アマチュア無線をはじめとするさまざまな無線に妨害を与える存在として問題視されているのが「不法無線局」です。
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不法無線局とは何か
不法無線局は、無資格・無免許で無線局を運用したり、電波法に定められたルールを守らずに勝手に電波を発射する悪質な無線局を指します。不法無線局は、アマチュア無線だけでなく、業務無線、さらには救急や防災といった公共の通信にも深刻な影響を及ぼすおそれがあり、社会的にも看過できない問題です。
アマチュア無線を巡っては、「オフバンド」「アンカバー」といった不法局があります。
また、わいせつな通信も禁止されています。
不法無線局を取り締まる総務省総合通信局(総通)とは?
不法無線局の監視・取り締まりを行っているのは、総務省の地方機関である「総合通信局(総通)」です。総通は「電波の番人」として、業務無線やテレビ・ラジオの放送波など、公共の電波が正しく利用されるように監督・管理を行っています。
アマチュア無線家にとっては、無線従事者免許や無線局免許、コールサインを発給してくれる存在として身近であり、なくてはならない行政機関です。
その一方で、不法無線局に対しては取り締まりも行なっています。
総合通信局には警察のような権限はない
ただし、総通には警察のような強制力はありません。職員は司法警察職員ではないため、不法無線局を開設している人物をその場で逮捕したり、直接検察に送致したりする権限は持っていないのです。
総通が行えるのは、調査・監視・行政指導といった範囲に限られます。実際の摘発や刑事事件としての対応は、警察との連携を通じて進められることになります。
同局の職員には司法警察としての権限がないため、現場で無線局を発見しても、その場で逮捕や証拠押収を行うことはできません。したがって、110番通報によって駆け付けた警察官に口頭で犯罪事実を告発し、身柄拘束や証拠品の押収、検察への送致といった処理を警察に委ねる流れとなっています。
このため、総通と警察はしばしば合同で取り締まりを実施します。代表的なのが「電波検問」と呼ばれる取り組みで、道路上の車両などを対象に不法無線局の使用を検査するものです。
また、総通は警察学校へ職員を派遣し、実物の不法無線機を用いて「違法電波の見分け方」を指導するなど、警察との連携強化に努めています。
不法無線局と違法無線局の違い
電波法に違反する無線局には「不法無線局」と「違法無線局」の2種類があります。いずれも電波法違反ですが、その区別は免許の有無です。

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不法無線局:免許を一切取得せず、勝手に無線設備を使用しているケース
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違法無線局:免許はあるものの、電波法の規定に違反した運用を行っているケース

