアンテナを設置する場合、外観上の配慮や安全面での検討が必要となる。特に、周囲の環境によってはアンテナの存在をできるだけ目立たせたくないという事情も生じる。そのような場合、車内にアンテナを設置するという方法も検討されている。
実際、アマチュア無線愛好家の間では古くから「アンテナを目立たせず設置する工夫」は議論の対象となってきた。特に車載アンテナに関しては、なるべく目立たせたくないという希望を持つ運用者も一定数存在するのが現実である。
一方で、「アマチュア無線を行うなら堂々とアンテナを掲げるべきだ」「隠すくらいなら運用すべきではない」といった意見も一部には見受けられる。しかし、そもそもアンテナを目立たなく設置する行為自体が違法行為に当たるのだろうか。
本稿は、あくまで筆者の個人的な見解を述べるものであり、特定の考え方を提言するものではありません。利用者の責任でご判断ください。
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アマチュア無線局のアンテナは隠したらアカンのか?
電波法の規定を確認すると、たとえばデジタル簡易無線の登録局などフリーライセンス無線では技術基準適合証明(技適)を受けたアンテナのみの使用が義務付けられており、特定小電力無線においてはアンテナの交換そのものが禁止されている。
これに対し、アマチュア無線は免許制であり、使用周波数や出力などに関して細かい規定が存在するものの、アンテナ自体については技適や設置方法に関する制約は設けられていない。現行法上、「技適未取得のアンテナを使用してはならない」「アンテナを隠してはならない」といった規定は確認されていないのが実情である。
基本に立ち返って考えてみたい。アマチュア無線局の運用とは、電波法におけるアマチュア業務として定義されている。「金銭上の利益のためではなく、もっぱら個人的な無線技術の興味によって行う自己訓練、通信および技術的研究」とされており、比較的自由度の高い趣味分野であるといえる。
そのため、アンテナの設置方法についても、各運用者の事情によって判断が分かれている。たとえば車載運用の場合、車のシルエットを崩したくない、盗難を防ぎたい、あるいは車庫に入らないといった理由から、アンテナを外部に露出させたくないという考え方も一定の合理性がある。車両にアンテナが取り付けられている事実自体が、高価な無線機や受信機が搭載されていることを示唆してしまう面もあるからだ。
このような事情から、「アンテナを車外に出さず、車内に設置できないか」と検討するのは自然な発想である。しかし現実的には、車という金属の箱の内部にアンテナを置くことで、電波の飛びが悪くなったり、反射波による無線機への悪影響が生じるリスクもある。鉄のボディが電波の妨げになるためである。
もっとも、こうした課題があったとしても、まったく送信や受信が不可能になるわけではない。設置方法や調整の工夫次第で、一定の成果を上げている事例も確認されている。こうした研究自体が「技術的研究」というアマチュア無線本来の目的に含まれると解釈する立場はごく自然である。
それにもかかわらず、一部には「アンテナを隠したいなら無線などやらなければよい」といった極端な意見も存在する。白黒をつけたがる短絡的な主張であり、アマチュア無線という趣味本来の多様性を十分に踏まえたものとは言い難い。
アマチュア無線の世界は、本来こうした創意工夫や環境に応じた試行錯誤こそが醍醐味であり、アンテナ設置方法の模索も、その大切な一要素であるといえるだろう。
アマチュア無線局のアンテナは目立たせる必要は全くない
アマチュア無線局のアンテナは、目立たせなければならないという法的義務は存在しない。かつて、パーソナル無線のモービルアンテナには先端部をオレンジ色に塗色する「自主規制」が存在した時代もあり、「オレンジトップ」と通称されていた。しかし、これはあくまでパーソナル無線における自主的慣行であって、アマチュア無線に適用されるものではない。
電波法上も、アンテナの外観や視認性に関する規定は設けられていない。技適を取得した機器を用い、定められた出力・周波数内で運用する限り、アンテナの設置形態そのものは各自の判断に委ねられている。
アマチュア無線の目的は、技術の向上や非常時の通信手段の確保にある。したがって、アンテナ設置においても、必ずしも人目を引くよう設置しなければならない合理的理由はない。むしろ、車載運用(モービル運用)においても車内にアンテナを工夫して設置する例が多数存在し、固定局ではマンションのベランダ等に目立たぬよう秘匿的にアンテナを設ける「アパマンハム」と呼ばれる運用形態も一般的である。
こうした秘匿的アンテナ設置の発想は、日本に限らず、海外のアマチュア無線家にも広く見られる。たとえばアメリカでは「ステルス・ハム・ラジオ・アンテナ(Stealth Ham Radio Antenna)」と呼ばれ、住宅の景観や近隣との摩擦を回避する目的で、庭木や飾りポール、風見鶏などに同化させたアンテナ設置が実践されている。
アンテナの隠蔽設置そのものは技術的工夫の一形態として合法的運用に利用されるケースも多い一方で、こちらはそうした秘匿運用を悪用する事例だ。警察白書においては、極左勢力が警察のデジタル無線(当時のMPR)を解読する目的で、マンションのベランダに植物のツルに擬装したワイヤーアンテナを設置し受信活動を行っていたという事例が報告されている。こうした反社会的な悪用は論外であるが、警察当局からすれば、悪意がなかったとしても「アンテナの秘匿」に対して違法運用を警戒せざるを得ない実情も理解している。
アンテナの設置について
確かに、アンテナを隠すことで通信性能に影響が生じる可能性は否定できない。しかし、それはあくまで運用者自身が技術的な制約を理解したうえで行えばよい話である。
