無線は趣味や業務に欠かせない存在ですが、ときには予期せぬ事件や騒動の舞台にもなります。このページでは、アマチュア無線やその他の無線に関連したトラブルや社会的な問題について取り上げます。電波の不正使用や混信、さらには法令違反に絡む事例など、多岐にわたる出来事を紹介し、その背景や影響も解説します。
無線の世界の明るい面だけでなく、思わぬリスクや社会との関わりにも目を向けたいものです。
✅北海道のアマチュア無線家による詐欺未遂事件
コールサインを堂々と記載!?アマチュア無線家のお粗末すぎる詐欺未遂事件に各方面から失笑と嘆きの声
2019年6月後半、北海道で起きた事件である。きっかけは、あるツイッター投稿だった。
「親が亡くなったばかりなのに、見知らぬ差出人から詐欺まがいの手紙が届いた」
どうやら犯人は、新聞の「お悔やみ欄」から故人の情報を拾い、遺族宛に詐欺文書を送りつけているようだった。
内容は、金銭の支払いを迫る典型的な架空請求だ。しかし、その手口には悪意以上の何かがあった。
喪失のさなかにある遺族の心の隙を、冷酷に突いてくる。投稿は瞬く間に拡散された。
お悔やみ欄を見て連絡をさせて頂きました。
私は荷物などを預かる貸しスペース業を営んでいる者ですが、そちらのご主人が私に預けた荷物があり、お悔やみ欄で亡くなったのを知って中を確認したところ、中身が違法なDVDでした。
違法であるために警察の捜査対象になると思います。
そこでこのDVD をこちらで処分をして、なかったことにするか、当方が警察へ通報し、ご主人の名誉を傷つけることになるか、選んでください。
手紙は続くが、脅し文句がエスカレート。
「今どきこんなことがどれだけ罪重いか」
「警察やマスコミがどんだけ騒ぎ立てるか」
差出人はそんな文言を並べ立てながら、徐々に“提案”をはじめる。
曰く、「DVDは、こっそり処分するのが一番」と。
まるで相手が何か後ろ暗い物を預けていたかのような言い回しで、罪悪感をすり込もうとしてくる。
そして核心はここからだ。
いわく、「貸しスペース」の利用料が14年分で168,000円になるという。
それを払えばすべて忘れてやる、払わなければ警察に通報すると脅す。
それが遺族に向けられた文面だった。
差出人は自らをその貸しスペースの「運営者」と名乗り、実在する銀行口座と名義を記している。
「この手紙が届いてから3日以内に振り込め」──最後にはこう書いてある。
「金振り込んだらDVDは処分する。だけど、振り込まなかったら警察行く」
明らかな脅迫だが、その直後に書き添えられた一文が寒気を誘う。
「これは脅迫ではありません。その点よろしくです。」
──とってつけたような免罪符。誰のための言い訳なのか。
さらに文末には、「本人が亡くなったとはいえ、利用料金は踏み倒さないでください」「よろしくです」と、芝居じみた不気味なまでの軽口で締めくくられていた。
投稿者によれば、この手紙は複数の遺族に送られているという。
そして実際、亡くなった人が“貸しスペース”なるものを利用していた事実は確認されていない。
新聞のお悔やみ欄が犯罪に悪用されるのは、決して新しい話ではない。
だが、それをここまで悪意の形に磨き上げてくる犯人がいたとは。
しかも、手紙には「お問い合わせメールアドレス」「口座情報」など、詐欺犯が簡単に特定されるような情報がいくつか書いとったのだが、その中に気になるものがあったのだ。
速攻で犯人特定された理由
なんと、この手紙の送り主、ご丁寧に銀行口座の振込先と名義人、それにメールアドレスまで自分で書いている。
そして、この事件を決定づけたのがメールアドレスであった。アットマークの前にある6文字。
これはアマチュア無線のコールサイン(呼び出し符号)に他ならない。
「8」というエリアナンバーが示す通り、北海道のアマチュア局に関係するものである。
コールサインとは、電波を発信している無線局が誰であるかを示すために必須の情報であり、無断で好きなコールサインを使うことはできない。
総務省の総合通信局が、一人ひとりに独自のコールサインを割り当てる仕組みだから、他の誰かと被ることはあり得ないのだ。
もちろん、単なる偶然でコールサインのような文字列になった可能性も考えられる。
だが、それにしても、これが実際に北海道内で登録されているコールサインかどうか、調べてみる価値はあった。
そして、調査の結果が出た。
総務省の「無線局免許状等情報」に照らし合わせてみたところ、驚くべきことに、確かに「JR8MYK」というコールサインは実在していたのだ。

総務省の「無線局免許状等情報」によると、警察や消防などの重要な無線局を除く、アマチュア無線局に関する情報は公開データベースで広く一般に公開されている。
これにより、コールサインや無線機が設置されている場所(市町村名)、許可されている周波数や電波出力が確認できる。しかし、個人名や住所といったプライベートな情報は一切掲載されていない。
ただし、無線機の常置場所については、道東の佐呂間町であることが判明している。
一方、海外のアマチュア無線関連サイト「qrz.com」によると、『JR8MYK』というコールサインが、Mという人物の名前と佐呂間町という住所で登録されていることが確認できた。
