ロシアには、短波受信家の間で「The Buzzer(ザ・ブザー)」の愛称で知られる謎の無線局があります。
一般には「UVB-76」と呼ばれていますが、実際には運用期間によって複数のコールサインが確認されています。
この無線局は主に4625kHzで運用されており、24時間体制で断続的なブザー音を送信し続けています。
少なくとも1980年代初頭には存在していたことが確認されており、ソ連時代から現在に至るまで運用が継続されています。 (HF Underground)
送信所の移転と現状
かつて送信所はモスクワ北西部のポヴァロヴォ付近にある軍施設から発信されていると考えられていましたが、2010年頃に運用拠点が移転したとみられています。
現在はモスクワ州ナロ=フォミンスク周辺の軍通信施設との関連が指摘されています。 (HF Underground)

画像の出典Google マップ
普段は単調なブザー音が流れているだけですが、時折それが中断され、ロシア語による音声メッセージが送信されることがあります。
内容はコールサインや人名、数字列、コードワードなどで構成されており、その意味は公表されていません。
そのため、冷戦時代の「ナンバーステーション(乱数放送局)」との関連を指摘する声もあります。
しかし現在では、ロシア軍の通信網の一部として周波数を常時確保するための「チャンネルマーカー」であるとの見方が有力です。
ただし、ロシア政府や軍当局が公式に用途を説明したことはなく、その正体はいまなお謎に包まれています。 (Number Stations Research)