一般的に車載アンテナは車外に設置されることが多い。その中でも、取り外し可能なマグネット基台を用いた設置方法は利便性が高く、多くの無線愛好家に利用されている。実際、筆者もマグネット基台を愛用している。
ただ、あくまで筆者の体験談だが、こうした目立つ外部アンテナを装着していると、警察から職務質問を受ける機会が増える傾向にあった。特にパトロール中の警察車両とすれ違った際など、停車を求められ、運転免許証の提示を求められるケースが少なくない。
もちろん、アマチュア無線従事者免許を取得し、電波利用料も適切に納付している上での合法運用である。それにもかかわらず、頻繁に職務質問を受けるのは心理的負担となる利用者も多いのが現実である。
ハッチバック等に固定基台で取り付けるタイプと比較すると、マグネット基台は容易に着脱できる構造である。このことから、一部の警察官は「不法局によく見られる秘匿的運用の手口」と警戒している可能性もあるが、実際のところは定かではない。
公的機関の車両はアンテナを隠している
公的機関の車両もアンテナを隠している実例がある。
たとえば、警察の覆面パトカーでは、警察無線や業務用無線を使用するためにアンテナを装備しているが、外観上それと分からぬよう工夫が凝らされている。ダミーのユーロアンテナやガラス貼り付けアンテナが採用され、「いかにも覆面車両」とはならぬよう配慮されている。
また、総務省の不法無線局探査車「DEURAS-M」でも、車内にホイップアンテナを仕込むなどの秘匿的な装備が施されていることが報告されている。
職務執行の性質上、探査車が通信設備を可能な限り秘匿する必要があるのは当然とも言えよう。実際に中国総合通信局では、現行の調査車両(アルファード)に広帯域受信用の市販アンテナ「NR950M」(ダイヤモンド社製)が外装設置されている。
さらに、総務省自らが紹介する不法無線局の摘発例として「荷台をアンテナに転用する手法」が挙げられている。これはトラックの荷台パネル部分を空中線整合器と組み合わせてアンテナ素子(エレメント)として機能させるものであり、違法CB無線の利用者などに見られる隠蔽手法である。
このように、総務省や警察といった公的機関も目的に応じて「アンテナの秘匿性」を重視している一方で、一般の(合法運用の)アマチュア無線局が同様の秘匿設置を行うことに対しては、しばしば否定的な見解が提示されがちである。
もちろん、「役所がやっているからアマチュア局も自由に隠せばよい」と主張する意図は全くない。ここでは単に、公的機関も必要に応じてアンテナの目立たぬ設置を行っているという事実を紹介しているに過ぎない。
目的は異なるが、「アンテナを目立たぬよう設置する必要がある」というニーズ自体は共通して存在している。覆面パトカーにおいては捜査活動の秘匿性維持、不法局探査車では監視任務の実効性確保、アマチュア局においては景観・防犯・設置環境の制約対応など、事情はさまざまである。ただし、一方で、無免許の不法局による悪用も一定数存在している。
アマチュア無線の『車内アンテナ』
アマチュア無線の「車内アンテナ」という選択肢も存在する。
実際、アマチュア無線用の車内設置型アンテナは以前から市販されてきた。たとえば20年以上前には、ダイヤモンド社がダッシュボード上に置く小型アンテナ(全長20センチ程度のエレメント)を販売していた実績がある。
現在でも、ガラス貼り付け式の製品が市販されており、たとえば以下のようなものがある。
製品には145MHz帯と430MHz帯の二種類があり、たとえば145MHzモデルは118~250MHzおよび350~470MHz程度までの広帯域受信にも対応している。広帯域受信用として利用するユーザーも少なくない。
実際に、警察の覆面パトカーでも窓ガラス貼り付けアンテナが採用されている例が確認されており、車外に目立つアンテナを立てずに通信する技術は、業務無線の分野でも実践されている。ただし、覆面パトカーで使用される周波数帯とアマチュア無線で利用する周波数帯は異なるため、アンテナの設計(エレメント長など)も異なる。
一般論として、車内アンテナは通常の車外設置型モービルホイップアンテナに比べると受信感度は劣る。特に受信性能を重視する利用者にとっては、ルーフ上に垂直設置したアンテナが依然として有利である。
それでも、何らかの事情で車外アンテナの存在を他者に気付かれたくない場合には、車内アンテナという選択肢も検討に値する。洗車時の取り外しも不要であり、雨天や盗難対策としても一定の利点がある。
なお、車種やリアガラスの形状・設置位置によっては、ガラス貼り付け式アンテナでもある程度の目立ちは避けられないものの、無線に詳しくない一般人にはアンテナとは気付かれにくい外観となる。
まとめ
結局のところ、「アマチュア無線のアンテナは隠すべきでない」「アンテナを隠す行為は好ましくない」とする意見の方が、むしろアマチュア無線の本来の研究精神を否定する考え方とも言える。是非論ではなく、技術研究としてどのような知見が得られるかが本質ではないのだろうか。「アンテナを隠すなら無線などやるな」といった主張は、極端な押し付けに他ならないと筆者は考える。
アマチュア無線の楽しみ方は多様であり、運用そのものはもちろん、アンテナの設置方法についても各人の工夫と創意に委ねられている。堂々と大型のアンテナを設置するのも良いし、周囲の環境に配慮して目立たぬように工夫するのも、また技術的探求の一部である。重要なのは、電波法を順守した上で、各自の事情や目的に応じて賢明に運用する姿勢だと言える。
適正な免許を取得し、正当な出力範囲内で運用する限り、アンテナ設置の工夫もまたアマチュア無線技術の探求対象と捉えるべきであろう。
ただし、車内アンテナの場合、無線機本体や搭乗者の健康に対する影響、安全性、さらには警察当局の不審視などのリスクも伴うことは事前に認識しておくべきである。筆者も運用にあたっては、十分な理解と自己責任のもとで慎重に検討し、無線の技術研究をこれからも存分に楽しんでいきたいと考えている。