災害時、アマチュア無線局は各アマチュアバンドに設定された非常通信用周波数や呼び出し周波数を聴取し、必要に応じて非常通信を行う場合があります。
この“アマチュア局と非常通信”に関連し、“非常通信の連絡設定を目的”とした重要な周波数である「4,630kHz(A一A電波四、六三〇kHz)」があります。
詳しく見ていきましょう。
※4630kHzの運用や有効性については、アマチュア無線局の間でも見解が分かれる部分があります。この記事は、現行制度および過去の法令に基づく情報を整理したものであり、特定の立場を代表するものではありません。客観性を保ちつつ適切に留保したものと思いますが、あくまで個人の一意見としてご了承願います。
非常通信における4,630kHの制度上の位置づけ
総務省令電波法施行規則では以下のように記載されています。
無線電信により非常通信を行う無線局は、なるべくA一A電波四、六三〇kHzを送り、及び受けることができるものでなければならない。
「A1A電波(形式)」とは、モールス符号(CW)などの電信に用いられる振幅変調(AM)の電波です。
また、無線局運用規則第百三十条および同第百三十四条では以下のように明記されています。
第百三十条 A一A電波四、六三〇kHzは、連絡を設定する場合に使用するものとし、連絡設定後の通信は、通常使用する電波によるものとする。ただし、通常使用する電波によつて通信を行うことができないか又は著しく困難な場合は、この限りでない。
第百三十四条 非常の事態が発生したことを知つたその付近の無線電信局は、なるべく毎時の零分過ぎ及び三十分過ぎから各十分間A一A電波四、六三〇kHzによつて聴守しなければならない。
つまり、4,630kHzは日本国内で自然災害などの非常事態が発生した際、アマ局が他のアマ局だけでなく、自衛隊などの救援機関とも非常時に直接交信する運用が想定されているわけです。
注意点
ただし、非常通信に関しては、「他の通信業務に優先して妨害を受けず、また妨害を与えることなく行うことができる」とされており、公的機関との直接通信を明確に制度化しているわけではない点に留意が必要と言えます。
ですから、「警察や海上保安庁、自衛隊と直接連絡ができて、救援が容易にできる」というのはあくまで概念であり、理想でありますが、明確に明示されていない以上、これらの機関側にとっては義務ではないと言えます。
このため、4,630kHzにおいても、その位置付けはあくまで連絡設定のための打ち合わせ用周波数です。
また、4,630kHzはCWモードでの運用が前提であり、音声による通信(SSB等)は認められません。そのため、実際に活用するにはモールス通信の知識と習熟、そして3アマ以上の資格が必要です。
ただし、引用した無線局運用規則第百三十条の通り「通常使用する電波によつて通信を行うことができないか又は著しく困難な場合は、この限りでない」とされていますので、他の周波数を使用することも問題ないと解釈できます。
特徴:4630kHzと他の非常通信周波数
1. 4,630kHz(モールス通信/CW)
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制度上の位置づけ:
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非常事態発生時にA1A(CW)で救援機関と連絡が取れる
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運用モード:
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CW(モールス信号)限定。
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使用資格:
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3アマ以上(モールス通信可能な資格)でなければならない。
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メリット:
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短波帯のため、電波が国内の広範囲に届きやすい。
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混信に強く、短文の情報伝達には向く。
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デメリット:
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電信の習熟が必要。
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自衛隊・警察など公的機関側にCW受信設備や人材が限られる可能性がある。
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実績:
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運用例は不明。災害時に実際に使われた明確な事例は不明。
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4,630kHz帯に関するアマチュア局の運用実態
4,630kHz帯は定期的な訓練にも使用されています。ただし、過去にこの周波数が実際の災害対応において運用されたかどうかについては、現時点で明確な事例は確認されていません。
また、この周波数をアマチュア局が使用するには、免許申請時にあらかじめ4,630kHzの使用を含めた周波数指定を受けておく必要があります。これは電波法およびアマチュア業務の運用規定に基づくものであり、無許可での運用は認められていません。
市販されている大手メーカー製のHF帯対応アマチュア無線機の多くは、技術的にはこの周波数に対応しています。
しかしながら、すべてのアマチュア局が事前に4,630kHzの使用申請を済ませているわけではありません。
結果として実際の災害時に即応できる体制が十分に整っているとは限らない状況です。
このような背景から、制度的に使用可能であることと、実際に現場で即時的活用できるかどうかは別の問題と言えます。
制度的意義と実効性の評価が分かれる点
というのも、その制度的意義について疑問視する意見も一部のアマチュア局の間にあるのです。
つまり、非常時であっても通信相手の側にモールス信号の運用スキルや資格が求められるため、実際に連絡が成立する可能性は限定的ではないかとの懸念です。
そのため、この周波数にこだわらず、災害時などの非常時においては、より平易な運用が可能な他の周波数帯(以下で解説)で対応すべきとする立場も見られます。

まとめ
要点をチェックします。
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4,630kHzは非常時の“連絡設定用周波数”として法令に定められている。
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非常通信でアマチュア局が使用できる。普段から訓練も行われている。
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しかし、現行制度には「公的機関がアマチュア局へ応答しなければならない」という義務はない。
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したがって、公的機関と“直接交信できる”という表現は 制度的保証ではなく、あくまで運用上の概念や理想である。
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非常時はUHFやVHFも実用的であるため、稼働できる無線設備を使い、音声通話(SSB、FM、デジ簡など)を用いて救援の通信を行うのが現実的。4,630kHzに必ずしも限定しない方がいい。
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アマチュア無線の非常通信活動では、「資格・設備・平時の訓練」がすべてそろって初めて効果が発揮されるため、制度と運用のギャップは大きい。
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実際の災害時には4630kHzに限らず、稼働できる無線設備を使い、音声通話(SSB、FM、デジ簡など)を用いて救援の通信を行うのが現実的。
つまり、4,630kHzの制度上の位置づけは、ある程度明確ですが、現実的な運用における有効性については「理想ではあるが……」として、評価が分かれているのが現状です。
災害時においては、4630kHzに限定せず、利用可能な無線設備と周波数を用いて非常通信を行うのが現実的かつ実務的な対応と言えるでしょう。
まとめると以下のようになるでしょう。






















































































































