ディスコーンアンテナは、その名のとおり「ディスク」と「コーン」で構成されたアンテナである。上部のディスクが給電点に接続され、下方に広がるコーンが放射体として機能する構造を持ち、外観は逆さにした傘のように見える。
このアンテナの最大の特徴は広帯域性にある。
設計によっては、最低動作周波数の約1/10に相当する帯域までカバーできる場合があり、利得は一般的にダイポールアンテナと同程度とされる。また、放射特性は地平線方向に強く現れるため、水平面での受信効率が高いのも特長である。
ディスコーンアンテナは、特定の周波数に特化して高い利得を得るのではなく、広範囲の信号を効率的かつ均一的な利得で受信できることが強みである。
詳しく見ていこう。
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1.ディスコーンアンテナの特性
ディスコーンアンテナは、水平面ではほぼ無指向性に近い放射パターンを示し、全方位から均等に電波を受信できる。一方で、垂直方向への放射は比較的集中しており、設置する高さや周囲の障害物の影響を受けやすい。
広帯域特性に優れ、設計次第では数十MHzから数GHzに及ぶ周波数をカバーできることから、とくにVHF/UHF帯の広帯域受信用に適している。
給電インピーダンスについては、アンテナの設計により数10〜数100Ω程度と幅があるが、市販されている多くの製品は50Ωに設計されており、一般的な同軸ケーブルで直接利用できる。基本的には受信用に用いられることが多い。
2. ディスコーンアンテナは広帯域特性と利得のトレードオフである
そして、実はここに落とし穴がある。アンテナの特性として「帯域を広くとるほど利得は低めになる」傾向があるのだ。ディスコーンアンテナも例外ではなく、利得は広帯域性と引き換えに「低〜中程度」にとどまるのが実態である。

理由を整理すると以下の通りである。
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構造上の理由
ディスコーンアンテナは円錐形のディスク部分(放射体)と下向きの円盤(ディスク)で構成される。広帯域を確保するために放射効率を犠牲にしている部分があり、結果として利得は数dBi程度に制限される。一般的なVHF/UHF向けのディスコーンでは利得は概ね2〜5dBi程度で、同じ周波数帯の指向性アンテナ(八木アンテナなど)の利得に比べると低い傾向にある。 -
指向性の理由
ディスコーンはほぼ全方向性(水平面で全方位)を持つため、特定方向に電波を集中させることができない。指向性を高めると利得は上がるが、全方向性は失われる。つまり広帯域かつ全方向性という設計のトレードオフで利得は低くならざるをえない。 -
受信向けとしての適性
利得が低いとはいえ、受信用途では問題にならない場合が多い。広帯域かつ全方向性で、多くの周波数を手軽にモニターできる利便性が利得の低さを補っているのが実情である。送信用としても使用できるが、出力の低い無線機では通信距離が短くなる可能性があるため注意が必要である。
例えば、ダイヤモンド社の「D130」では、144/1200MHzで2.15dBi、430MHzで3.4dBiの利得が公式諸元である。これは、指向性アンテナと比較して低めだが、全方向性の利便性を考慮すると納得のいく数値といえる。
参考 第一電波工業 https://www.diamond-ant.co.jp/news/23_09.html
3.ディスコーンアンテナ設置の実践ノウハウ
ディスコーンアンテナは全方向性を持つため、設置場所や周囲の障害物による影響を受けやすい。特に、設置高さや周囲の建物・電波ノイズ源などが受信性能に大きく影響しうる。