UVB-76の謎と陰謀論
ロシア政府も詳細を語らない謎の無線局
一般に受信家の間で知られているのは4625kHzです。
ロシアの短波無線局「UVB-76(The Buzzer)」については、ロシア軍との関係が長年指摘されてきました。実際、ロシアの政府関係者は、その存在自体を否定していません。
しかし、その具体的な任務や運用目的については公式に明らかにされておらず、多くの謎に包まれています。(Парламентская газета)
そのため、短波受信家や軍事研究家の間ではさまざまな説が語られています。
ひとつは、4625kHzの電波を利用した電離層観測や電波伝搬研究に関係しているという説です。
ただし、音声メッセージの存在を十分に説明できないため、有力説とはみなされていません。
また、「モスクワが核攻撃を受けていないことを遠隔地の部隊へ知らせるための監視信号」という説もあります。
この説が語られる背景には、ロシアが核戦力向けの指揮統制システムを保有していることがあります。
特に「カズベク(Kazbek)」や、自動核報復システムとして知られる「ペリメートル(Perimeter)」の存在は、西側の研究者や軍事アナリストによって長年研究されており、存在が確実されています。
一部の研究者は、UVB-76のような常時送信局が、指揮統制ネットワークの監視や通信維持に関係している可能性を指摘しています。
仮にロシア本国に大規模な攻撃があり、重要な通信回線が途絶えた場合、それ自体が異常事態を示す兆候として利用される可能性も考えられます。
もっとも、UVB-76そのものが核報復システムの中核を担っていることを示す証拠は確認されていません。
一般に核戦力の指揮統制システムは、通信回線だけでなく、早期警戒レーダー、人工衛星、各種センサー網など複数の情報源を組み合わせて運用されると考えられています。
そのため、単一の短波局だけで国家の核報復システム全体を支えているとは考えにくいでしょう。
現時点では、UVB-76とロシアの核指揮統制システムとの関係は確認されておらず、あくまで有力な仮説の一つとして扱うのが適切です。
より現実的な見方としては、ロシア軍の短波通信網の一部であり、必要に応じて暗号化された指令や連絡を送るためのシステムだとする説があります。
軍通信に使用される「チャンネルマーカー(周波数占有信号)」としてブザー音を流し、必要なときだけ音声メッセージを送信する方式です。
現在はこの説が比較的有力視されています。
さらに、「重要な周波数を常時占有し、他局による利用や混信を防ぐための運用」という見方もあります。
実際、無線通信の世界では周波数を継続的に使用することで運用権を維持する考え方が存在し、UVB-76のブザー音もその一環ではないかと考えられています。
このようにUVB-76の目的には複数の推測がありますが、いずれの説も決定的な証拠はなく、2026年現在でもその本当の目的は公表されていません。
そのため、冷戦時代から続く「世界で最も有名な謎の短波局」のひとつとして、多くの受信家を惹きつけ続けています。
ライブ配信では、実際にUVB-76のブザー音を受信することができます。
不気味な単調音が延々と続きますが、ときおり音声メッセージが流れることもあります。
UVB-76の放送内容
では、この「UVB-76」は実際にどのような電波を発信しているのでしょうか。
① ブザー音
UVB-76最大の特徴が、四六時中流れ続ける独特のブザー音です。
主に4625kHzで送信されており、短いブザー音が一定間隔で繰り返されます。
この単調な音から、海外の短波受信家の間では「The Buzzer(ザ・ブザー)」という愛称で呼ばれています。(ウィキペディア)
なぜブザー音を流し続けているのかは不明ですが、有力な説の一つが「チャンネルマーカー」です。
これは軍用通信などで使用される手法で、重要な周波数を常時占有し、必要な時だけ本来の通信を行うためのものと考えられています。
② 音声メッセージ
UVB-76では、ときおりブザー音が中断され、ロシア語による音声メッセージが送信されます。
内容はコールサイン、数字列、人名らしき単語、意味不明なコードワードなどさまざまです。
過去には「アグロノーム(農学者)が門を出る」といった、一見意味の分からないフレーズが送信されたこともあります。(RBC)
これらのメッセージの意味は公表されておらず、受信家による観測記録が続けられています。
③ ナンバーステーションなのか?
音声メッセージの形式が、冷戦時代にスパイ向け通信として知られた「ナンバーステーション」を連想させるため、UVB-76も同種の局ではないかという説があります。
ただし、現在のところそれを裏付ける証拠はなく、むしろ軍の通信網や通信回線監視システムの一部ではないかという見方もあります。用途については現在も確定していません。
2024年、ロシア政府関係者が言及
2024年12月18日、ロシア連邦議会下院国防委員会委員長のAndrey Kartapolovは、ロシア紙「Parlamentskaya Gazeta」の取材に対し、UVB-76には「独自の重要な任務がある」と説明しました。
一方で、インターネット上で広く語られてきた「核報復システム『ペリメートル(デッドハンド)』の一部ではないか」という説については明確に否定しています。
また、頻繁に流れた音声メッセージについても「動作確認のための試験だった」と説明しました。
もっとも、具体的にどのような任務を担っているのかについては説明されておらず、依然としてその実態は不明です。
無線フーリガンによる『うまぴょい伝説』事件
2022年には、何者かによる妨害電波や電波ジャックとみられる事案が相次いで確認されました。
短波の世界では、意図的に他局へ混信を与えたり、音楽や音声を重ねて流したりする迷惑行為を「ラジオフーリガン(Radio Hooligan)」と呼ぶことがあります。
2022年1月頃、UVB-76が使用する4625kHz付近では、本来のブザー音に代わってさまざまな音楽や画像信号が確認されました。
海外メディアの報道によると、K-POPの『江南スタイル(Gangnam Style)』やインターネットミームに関連する楽曲などが流されたとされています。
これらは第三者による妨害行為とみられています。
日本の無線ファンの間では、その後『うまぴょい伝説』や『君が代』が流れたとの報告も話題になりました。
ただし、誰が送信したのか、どの国から行われたのか、また実際にUVB-76の送信設備そのものが乗っ取られたのか、それとも同じ周波数に強力な電波を被せただけなのかは明らかになっていません。
重要なのは、「ロシア軍の送信所がハッキングされた」と断定できる証拠は確認されていないことです。
短波通信では、相手の送信設備を直接乗っ取らなくても、同じ周波数に十分強い電波を発射することで受信者側には放送が置き換わったように聞こえる場合があります。
そのため、実際には「電波ジャック」というより「妨害電波による混信」の可能性も考えられます。
ロシア暗号放送が電波ジャックされ、江南(カンナム)スタイルを奏でる
一連の不可思議な放送内容は話題を呼んだが、暗号放送局がなにか特異なメッセージを発信しようとしていた可能性は低いようだ。第三者が興味本位で電波ジャックしたものとみられている。放送は現在復旧し、再び単調なブザー音を送り出している。
引用元https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/02/post-98001_1.php
まとめ UVB-76の謎は解明されるのか?
ソ連時代から40年以上にわたり、世界中の短波受信家や軍事研究家が監視を続けているUVB-76。
冷戦時代から続く謎の軍用短波局が、まさかアニメソングやネットミームの標的になる。
2022年の一連の騒動は、UVB-76の長い歴史の中でも特に異色の出来事として記録されています。
UVB-76は謎そのものだけでなく、その周囲で起きる出来事も興味深い存在なのです。
しかし2026年現在、その正体はデッドハンドシステムの一部なのか、ナンバーステーションなのか、世界中の短波リスナーやアマチュア無線家が何十年も観測を続けているにもかかわらず、UVB-76の正体は依然として明らかになっていません。
4625kHzでは、今日もあの不気味なブザー音が鳴り続けています。次に音声メッセージが流れるのはいつなのか。

さて、実は短波の世界には『UVB-76』の他にも“怪電波”が数多く存在します。
短波帯(HF)は電離層で反射する性質があり、条件が良ければ数千キロ、時には地球の裏側からの電波を受信できることもあります。
特に夜間は電波伝搬の状態が変化し、昼間には聞こえなかった遠距離局が突然聞こえることもあるのが、不思議な自然現象の魅力なのです。

日本にいながら海外の国際放送を聞いたり(BCLという趣味)、遠方のアマチュア無線局を受信したりできるのもHFの魅力です。
そして、短波帯にはUVB-76のように正体不明の信号や用途不明のデータ通信、長年にわたって正体が判明していない無線局も存在します。

UVB-76が世界中の受信家の関心を集め続けているのも、そうした短波ならではの魅力があるからかもしれません。


























































































