はじめに
無線通信を理解するには、無線工学や信号処理の基本を押さえたいもの。送受信機の仕組み、変調や復調の方式、雑音を抑えるためのフィルタリング、さらにはデジタル信号処理など、無線には多くの技術が関わっています。本記事では、無線工学と信号処理に関連する用語を整理し、無線趣味や学習に役立つ基礎知識を解説します。
気になる用語から各種記事にリンクで飛べますので、知識を広げながら無線ライフをより楽しんでください。
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✅無線工学・信号処理
秘話コード
主にデジ簡、報道連絡波で使われる簡易なスクランブル技術。完全な暗号化ではないため、アルインコ DJ-X100 で簡単に秘話を解いて受信が可能。報道連絡波では、系列局で同じコードが使われる場合が多い。
トーンスケルチ
混信防止のためのスケルチ制御の仕組み。CTCSS(「Continuous Tone-Coded Squelch System(連続トーン符号化スケルチシステム)」の略称)によるスケルチ制御。多くの受信機には「トーンスケルチ」や「DCS(デジタルコードスケルチ)」といった機能が搭載されている。
これらは、特定のサブオーディオ信号が含まれる時だけ音声を出す。単純に言えば「電波を受信しているにもかかわらず、特定の条件に合致しなければ音を出さない」という仕組みである。表面的には音声を遮断しているだけなのだが、実際にはグループ通信を円滑に行うための重要な仕組みなのだ。
たとえば、同じ周波数を異なる会社が偶然利用していた場合を考えてみよう。A社が業務連絡をしている最中に、近くでB社が交信を開始すれば、本来ならA社の受信機にもB社の声がそのまま混ざってしまうはずだ。しかし、トーンスケルチを設定しておけば、A社側は自分たちのグループに割り当てたコードに合致する信号しか音声として出さないため、B社の会話は「存在しないかのように」静かに無視される。
💡 補足:この仕組みにより、同じ周波数帯を複数のグループが共用していても、不要な混信をある程度避けられるわけである。レピーターアクセスや混信防止に必須。
逆トーン
トーンスケルチは、送信側が特定の低周波トーン(例:67.0Hzや88.5Hzなど)を音声に重畳し、受信側がそのトーンを検知したときだけスケルチを開く仕組み。
逆トーンはこれを「逆手」に取った方式で、トーンを検知したときにスケルチを閉じる(音が出ない) という動作になる。つまり「指定されたトーンが含まれていない信号だけを通す」仕組みである。逆トーンの仕組みを理解していないと「何も聞こえない壊れた受信機と誰も使ってない周波数」と勘違いされがちである。
DCS
デジタルコードスケルチ。CTCSSのデジタル版。音声ではなくビット信号で制御。業務無線や新型アマチュア機で使用。
PLトーン
Private Line Tone。モトローラ社の商標的呼び名で、CTCSSのこと。アナログFMで使われる。
セルコール
航空機に送られる識別音信号。HF帯や洋上管制などで使用される「ピーピー音」による自動選択呼出。IC-R6ではSSB非対応のため、音だけ聞こえる。
💡 補足:セルコールは警察無線でも重要指令の前に注意喚起と個別の所轄を呼び出す目的で使われていた。
空線信号
列車無線で使用される連続送信方式。通常の無線は送信時にのみ電波を発射するが、列車無線など一部の重要無線では、「現在は通話していないが、回線は正常で通信可能な状態にある」ことを知らせるため、基地局側から常に“耳障りな空線信号”として一定のトーン信号やデジタル信号を送出している。
スケルチテール
送信終了時のノイズ尾。キャリアが切れた直後に出るノイズ。レピーターやモービル機で独特のクセがある。無変調、バレてないと思ってる?
搬送波
変調の土台となる存在で、音声やデジタル信号をその周波数に乗せることで遠くまで伝えることが可能になる。AMやFMなど、どの変調方式でも必ず必要な要素であり、受信機はこの搬送波を検出して元の情報を復元(復調)する。
抑圧波
SSBでカットされる搬送波。SSB方式では搬送波を抑圧して送信することで、効率的に遠距離通信を可能にしている。
インピーダンス
電気信号が回路やアンテナを通るときの「流れやすさ・流れにくさ」を表す指標で、抵抗と同じようにオームで表されるが、交流や高周波では位相の要素も絡むため単なる抵抗値とは違う。
無線の世界ではアンテナと無線機のインピーダンスをできるだけ整合させることが重要で、一般的に50Ωが基準とされており、これが合っていないとせっかくの電波が反射してしまい「飛ばない・聞こえない」という悲しい結果になる。
同期検波
搬送波に同期して復調すること。通常のAM受信機では「包絡線検波」と呼ばれる簡易的な方法が用いられるが、これは搬送波が弱いと雑音に弱く、フェージング(電波の強弱変動)があると音質が悪化する。
同期検波では、受信信号から搬送波成分を取り出し、それに同期した基準波を作り直して復調を行うため、フェージングやひずみに強く、弱い電波でも安定して明瞭な音声が得られる利点がある。そのため高級BCL受信機や短波放送の安定受信に利用されることが多い。
AF(Audio Frequency)フィルター
受信機・無線機のオーディオ段で特定の音域を強調・抑制し、音声周波数帯域の信号を処理するフィルターを指す。音声帯域の中で不要な周波数成分を除去することで、聞きやすくするためのもの。
たとえばハイカット(高音域を落とす)やローカット(低音域を落とす)が代表例。無線機の内部では高周波(RF)や中間周波(IF)の段階で不要な信号を落とすフィルターが使われるが、AFフィルターはその後の「音声帯域」に作用する。
マーカー発振器
周波数目盛りを較正するための発振器。無線受信機や通信機器の周波数目盛りやチューニング精度を確認するための信号源を発する調整機器である。一定の既知周波数でパルス信号や連続波を送出し、受信機に入力することで、周波数表示の誤差や安定性を簡単にチェックできる。航空無線や固定通信の受信機整備、実験、測定用途に用いられ、周波数管理や受信精度の確認に欠かせない。
AGC
Automatic Gain Controlの略。受信入力レベルを自動で制御する機能。
✅無線機器の調整・試験
試験電波
航空局や鉄道無線などが、機器点検などのために出す定常信号。時報的な性格もある。
レディオチェック
通話確認のために相手局に声をかける際の慣用表現。「Radio check, how copy?」