どちらも法的には重い罰則の対象であり、社会的影響の大きさから厳しく取り締まられています。
不法無線局の摘発事例

キャバクラの客引きがアマチュア無線を使って店とやり取りをして逮捕
2015年、東京都内で不法無線局を利用した異例の摘発事例が報じられました。東京・JR新橋駅近くで、キャバクラ店の客引きがアマチュア無線を使って店と連絡を取り合っていたことが発覚し、5人が電波法違反(無許可での無線局開設)容疑で逮捕されました。
アマチュア無線は本来、営利目的での利用が禁じられています。にもかかわらず、同店は繰り返し総務省から警告を受けながら無線の使用を続けており、悪質と判断されました。この事件は「キャバクラ店と客引きがアマチュア無線の不正利用で摘発される」という全国初の事例として注目を集めました。
(参考:TBSニュース http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2506839.html)
海外製無線機と「オフバンド送信」の危険性
「オフバンド送信」とは、本来アマチュア無線局が使用を許されている周波数の範囲を超えて電波を発射する違法行為のことです。この問題に対応するため、アマチュアガイダンス局が注意喚起を行い、利用者への指導を続けています。
日本では1992年以降、アマチュアバンドの利用可能範囲が法律により明確に定められており、利用者はこれを順守する義務があります。
増える海外製格安無線機の問題
近年、インターネット上では5000円以下で購入できる中国製の格安アマチュア無線機、いわゆる「中華ハンディ」が人気を集めています。しかし、これらの機器の一部には日本のアマチュアバンド以外の周波数でも送信可能なものがあり、深刻な問題を引き起こしています。
例えば、144MHz帯のアマチュアバンド周辺には公共機関が使用する周波数帯が存在します。
そこへ誤って電波を飛ばしてしまうと、業務通信に深刻な妨害を及ぼしかねません。実際に、こうした海外製無線機を利用した不正送信が複数回発覚しており、調査のうえで摘発に至った事例も確認されています。また、アメリカの各種無線も日本国内で使用できませんので、注意が必要です。
これらの無線機を利用する者の多くは無資格者とみられ、自らが違法な周波数に送信していることに気づかず、アマチュアバンド内の運用だと誤解しているケースもあります。
もちろん、正規のアマチュア局が実験用途で購入する場合もありますが、その際はアマチュアバンド外で送信できないようソフトウェアを修正し、TSS(保証機関)の認定を受けたうえで、総務省から正式に免許を取得しなければなりません。
初心者にとっては、こうした海外製無線機の購入や利用はトラブルの元となる可能性が高いでしょう。
(参考:警察と総合通信局による合同取締りの様子
http://www.hamlife.jp/2015/06/08/huhou-kyoku-torishimari-2015/2/ )
掲載された写真には、いわゆる「中華ハンディ」と呼ばれる中国製の格安無線機が押収される場面も記録されています。
総合通信局の秘密兵器「DEURAS」とは
「DEURAS(デューラス)」は、総務省総合通信局が運用している電波監視システムで、不法無線局の発信源を迅速に特定できる先進的なシステムです。違法な電波を発していれば、即座に探知される仕組みとなっています。
総務省の公開資料によると、DEURASは固定局での監視に加え、移動監視システムとも連携し、広範囲で効率的に不法電波の所在を突き止めることが可能です。実際に、DEURASを活用した聴取や移動監視によって通信妨害の事例が発見され、摘発につながったケースも報告されています。
(参考:総務省総合通信局公式ページ
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信越総通による「DEURAS」の概念図
http://www.soumu.go.jp/soutsu/kanto/re/jyubou/ -
北海道総通「DEURASによる通信妨害発見事例」
http://www.soumu.go.jp/soutsu/hokkaido/K/huhoudenpawooe.html )
覆面車両による機動的な対応

総務省の不法無線局探知システム「DEURAS」の概念図
(信越総通のWebサイトより引用)
さらに総合通信局では、不法無線局の探索専用に覆面仕様の緊急車両(DEURAS-M)も配備しています。これらの車両はDEURASと連動し、不審な電波を追跡して移動局の位置を割り出し、緊急走行で現場に急行することができます。

総合通信局による不法無線局の取締りの模様(模擬)。独自に配備する緊急車両には電波測定装置が搭載されている。引用元 北海道総合通信局http://www.soumu.go.jp/soutsu/hokkaido/K/huhoudenpawooe.html
こうした最新技術と機動力の組み合わせによって、電波利用環境の健全化が図られているのです。
80条報告
アマチュア無線の資格試験を学んだ人であればおなじみですが、電波法では、規定に違反して運用された無線局を認めた場合、その事実を総務大臣へ報告することが定められています。これが、いわゆる「80条報告」と呼ばれる手続きです。名称は電波法第80条に基づく報告制度に由来しています。
不法無線局の根絶には、総務省や警察の取り締まりだけでなく、開局者一人ひとりが法令を遵守し、自らの責任を果たすことも欠かせません。80条報告はその一環として位置づけられています。
不法無線局の取り締まりのまとめ
無免許でアマチュア無線を使用することは、明確な電波法違反です。悪質なケースでは検察による刑事処分に発展し、懲役刑や数十万円規模の罰金が科される可能性があります。
アマチュア無線は、免許を取得し、正しく運用してこそ楽しめるものです。不法無線局をなくすためには、制度の理解と遵守が求められています。