これらの情報は、誰でもアクセスできる公開データであり、アマチュア無線の愛好者が名前や住所を公開する理由は、交信の証明としてQSLカードを交換する習慣があるからだ。つまり、無線を通じて交信した証として、お互いの名前や住所をどこかで公開する必要がある。
そのため、「qrz.com」のようなサイトが存在するのだ。
さらに、日本のアマチュア無線家は「JARL」という自主組織に加入していることが多く、「JARL会員局名録」という名簿にも、会員のコールサインや名前、住所が掲載されている。この名簿も、QSLカード交換を行うために必要な情報を確認するために利用されている。
ただし、qrz.comに登録するためには証明書類やコールサインが記載された書類を提出する必要はないため、確定的な証拠とは言えない。
しかし、確率としては『JR8MYK』がM氏である可能性が非常に高いと言えるだろう。
『JR8MYK』M氏が何者かにはめられている可能性も
確かに、詐欺を企む者が自分の口座情報やメールアドレスをわざわざ使うとは考えにくい。
ましてや、アマチュア無線家であれば、コールサインを通じて自分の氏名や住所が簡単に特定されることを理解しているはずだ。
こうしたリスクを冒してまで詐欺を行うとは考えにくいだろう。
となると、M氏が何者かに悪用されている可能性も浮かび上がってくる。
もし、彼の口座情報やメールアドレスが詐欺に使われているのであれば、誰かがその情報を悪意を持って利用しているということになる。
もう一つ考えられるのは、M氏に対する嫌がらせの一環としてこの詐欺まがいの手紙が送られている可能性だ。
ツイッターでも複数の人々が指摘しているように、金銭を騙し取る目的ではなく、単にM氏の情報を悪用して嫌がらせを行っているのではないかという見方もできる。
この疑念が解明されるまで、M氏の関与の有無は不明だが、状況が進展すれば明らかになるだろう
7月5日、犯人逮捕へ。被疑者はM氏本人だった
ついに真相が明らかに。
羽鳥慎一モーニングショーやどさんこワイドでも取り上げられ、警察が動き出すタイミングを作ったようだ。この犯人逃げられなくなってしまったようである。
佐呂間町まで足を運んだ取材陣の対応に出たのは、あの人物の母親であった。「口座名義人は息子です」と答える。
一方、犯人の知人は「(本人が)自分はまったく知らない。迷惑している」と語っており、周囲も今回の事件に対して大きな戸惑いと不安を抱いていたようである。
玄関に貼られていたアマチュア無線の愛好者である証JARLの会員証もまた注目を集めた。本来であれば誇るべき趣味の印が最悪の形で注目された。
その後、50代の容疑者本人が詐欺未遂の疑いで逮捕されたことで、100通もの手紙を送っていたという事実も明らかになり、事の重大さが一層浮き彫りになった。
ただし、幸いなことに被害者は出なかったという点は、唯一の救いである。とはいえ、あの手紙に書かれていた内容には脅迫的な要素も含まれており、手口の姑息さも含めて、到底看過できるものではない。
アマチュア無線家としての信頼・誠実さを卑劣な詐欺行為によって根底から裏切る、前代未聞の事件である。
✅北海道庁職員勤務中CQ事件
北海道庁には76年の道庁ロビー爆破事件と並ぶ凄惨な事件史がある。北海道庁本庁舎(札幌市中央区)に勤務する職員らが、勤務時間中にアマチュア無線を運用していたという前代未聞の事件である。
1985年5月28日付の読売新聞によれば、問題の行為は総務部通信管理室(道庁12階)で行われていたもので、職員らは私物のアマチュア無線機を持ち込み、庁舎屋上に設置された防災行政無線用アンテナの以前に設置されていた短波用アンテナを流用し、アマチュア無線を運用していたという。
記事によれば、職員らは「北海道庁アマチュア無線クラブ(会員数25人)」に所属し、約1年間でおよそ500回にわたり本州や海外のアマチュア局と交信を重ねていた。
記事では運用ログの一部も公開され、午前中から長時間にわたって無線交信を続けていた実態が指摘された。職員らは非常通信の訓練などではなく、単に純粋な「娯楽目的」で運用していたと見られる。さらに、同じ職場内では業者が持ち込んだパソコンでゲームをプレイしていた事実も確認され、これらの不祥事で職員らは懲戒処分を受けている。
💡 補足:なお、クラブが交信相手に送付していたQSLカードは、赤レンガ庁舎の写真をあしらった特注品である。
✅警察無線録音テープ販売事件
2002年、東京都内に住む30代の男性が、警察無線の内容を録音しメディアに収録したうえでインターネットで販売していたとして、電波法違反(秘密漏洩)の疑いで警視庁に逮捕された事案が報じられている。
調べによれば、男性は市販の受信機を用いて警察専用周波数の通信を傍受し、その交信内容をカセットテープやMD、CD-Rなどに保存して販売していたとされる。価格は1本あたり数千円程度だったという。
ここで注意すべきは、現在はデジタル警察無線の解読は不法行為だが、当時の警察無線の傍受そのものは規制されていないという点である。しかし、当時でも傍受した内容を第三者に伝達したり、公表・販売したりすることは「秘密の漏洩」にあたり、電波法によって禁止されている。今回の検挙理由もまさにこの「漏洩」に該当する行為であった。