自衛隊のパイロットが使うTACネームとコールサインの違い

アマチュア無線局に呼出符号(コールサイン)が割り当てられているように、軍用機や自衛隊機にも機体ごとの固有の呼出符号が存在します。

さらに、航空自衛隊のパイロットには、「TACネーム(タックネーム)」と「コールサイン」という二種類の呼称があり、それぞれ異なる場面で使用されます。

いずれもパイロットを識別する名称であることに違いはありませんが、その使われ方や意味合いには違いがあります。今回は、その違いについて詳しく解説いたします。


呼出符号(コールサイン)とは

「コールサイン」とは、飛行中の無線交信などで用いられる識別名のことです。これはパイロット個人を指すものではなく、部隊や航空機単位で使用されます。また、任務内容に応じて呼出符号が変更されることもあります。

多くの国では、軍用機が飛行隊ごとに固有の呼出符号を使用しています。日本の自衛隊においても同様です。たとえば、航空自衛隊第4航空団第11飛行隊は、愛称である「ブルーインパルス(Blue Impulse)」をそのままコールサインとして使用しています。

また、海上自衛隊の初等操縦訓練を担当する第201教育航空隊では、「ルーキーフライト(rookie flight)」という名称をコールサインに使用しています。

一方、陸上自衛隊では、飛行隊の区別にかかわらず、同一機種であれば全国共通のコールサインが使用されるのが基本です。

なお、コールサインはその日の作戦内容に応じて柔軟に変更されることもあります。たとえば、医療搬送を行う任務では、緊急医療を示す特別なサインが付加されることがあります。また、編隊飛行の際には、部隊のニックネームや出身地に由来するコールサインが使われるケースも見られます。

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航空自衛隊および海上自衛隊においては、所属する航空団や飛行隊ごとのコールサインに加えて、個別の機体番号を付加したコールサインを使用しています。

コールサイン 海上自衛隊

コールサインについては海上自衛隊公式サイトにて公表されているものを出典を明記した上で引用。 https://www.mod.go.jp/msdf/22aw/introduction/22fs/02_gaiyou.html

 

海上自衛隊第22航空隊の公式ウェブサイトによれば、同隊ではSH/UH-60系のヘリコプターに対して、「ワイバーン」および「スカイラーク」というコールサインの使用を公表しています。また、第203教育航空隊では、P-3C型航空機を用いて操縦士および航空士の教育訓練を行っており、同部隊のコールサインとして「アトラス」が用いられていることが明らかになっています。

広帯域受信機を使用することで、これらの航空無線の内容を傍受し、各部隊の運用や呼出符号の使い方を実際に学ぶことが可能です。

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TACネームとは

一方、部隊または機体単位で使用されるコールサインとは異なり、「TACネーム(Tactical Name)」はパイロット個人を指す呼称です。これは部隊内や同僚同士で使用される非公式な名称であり、基本的にパイロット個人に専属するニックネームのような役割を果たします。

アメリカ映画『トップガン』に登場する「マーヴェリック」や「アイスマン」などが典型的な例であり、同様の運用が航空自衛隊にも存在します。航空自衛隊においては、アメリカ空軍に準じた形でTACネームが使用されており、主に戦闘機パイロットの間で用いられています。

ただし、TACネームは航空自衛隊の中でも戦闘機パイロットに限定されており、輸送機やヘリコプターのパイロットには適用されません。陸上自衛隊および海上自衛隊では、TACネームの制度自体が存在しないのが実情です。

パイロットのTACネームは、航空自衛隊の公式サイトや航空専門誌などで確認できる場合があり、戦闘機の機体横やヘルメットに記載されることもあります。たとえば、曲技操縦士として著名だった故・岩崎貞二氏の「ロック」という呼び名は、空自時代に付けられたTACネームに由来します。

