軍事無線の専門用語や通信手順を体系的にまとめた記事です。軍事通信の理解を深めるために有用です。
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【ミリタリー無線】軍事通信用語集
自衛隊無線
受信マニア界隈でいう“自衛隊無線”とは、自衛隊が運用する各種業務用無線の総称である。陸上自衛隊、航空自衛隊、海上自衛隊それぞれで使用周波数帯や通信内容に特徴がある。
陸上自衛隊(陸自)では、HF帯とVHF帯の航空無線および地上部隊の警備波が主な無線通信である。これらは部隊間の連絡や訓練、作戦行動の指示伝達に用いられている。
航空自衛隊(空自)は、UHF帯の航空無線が中心であり、管制連絡や編隊間通信などが行われる。特に空自基地周辺では、飛行訓練や離着陸管制の通信が受信対象として注目される。
海上自衛隊(海自)は、HF帯およびVHF帯の海上無線を主に使用しており、艦艇間の連絡、航行指示、警戒業務などで活用される。特にHF帯は遠距離通信に適しており、離れた艦艇や基地との交信が可能であるため、受信マニアにとって重要な聞き物である。
現状では、アナログの自衛隊無線を受信すること自体は合法だが、デジタル通信を解読したり、直接的な内容の漏洩は違法となるため、行ってはならない。
了
陸自用語。『了解』の意味。
送れ
陸自用語。『どうぞ』の意味。
Japanese Slot Machine
海外の受信マニアの間でそう呼ばれている短波のデジタル信号で、主に海上自衛隊の無線局から発信されているとされる。特有の信号音がスロットマシンの作動音に似ていることから受信愛好家によって付けられた俗称であり、公式名称ではない。
信号は暗号化されたデジタル通信の形式をとり、その正確な用途や内容は公開されていない。軍事的な運用目的で利用されている可能性が高いと考えられているが、詳細は不明である。
シギント
無線の領域におけるシギント(SIGINT:Signals Intelligence)とは、通信信号や電波信号を傍受・解析し、情報を収集する活動を指すものである。軍事や諜報の分野で発展してきた概念であり、対象となるのは音声通信、データ通信、レーダー信号、ナビゲーション信号など多岐にわたる。
シギントは大きく分けてCOMINT(Communications Intelligence)とELINT(Electronic Intelligence)の二種類に分類される。COMINTは無線通信や有線通信など、人間や機械が行う通信内容を傍受・解析するものである。ELINTはレーダーや対空・対艦センサーなどの電子信号を対象とし、敵の能力や配置、運用状況を把握する目的で活用される。
無線の領域においては、HF帯からマイクロ波帯までの広範な周波数帯を利用し、主に敵性国家の通信やセンサー信号を受信・解析する。受信機やアンテナ、スペクトラム解析装置、ソフトウェア定義無線(SDR)などが用いられ、信号の特性、周波数、変調方式、発信源の位置などを把握することが可能である。
シギントの成果は、戦術的な情報提供や作戦計画の立案、通信妨害や電子戦(EW)の基礎資料として利用される。特に短波や超短波帯の無線通信においては、伝搬環境の変化やフェージングなどの自然現象も解析対象となり、精度の高い情報を得るためには高度な技術と経験が要求されるのである。
123便撃墜説
1985年に発生した123便墜落事故については、さまざまな説が飛び交う中、「123便撃墜説」が無線マニア目線からすれば突っ込みどころしかない代物である理由を以下の記事で考察した。
電波や無線交信の観点から『撃墜説』について、事実と憶測を分けながら解説するものである。
ボールチャンネル
航空自衛隊の各飛行隊詰所には、隊内連絡のための無線機材がある。ボールは訓練空域での飛行訓練の状況把握や、地上と空中との間で行われる訓練・整備に関する調整、航空祭などでは、飛行中の部隊内で科目進行の確認など、隊内連絡に特化した内部調整用の実務的チャンネルとして利用される。その運用は民間航空会社の「カンパニーラジオ」に相当。
GCI
Ground-Controlled Interceptionの略。地上要撃管制。受信趣味の領域では最も人気の高い聞き物の一つだが、これを聴く目的なのにノーマルの歯抜けIC-R6を買ってしまう初心者も多い。自衛隊のUHF帯受信にはIC-R6であれば、「受信改造済み」タイプが必要である。
💡 補足:自衛隊の活動を比較すると、陸上自衛隊は土日を含む演習を行うことがあり、海上自衛隊は24時間体制で警戒を続けている。一方、航空自衛隊は土日には緊急発進を除き訓練飛行を控えることが多い。主な理由は騒音対策とされるが、通信傍受への配慮という見方もある。
GCA
GCA(Ground-Controlled Approach)は、主に自衛隊や米軍で用いられ、航空機が視界不良や夜間などで安全に着陸できるよう、地上の管制官がレーダーや無線を用いて航空機を誘導する着陸管制方式である。
