残念ながら、パーソナル無線制度は利用者の減少と総務省の電波資源有効活用目的の周波数再編プランによって、平成27年11月で終了。
割り当てられていた900MHz帯域のいわゆるプラチナバンドは携帯電話会社に再配分となりました。
昭和57年から始まり、80年代から90年代にかけて一世を風靡した資格のいらないフリーライセンス無線、パーソナル無線。
1992年には利用者数が170万局を突破しています。
無線機を購入後、付属の申請書に必要事項を記入して提出し、許可を得るだけで使えること、しかも、見知らぬ人と交信をして楽しむレジャー目的使用、さらに業務にも使える利便性がありました。
自動車でも利用でき、最大5Wまで許可された送信出力を活かし、家や会社の屋根の上にアンテナを上げて「固定無線局」としての利用も可能でした。
一見、制約なしで多用途に使える無線制度に思えますが、警察や消防といった人命に関する一部の公務や、船舶・航空・鉄道・バスなどの交通事業には使えません。
総務省の無線局検索でパーソナル無線の登録局を調べると、登録者は個人のほか企業や、役場などの行政、教育委員会も含まれていました。
さらに無線機の改造、許可されないアンテナは禁止されていました。
また、アマチュア無線と違ってコールサインも付与されませんでした。
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当時のパーソナル無線制度
900MHz帯の周波数の電波を使用し、かつ、技術基準適合証明を受けた無線設備のみを使用する空中線電力5W以下の簡易無線局をいう。
周波数は903~905MHzの158チャンネルが使用できる。
※1999年当時の北海道電気通信監理局サイトより
903~905MHz帯域の飛びは?
パーソナル無線が使っていた900MHzという高い周波数は性質が光と似ており、直進性が抜群。
一方、ほとんど反射せず、障害物に弱いのがデメリットでした。
そのため、144MHzや430MHzといったアマチュア無線のバンドに比べた場合、交信距離は短いと言えます。
しかし、電波ですから全く反射しないことはなく、ビル街などでも数キロ程度であれば問題なく使うことができました。
もちろん見晴らしの良い高い山の上に登れば、200キロもの長距離交信が可能でした。
パーソナル無線機のROMとは?
パーソナル無線機を購入すると、開局申請書とともに小さなROMカードも付属していました。
開局申請を提出する際、申請書とともにROMカードを管轄の電気通信振興会に送付すると、ROM(ロム)カードには固有のコードが書き込まれ、免許状とともに返送され、ROMカードを無線機に取り付け、ようやく運用が開始できました。
本来、パーソナル無線はコールサインが付与されませんが、無線機それぞれのROMに固有のコールサインが記載され、キャリア(搬送波)と共に固有の信号(ATIS)が送出される仕組みです。現在のデジ簡のように、ATISによって、どの無線機から送出された電波か、当局で把握できたのです。
現在の携帯電話の『SIMカード』と似たシステムと言えますが、このROMは一度セットすると通常の方法では二度と取り外せません。
買ってすぐに誤って無線機にそのままROMをセットしてしまうと困りもの。
抜こうとして無線機を分解することは違法行為になり、その際はメーカー経由で有償で外してもらわねばなりません。
ただし、ロムをセットしなくても送信ができないだけで、受信することはできました。
このため、例えば、当時の八重洲無線の製品の説明書では、ロムが届くまで無線機の使い方を練習できると説明しています。
特徴的な群番号というシステム
パーソナル無線では「使用するチャンネル(周波数)を任意に設定できない」ことと、「群番号」という独自のシステムが特徴です。
このため、液晶表示には周波数やチャンネル番号ではなく、「群番号」が表示されていました。
したがって群番号を任意にユーザーで決めることはできますが、実際に使う周波数(チャンネル)自体は無線機が自動で決定します。
これはMCA無線特有のシステムです。
例えば、CQ呼び出しで使う場合、群番号00000を無線機に入力します。
