2002年に摘発された『警察無線録音テープ販売事件』で警察さんが激怒した理由

現代の警察無線は受信できない?——昔話として語られる「警察無線傍受」

現行の警察無線は、デジタル方式かつ高い秘匿性を備えた通信システムが採用されており、もはや一般人が技術的に受信(≒復調)することは不可能です。

それでは、「警察無線を受信した」といった話題は一体いつの時代の話なのでしょうか? それはまだアナログ通信が主流だった時代、そしてデジタル暗号が突破された初期のデジタル警察無線「MPR-100」のことです。

電波法の原則:聴いても、しゃべってはいけない

そもそも、無線通信の内容をぺらくちゃ勝手に漏らすことは、日本の法律で禁じられています。これは警察無線に限らず、アマチュア無線を除く業務用無線全般に適用される「電波法」による原則です。

通信内容を知り得たとしても、それを他人に話すことは法律違反なのだから、それを録音して売買するなどもってのほかです。

当サイトでは過去に、ラジオライフ1982年11月号の特集『電波法はキミのもの!!—警察無線の傍受は処罰されない—』を紹介したことがあります。

【朗報】かつてのドラマや映画に登場した警察無線、本物の可能性

その中で引用された瀬戸英雄弁護士の見解によれば、「実際の警察無線であっても、ドラマなどで使用すること自体には問題がない」とのこと。ただし、その前提として「誰が、どのような状況で発信した無線か特定できない状態」である必要があります。

実際に起きた「録音販売」の事件も

そうした法を無視して、過去には警察無線の交信内容を録音し、高額で売買していた例も存在します。

1980年代には、たとえばラジオライフ1986年2月号にて、警察無線の録音テープが1本10万円で売買されていたという記述があります。さらに、2002年には、警視庁の通信を録音したテープを個人販売していた男が実際に摘発された事件もありました。こうした事例は、無線傍受の違法性が現実問題として取り締まられていることを示すものです。

デジタル化以前の警察無線音源販売――録音を売っていた男の実態

アナログ警察無線が使用されていた時代、実際に傍受した交信を録音し、それを販売していた人物がいました。

この男は、自身のウェブサイト上で、基幹系・高速系・署活系といった警察無線の録音音源を宣伝し、「録音テープ・CDリスト」として公開していました。また、同様の音源を持つ人との交換にも応じていたようです。


警察無線の交信内容テープを販売した男が逮捕 秘密を漏らしちゃダメ

警視庁は23日、警察無線を傍受してカセットテープやMD、CD-Rなどに収録し、インターネット上で販売していたとして、東京都大田区に在住する30歳代の男を電波法違反(秘密漏洩)の疑いで逮捕したことを明らかにした。

警視庁は23日、警察無線を傍受してカセットテープやMD、CD-Rなどに収録し、インターネット上で販売していたとして、東京都大田区に在住する30歳代の男を電波法違反(秘密漏洩)の疑いで逮捕したことを明らかにした。

警察の調べによると、この男はいわゆる無線マニアで、警察用として使われている周波数帯をキャッチできる受信機を使い、傍受した交信内容を収録したテープなどを1本2000円から5000円程度で販売していた疑いが持たれている。

中略

こうした業務用無線の交信内容を傍受すること自体に規制は無いのだが、それを第三者に伝える行為は禁止されている。今回の検挙理由も「秘密を漏洩したこと」となっている。

出典 https://response.jp/article/2002/05/24/17124.html

ウェブアーカイブに残るそのサイトの記録を見ると、音源の多くは1980年代から1990年代にかけての警視庁の基幹系や高速系の交信で構成されており、なかには1996年のビル・クリントン米大統領来日時の警備に関する、きわどい内容の交信も含まれていたようです。

ただし、この時点ではすでに警察無線の基幹系はデジタル化されており、傍受されたのは、機動隊が使用していた「部隊活動系」の無線であったと考えられます。この部隊活動系は当時もアナログ運用が残っていたため、傍受が可能だったと思われます。

現在では、こうした部隊活動系を含め、すべての警察無線はデジタル化されており、傍受は技術的に不可能です。


部隊活動系とは

「部隊活動系」とは、機動隊が大規模な警備活動や災害時の救助活動などで使用する通信系のことで、「携帯通信系」や「隊内系」とも呼ばれています。たとえば、サミットのような国家レベルの大規模行事では、全国から警備部所属の機動隊が集結し、会場警備、交通整理、部隊間の連絡などのために使用されます。

運用方法は署活系に似ていますが、特徴的なのは「UW」と呼ばれる可搬式の大型無線機を背中に背負って使用する点です。また、車載通信系や署活系とは異なり、無線中継所を介さず、無線機同士が直接通信を行うという運用も特徴のひとつです。

携帯型無線機は狭い範囲をカバーすることを目的としており、出力は1Wです。アナログ時代には142~162MHzの周波数帯に25波が割り当てられており、現在のデジタル化後も162MHz帯が使用されています。交信中に「小隊長」などの用語が出てくるのも、この通信系ならではの特徴です。

また、大阪府警などがこの部隊活動系無線を駐車取締り用に転用していた事例も、まれに存在していました。

部隊活動系は、基幹系がデジタル化された後もしばらくは傍受が可能だった最後の警察無線といえる存在でした。


「もう二度と聴けない音源」として販売

前述の男は、こうした過去の警察無線音源について、「デジタル化により二度と聴けない貴重な警察無線です」といった宣伝文句を用い、音楽CDやMP3ファイルに変換した上で1枚2000円で販売していました。

この件は2002年に摘発された事例ですが、比較的近年の2019年にも、警察無線の交信内容をインターネット上に漏洩させた人物が、電波法違反(無線通信の秘密漏えい)の疑いで書類送検されています。

この2019年の事件では、情報を傍受・録音した人物が一般人ではなく、現職の警察官であったという点が過去の事例とは決定的に異なります。すなわち、内部からの情報流出というわけです。

繰り返しになりますが、現在の警察無線は市販の受信機で部外者が内容を知ることは技術的に不可能です。極めて高度なデジタル変調方式と暗号化が施されており、内容の解読は事実上不可能となっています。

すなわち、流出したとすれば、大元は警察関係者。2019年の事件に関しては「ラジオライフ」誌編集部員の関口岳彦氏が以下のように産経新聞のインタビューに答えています。

無線に詳しい「ラジオライフ」誌編集部員の関口岳彦さんは「電波法を十分に理解せず、安易な考えで販売や公開を行っているケースが散見される。ネットでの出品や動画投稿の普及が悪い形で背中を押している」と指摘する。

出典 産経新聞 相次ぐ無線音声のネット公開 電波法への意識低くhttps://www.sankei.com/affairs/news/190823/afr1908230026-n1.html

すでに日本では警察無線の傍受など遠い遠い過去の話であり、一抹の寂しさも覚えます。

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まとめ

かつては「無線機で警察の通信を聴ける」と話題になった時代もありましたが、現在は技術の進化と法整備の結果、もはや“昔話”の領域です。

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