GCA通信を受信する際には、まずUHF帯のミリタリーエアバンドをターゲットにする。周波数帯は国や基地により異なるが、おおむね225〜400MHz帯の範囲に設定されている。
GCA通信の特徴は、管制官が航空機に対して逐次的に高度、方位、進入角度、降下速度などを指示する点にある。受信中は、「左に1度、降下速度5ノット減」「進入角度修正3度」など、細かい誘導指示が連続して流れるため、通信内容を整理する際には録音やログの活用が有効である。
また、GCAは悪天候や視界不良時に運用されることが多いため、昼夜や天候による受信状態の変化にも注意する必要がある。さらに、基地や航空機の運用状況によって通信の頻度や時間帯が変動するため、定期的に観測することでパターンを把握できる。
航空系受信マニアにとって、GCAはGCIと並び、UHF帯ミリタリーエアバンドにおける代表的な聞き物である。自衛隊機の運用の仕組みを理解することが楽しみ方の一つである。
TACネーム
戦闘機パイロットの呼び名。
TACネーム(Tactical Name)は、戦闘機パイロットが無線通信や作戦行動中に用いる呼び名である。正式な姓名ではなく、作戦行動や訓練、戦術運用において識別や指示を迅速化するためのニックネームのようなものである。
TACネームは、パイロット間や管制官との交信で使用され、混乱を避けるために他の乗員や部隊と重複しない名称が選ばれる。たとえば「Maverick」「Iceman」のように短く覚えやすく、発音しやすい名前が好まれる。また、作戦中の無線交信では姓や機体番号を用いるよりも迅速に意思疎通が可能であり、戦術的な有効性が高い。
受信マニアにとっても、TACネームは無線傍受時の聞きどころの一つである。特に戦闘訓練や演習中の無線では、複数機が連携して動くため、TACネームを聞き取ることで編隊の構成や個々の機体の動きが把握しやすくなる。
海外の軍事無線局など
UVB-76(ロシアの軍事無線局)
「UVB-76」とは、ロシアから発信されているとされる短波ラジオ局である。周波数4625kHzにて数十年にわたり断続的に「ブーッ、ブーッ」といった単調なブザー音を発し続けており、その存在は世界中の短波受信家に知られている。通称「ザ・ブザー(The Buzzer)」と呼ばれる所以は、この規則的な音そのものにある。
不可解なのは、その運用目的である。公的な説明は一切なく、軍事通信の一部、あるいは有事の際に備えた指令系統の確認用と推測されているが、確証はない。極めて稀にブザーが途切れ、人の声によるロシア語の暗号メッセージが読み上げられることがある。
この瞬間こそが、受信家たちを震撼させる。平時には機械的に鳴り続ける単調音の裏に、確実に「誰か」が存在し何らかの命令系統が隠されていると実感させるからである。きもっ。
HF-GCS
HF-GCS(High Frequency Global Communications System)は、アメリカ空軍が運用する短波通信ネットワークであり、主に戦略爆撃機や原子力艦隊などの航空機・艦船への指揮・統制を目的とする。アメリカ空軍基地をはじめ、米海軍航空基地、海兵隊航空基地、陸軍飛行場、さらには民間空港内の空軍予備隊や州兵の施設など、世界中の米軍基地と接続されている。
USB(上側帯域)モードであり、受信は容易。
HF-GCSは、アメリカ空軍の戦略爆撃機や原子力艦隊などの航空機・艦船に対して、緊急行動命令(EAM)やスカイキングメッセージ(Skyking)などの指揮・統制通信を行うためのネットワークである。EAMは、核攻撃や緊急事態に対応するための命令であり、通常は30文字程度の暗号化された文字列で構成される。
スカイキングメッセージは、EAMよりも優先度の高い命令であり、EAMを中断してでも伝達されることがある。これらのメッセージは、NATOフォネティックコードを用いて音声で伝達されるが、第三者が解読できるようなものではない。
北朝鮮の乱数放送
北朝鮮の「乱数放送」は、国家の工作員やスパイに向けた暗号通信の一形態であり、特定の書籍のページと位置を指示する数字列を通じてメッセージを伝達する。この方式は、冷戦時代から続く伝統的な手法であり、デジタル通信が主流となった現代においても依然として使用されているとされる。
乱数放送は、特定の周波数帯域で定期的に放送され、数字を組み合わせたコードが読み上げられる。これらの数字は、事前に共有された乱数表を用いて解読され、工作員に対する指令や情報が伝達される。この方式は、通信内容を秘匿するための手段として、長年にわたり使用されてきた。
近年、北朝鮮は2016年に16年ぶりに乱数放送を再開し、韓国に潜伏する工作員への指令を送信したと報じられている。放送内容は、特定の冊子のページと位置を指定する形式で、工作員に対する指示が含まれていたとされる。この再開は、南北間の緊張を高める意図があると分析されている。
乱数放送は、従来のアナログ方式で行われるため、デジタル通信に比べてセキュリティ上のリスクが高いとされる。そのため、近年ではインターネットを利用した暗号化通信手段が主流となりつつあるが、依然として一部の工作活動では乱数放送が使用されている可能性がある。