これにより、同じ00000に合わせている他のユーザーがCQ呼び出しを受信することができるわけです。
同じ番号に設定されている無線局同士であれば、何局でも呼び出しが可能でした。
このようにして、各個人で、群番号をあらかじめ取り決めておけば、お互いに交信できるというのが、パーソナル無線の特徴です。
例えば27144という番号は多くのフリーライセンス局に認知されていますが、こちらの番号もやはり使われていました。
つまり、群番号はユーザー同士で共有できましたが、周波数自体は共有できなかったのです。
無線機と言うよりは、電話に近いものをイメージすると良いかもしれません。
実際当時のパーソナル無線機の呼び出しのコール音は電話機の着信音のような音でした。
このようなシステム上、とくにCB無線で顕著だったチャンネル占有が起きないメリットがありました。
開始当初は80チャンネルでしたが、昭和61年になると利用者増大に伴って152チャンネルに大幅増加されています。
このため、80チャンネル対応の旧機種と後発の152チャンネル対応の新機種ではつながらないというデメリットもありました。
結局は不正改造も
ところが、このチャンネル占有を防ぐという仕組みの群番号、結局はパーソナル無線登場から1年にして早くも一部のユーザーに不正改造された不法無線機(スペシャル機)が出てしまいました。
総務省総合通信局によると、俗に「スペシャル機」と呼ばれるパーソナル無線機とは以下の定義だそうです。
「ROM無し送信」「チャンネル固定」「指定外周波数の発射等が可能である」等。
https://www.soumu.go.jp/soutsu/tohoku/tetuduki/personal/
このような違法改造機によるチャンネル占有行為が横行し、問題となりました。
走り屋、トラックドライバーの愛好家が多かった

資格が不要のパーソナル無線。それ故に、誰もが気軽に使えた無線です。百万局突破は伊達じゃありませんが、とくに自動車を趣味とする人や、職業ドライバーの愛好者が多かったそうです。
トラックのドライバーでは、それまでCB無線を使う場合が多かったようですが、パーソナル無線に乗り換えた人も多くいました。
また、いわゆる峠を走るドリフト族たちもパーソナル無線を多用して、峠の上と下で道路情報などを共有していたようです。
映画にも登場
アマチュア無線の出る映画や漫画、アニメはありますが、実はパーソナル無線が出る映画も。
それが、1984年公開のメイン・テーマ(薬師丸ひろ子主演)。
海岸で出会ったワケアリ男女が4WDで旅をする切ない恋物語ですが、当時普及が図られたパーソナル無線が劇中に登場します。
ただ、主人公がおにぎりマイクで「ハローCQ、ハローCQ」と、CQを出すものの、パーソナル無線の実際の交信場面は省略。誰かが応答するシーンは描かれていません。
ただ、解釈としては呼び出しの後に、主人公とほかの若者らが楽しく遊んでいるシーンが描かれているので、旅先でのパーソナル仲間とのアイボールという解釈も。
物語終盤で、オレンジトップアンテナを付けたパーソナル無線仲間の車たちが集まってのお祭り騒ぎは見ものですが、やはり全体を通して実際の交信シーンがないのは少し物足りません。
なお、クラリオンのパーソナル無線機「シティーコール」のテレビCMで本作の一場面が使われています。なんだか電話機のような呼出音が、当時まだ保証金や月額料金などが高価で若者が気軽に手を出せなかった自動車電話をイメージさせ、それが当時の若者を魅了させたのかもしれません。
参考書籍【早わかりパーソナル無線】梅原敦 著
パーソナル無線のまとめ
このように80年代とくに普及が進んだパーソナル無線ですが、利用者は次第に減少していき、現在の900MHzという周波数は携帯電会社に再配分となったわけです。
現在、パーソナル無線の後継とも言えるのが、デジタル簡易無線の登録局制度です。
デジタル簡易無線の登録局制度もパーソナル無線同様に資格と免許が不要です。
届け出のみで業務、趣味の交信どちらにも使えることが法的に認められている便利な無線で、2023年にはチャンネル数の大幅な増加も行われ、利用者のさらなる増加が見込まれています。