これらの要因を考慮して、最適な設置場所を選定することが重要といえる。
設置場所の選定
ディスコーンアンテナは、とにかく高いところに置いた方がよく電波を拾う。屋根の上やベランダの外側など、周りをさえぎるものが少ない場所が理想といえる。
ただし、近くに鉄骨やエアコンの室外機といった金属があるとアンテナの特性が崩れてしまう。できるだけ距離を取っての設置がベスト。
また、室内のパソコンやスイッチング電源はノイズの元になるので、それらの環境要因からできるだけ離すのもポイントとなる。
マストと取付方法
市販のディスコーンアンテナは、直径25〜50mmくらいのマストに取り付けられるように作られている。ベランダの柵にクランプで固定するか、屋根の上に「屋根馬(三脚)」を立てて使うのが一般的。
ただし、ディスコーンはエレメントの本数が多くて風の影響を受けやすい。屋外に設置するなら、しっかり固定しておかないと強風で揺れたり倒れたりする危険がある。
仮設の場合は、三脚スタンドにブロックや水タンクを重しとして載せて安定させる方法もよく使われている。
同軸ケーブルの選択
受信用なら 5D-2V や 5D-FB が定番で、ケーブルを長く引き回すなら損失の少ない 8D-FB 以上が推奨される。ケーブルは短いほど信号のロスが少なくなるので、必要以上に長くしない方がいい。
また、屋外で接続するコネクタ部分は要注意。ここをそのままにしておくと、雨水が入り込んであっという間に劣化してしまう。自己融着テープやビニールテープでしっかり防水処理をしておくのが必須。
設置高さと性能
VHF/UHF帯に関しては「見通しの良さ」がカギになる。アンテナの高さをたった1メートル上げるだけで、今まで聞こえなかった遠くの信号が入ることも珍しくない。
理想は屋根より高い位置だが、そこまでできなくても、ベランダの外に出すだけで受信状況が改善する場合がある。室内に置いたままでは本来の性能を十分に発揮できないので、できるだけ屋外に出すのがポイント。安全対策とアース
屋外にアンテナを立てると、どうしても落雷のリスクが出てくる。本格的に運用するなら、同軸ケーブルに避雷器を入れてアース棒に接地しておくのが理想的。
ただし、そこまで難しいことができない場合でも、雷が近づいたらできるだけケーブルを無線機から取り外す対策だけでも効果的。設置や点検をするときは、感電や転落の危険もあるので十分注意して作業したい。
給電インピーダンスとマッチング
理論上、ディスコーンアンテナの放射抵抗は数百Ω程度とされることがあるが、実際の市販品では50Ωに調整されており、標準的な同軸ケーブルで直接接続可能である。特に長距離や特殊条件で最適化する場合はインピーダンスマッチングを行うこともあるが、通常の受信運用では不要である。
1. 入力インピーダンスはおおむね50Ωが正
「ディスコーンアンテナの給電インピーダンスは600Ω」とされることがあるが、実際には無指向性かつ広帯域な構造を持つこのアンテナは、入力インピーダンスがほぼ50Ωで一定になるよう設計されていると、特許資料で明確にされている。これにより一般的な50Ωの同軸ケーブルがそのまま使え、インピーダンスマッチングの手間も不要。
参照元:https://patents.google.com/patent/JP2007043342A/ja
さらに、複数の市販モデル(例えば COMET や ダイヤモンド)の仕様にも同様に 50Ω設計 と明記されている。
2. インピーダンス整合の重要性(受信時も)
アンテナから受信機に信号を伝える際も、インピーダンスが一致していなければ信号損失や反射が起き、受信効率が落ちるため、受信時でも送信時と同じくインピーダンス整合が重要である。
受信上の工夫

最後に実際の受信運用についてだが、ディスコーンアンテナは広帯域で便利な反面、必要ない信号やノイズまで拾ってしまう。そのため、受信機にフィルタ機能やアッテネータがあるなら、それを上手く使って調整すると聞きやすくなる。
同軸線を長く引き回すと信号が弱くなるので、その場合は低雑音増幅器(プリアンプ)を入れる方法もある。また、複数の受信機で同じアンテナを使いたいなら、信号が弱まる分配器よりも、切替器を使った方が効率的の場合もある。
4.結論
ディスコーンアンテナは、広帯域で全方向性の特性を持つため、特定の周波数に依存せず多様な信号を受信するのに適している。しかし、利得が低めであるため、受信環境や設置条件によっては性能が制限されてしまう。そのため、設置場所の選定やインピーダンスマッチングなど、運用時の工夫が求められるだろう。

つまり、特定の用途や周波数帯に特化させたいのなら、ディスコーンアンテナ以外の選択肢も検討することをおすすめしたい。
受信マニアの主観的評価としてまとめると、ディスコーンアンテナは「広帯域で全方向性」を重視した設計のため、利得は低めであるというのは事実であり、これは設計上の必然といえる。
したがって、率直な評価としては汎用性が高いことは事実であり、「オールラウンダー」「万能アンテナ」「聞こえるものはとりあえず全部聞きたい器用貧乏な万能選手アンテナ」と呼べる。これは、特定周波数に限定されず広帯域をカバーできる特性を指しての比喩である。
見た目が少々、風変わりなのでご近所による通報注意。