TACネームが戦闘機部隊で用いられる背景には、以下のような理由が考えられます。

  • 戦闘機は一人乗りが多く、個々のパイロットの識別が必要

  • パイロット同士の連携強化の必要性

  • 同姓の隊員がいる場合、姓のみの呼称では混乱が生じやすい

  • 航空無線が外部から傍受され得るため、実名の使用にはリスクがある

そのため、戦闘中の交信では、部隊や機種に応じたコールサインを使用し、戦術訓練などではTACネームによる呼称が採用されるのが一般的です。

TACネームは着任した部隊で先輩パイロットや教官から命名されるのが慣例

TACネームは通常、着任した部隊において、上官または先輩パイロットや教官が命名する慣例となっています。この点については、防衛省愛知地方協力本部の資料等でも言及されています。

名前の由来には、本人の性格的特徴や過去のエピソード、あるいは訓練中の出来事などが影響することが多く、TACネームは一種の部隊文化とも言える存在です。

航空自衛隊の戦闘機パイロットがもつ個人の愛称、ニックネームのことです。訓練や任務で戦闘機パイロット同士が講話する場合などは、このタックネームで呼び合います。着任した部隊で先輩パイロットから命名されるのが慣例のようです。

典拠元 https://www.mod.go.jp/pco/aichi/j_recruit_oshiete_pilot.html

あまりにふざけすぎた、あるいは意味不明なTACネームを名乗ろうとすると、基地司令など上層部から正式に「却下」されることもあるそうです。

実際のTACネームの事例として、F-2戦闘機に搭乗する航空自衛隊の女性パイロットに与えられた「シャロン」というTACネームがあります。本人によると、好きなアニメのキャラクターにちなんで名付けられたとのことです。

一方、TACネームの命名に物語性を持たせた事例として知られるのが、1990年公開の映画『BEST GUY』です。この作品は、航空自衛隊千歳基地の第二航空団を舞台にF-15パイロットたちを描いたもので、当時の自衛隊が広報目的で制作に協力したという点でも特筆に値します。

この映画では、主人公・梶谷二尉(織田裕二)が最初はよそ者扱いされつつも、教官である吉永三佐(故・古尾谷雅人)からTACネーム「GOKU(ゴクウ)」を命名されるシーンがあります。

命名の理由は、「第5航空団から第2航空団に来たから(=ゴクウ)」というダジャレ的なものでしたが、このTACネームの授与によって梶谷は仲間として正式に迎え入れられる演出があり、部隊文化におけるTACネームの重みを象徴する名場面となっています。

『BEST GUY』は、自衛隊協力の下、実際の千歳基地やF-15イーグル戦闘機を用いたリアルな映像が多数盛り込まれ、ドッグファイトやダート射撃訓練など迫力あるシーンが展開されます。バブル時代の雰囲気を反映した作品であり、同時に「日本版トップガン」とも言える異色作です。

ラストでは、主人公が救難用大型ヘリ「CH-47バートル」を用いて恋人を迎えに行くという民生協力を口実にした“私的な”行動が描かれており、広報映画らしからぬ大胆な展開にも注目が集まりました。

📡 TACネームとコールサインの決定的な違い!

したがって、TACネームとコールサインの違いは以下の様になります。

TACネーム(タックネーム) コールサイン
ざっくり言うと パイロット個人のあだ名 機体の識別名称
使う場面 戦闘機が僚機と戦術交信 航空管制との交信
決め方 先輩からの命名が多い 機体の種類・部隊・ミッションごとに割り当て
「ロック」「シャロン」「ゴクウ」 「ワイバーン01」「アトラス03」「スカイラーク07」

まとめ

TACネームは単なる通称ではなく、部隊内の信頼関係や伝統、空自独自の文化を象徴する重要な要素です。勝手に名乗るのではなく、命名され、承認されたTACネームこそがパイロットとしての「受け入れ証」とも言えるでしょう。

奇抜すぎれば却下され、逆に絶妙なセンスで命名されれば、それが部隊内での立ち位置や絆の象徴にもなり得る――TACネームとは、まさに空の戦士たちの“もうひとつの名前”なのです。

もし、あなたが航空自衛隊のパイロットになったとしたら……
果たして、どんなTACネームが与えられるのでしょうか?

訓練での出来事や、性格、趣味、あるいは第一印象で――
どんな名前が先輩たちの口から飛び出してくるのか、想像してみるのも面白いかもしれません。

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